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113 補佐

「あの方たちは…まだ居られませんか。了承はされてましたけど、いらっしゃるでしょうか?」

「私は別に来なくても構わないですけどねっ」


 約束を交わしきっかり二時間、訪れたクランヌが挨拶もそこそこに待ち合わせ相手について触れ、シルムがつんとした態度で返す。

 あの方とは当然ロクスとスティー。

 空間を出たら俺以外に姿はなかったので、何処かへ朝食を食べに向かったんだろうが…この二時間のあいだ、どう過ごしたんだろうか。

 

 俺とシルムは朝食を済ませたのち、みんなと勉強の時間に入った。

 勉強と言っても、年長組が小さい子に簡単な読み書きに計算に常識と、大事だけど生活する上での基本について。

 余所から来た俺は言葉は分かるけど、文字が書けず世情にも疎いので出番はほとんどなかった。


 シルムは間違えても責めたりせず、手本を見せ一緒に考え、正答に至ったら言葉と行為で努力を称えて、お菓子や献立追加のご褒美。

 目先に楽しみが控えていると気力が湧いて頑張れる。

 俺の場合、新しい銃を扱える予定があるときなどは自分でも分かるくらい作業が捗った。

 

 年長組もシルムに倣い明確な褒美のお陰で、のびやかな空気の中でもみんな自主的に取り組んでいた。

 根を詰めさせるのは厳しいので早々に勉強は切り上げ、次は本領とも言える遊びの時間に。

 

 場所は室内で折り紙、お絵かき、粘土の他に駒やサイコロを使った遊びなどの陣容。

 道具は寄付されることがあるのと、クランヌが試供品を持って来たりするそうで事欠かない。

 各自、好きな物で遊び始め、俺とシルムは順番に混ざって過ごした。


 みんな勢いがあって感化されて元気が出た。

 でも…一部には別にやりたいことがある欲求が垣間見えた。

 俺が話した怪我の応急処置について強い興味を示す子、自分で考えた服のデザインをしている子…


 専門の知識を学べる塾や教本は存在する。

 知識は財産なのでどうしても割高になり、追加で用意が必要な場合は物入りになってしまう。

 それが分かってるから明言しないが、違う形で想いが表れている。

 

 日頃シルムも兆しを前にして、叶えてあげたいと思い至ったのかな。

 我が儘過ぎるのも問題だけど、あの年代で我が儘を口にできないのも考えもの。

 関わりを持ったからには俺も成就させたいーーそのために問題を片付けてかないと。


「来なかったら来なかったで判断の要素にはなる、あの様子からしてすっぽかなさそうだけど」

「…センお兄さんは来て欲しいんですか」


 シルムが明らかに不快そうな顔で冷ややかなに言う。


「どちらかというと、周りでコソコソ動かれる方が困るんだよ。まだ分かってないことばかりだから」


 なぜ従者を名乗るようになったのか、追手をさせている組織の思惑は何なのか、どうやって俺のもとに至ったのか。

 スティーが今までと同じだったら遠ざけたが出方を変えた以上、見極めないといけない。


「噂をすれば来たみたいだ」

 

 薄らと気配を感じ、建物の前にいる俺たちの所へ姿を見せる二人。

 スティーは普段通りの澄まし顔で、ロクスの方は…何か思案している素振り。


「センさま、待たせた?」

「いや、ちょうど集まり始めたところ」

「…来たんですねー。何処かへ行ってもよかったのに」

「私への不満を利用してベタベタする獣を野放しにはできない」

「な、なんでそのことを……やっぱり覗き魔?」


 会って早々に強く当たるシルムだったが、スティーに非難されて動揺を出して呟く。

 俺も内心は近い状態、こちらであったことを言い当てているため。


 実際に勉強と遊びの最中、スティーに対抗心を燃やすシルムはほとんど俺にくっついていた。

 しかしどこかへ朝食に行って、合流したばかりなのに何でそのことを…

 調達してすぐ戻っていた? それとも時折チラつく影の存在が伝えた…?


「そっちも大変だったみてえだな」

「そっちも、って?」


 ロクスが俺の側に寄って来た含みのある発言。

 気になって問いかけると、げんなりした様子で話す。


「俺は軽食で適当に済ませたんだが、あの女は甘いモン巡りを始めやがってよ…しかもすげー量食いやがるから、見てるだけで胸焼けが…」


 その光景を思い出してかロクスはうげっと顔を歪ませる。

 …二時間のあいだ、どれだけ回ったんだろうか。

 そしてスティーは食事に掛かり切りだった、と。


「確かにそれは大変そうだ」

「付き合わされる身になれって話だぜ。まー過ぎたことはこれくらいにして、ちょっと疑問があってよ」

「そういえば何か考えてたように見えたけど」

「何でピッタリ着けたんだ? って思ってよ、時間通りなだけかって結論を出した。と思ったらあの女は状況を知っているような口振りだし、でもアンタらとは馴染みがない。意味わかんねーってな」


 こんがらがってるのはよく分かった、要するにスティーは何者って話か。

 それは俺の方が聞きたい。


「主のことを把握するのは従者の嗜み」

「聞いてたのかよ…答えになってねえが」

「そんなことよりセンさま」


 ロクスのことは意に介さず、スティーがシルムに人差し指を突きつける。


「アレは危険だから距離を取った方がいい」

「だから危険なのはどっちですか! それに指差さないで貰えます?」 


 競り合いにより解散する前の状態に戻りそうになり。

 ぱんぱんと、手を叩く音が響く。


「はいはい、センさんはお話をご希望ですわ。二人とも収めて下さい」

「…センさまの望みなら」

「いけません…つい熱くなっちゃいました」


 穏やかにクランヌが仲裁に入ると、大人しく従って引き下がるシルムとスティー。

 

「おお…お嬢様やるな。扱いを心得てやがる」


 取り成す役を買って出てくれるのはありがたい。

 クランヌの存在を頼もしく感じながら、話のために建物の裏へ。

 

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