112 仲裁
読んで下さりありがとうございます。
空間の出入口、異様な空気を目の前に立ち尽くすクランヌ。
いつもと同じくフリルの付いた腕先から膝下まであるドレスを身に付け、今日は青色が主。
手入れの行き届いた神秘的な銀髪の上部には精巧な髪飾り。
品のあるクランヌに合った華美な装飾品であり、付与によって俺とシルムと連絡が取れるようになっている。
ちょうど、ポルドの署名がある契約書を手に入れたと情報を送ったばかり。
それで程なくして、この朝の時間にクランヌが来たとなると。
「クランヌさんじゃないですか! どうしたんです?」
「…疑惑の片割れのお出まし」
「ああ、あの時のお嬢様か」
顔を突き合わせ牽制していたシルムとスティー、野次馬と化していたロクスも気付き三者三様の反応。
シルムは声に明るさと親しみを乗せて歓迎、スティーは何か警戒したような呟き、ロクスは…どうでもよさそう。
とりあえずーークランヌ、良いところで現れてくれた。
クランヌの登場により意識が逸れて場の緊張が緩和され、戦いが勃発しそうな展開が変化。
たぶん、スティーの匂いがローブに残っていたのが事の発端なので、関わっている俺が説得しても好転するか怪しかった。
どっちの肩を持つのかと余計に拗れてかもしれない。それも含めて偶然の介入は渡りに船。
「センさんから契約書を確保した便りがありましたので、頂戴に参ったのですけど…」
戸惑っていたクランヌが萎縮しながら言う。
…クランヌの視点が抜け落ちていた、呑気に僥倖なんて思ったことを反省しないと。
ここに来たのは順当に俺の伝達を確認したため。
しかし空間に入ったら何やら取込み中で、自分が邪魔してしまったように見えるだろう。
困らせて勝手に助かって済まないが、仕切り直しは避けたいから流れを利用する。
「便り? そんな素振り見てねーし手渡したばっか…てことはあのお嬢様の能力か? いや…報せがあったつーことは逆…伝える術まで持ってるのか、やっぱ面白れーな」
…ブツブツと一人で結論に至って、こちらに視線を注いで来る存在は置いといて。
「クランヌ、朝にも取引があるって言ってたけど、そっちは大丈夫なのか?」
「ええ。事件について各所へ通達がなされてますし、調整が可能どうか先方に確認を取って、事前に了承を得てますので。ゆっくりは出来ませんから、区切りを付けてこちらへ急ぎ参ったのですが…一報、入れておくべきだったでしょうか」
商売に携わってるだけあって先を見越した用意周到ぶり、取引先への根回しはばっちりみたいだ。
クランヌもポルドの企みに巻き込まれたばかりなのに、動揺を感じさせず配慮が行き届いている。
今も下手に出て上目遣いに窺っている。
「どうせ俺が止めるつもりだったから、むしろ…というか正直、助かったよ」
「そうでしたか…まあ、おおよその事情は察しましたわ」
シルムとスティーの方を一瞥して、納得と少し呆れ混じり。
クランヌも眠っていた間にあった顛末と、シルムの気が立っていたのを知っているから、俺と同じく想定してたのかな。
「それで、そちらが…」
このまま進行していい、いやした方がいいと判断してか、クランヌは不要な遠慮をやめて俺の手元を見やる。
「ああ、契約内容とポルドの署名捺印が記されてる文書だよ。見てもらった方が早いな」
持っている紙を半回転させて差し出す。
受け取ったクランヌは紙面に目を走らせ、手応えのある頷きをする。
「筆跡は定かではありませんが、印判はポルド伯のものですわね。沙汰を決めるのに十分な証拠になるでしょう。それとその当人ですが、身柄を拘束したと報告が入ってます」
「それは二つとも吉報ですね! 人を捕まえておく場所を、地域によっては豚箱って言うんですよねっ」
「ほーん、ガチで放置してても問題なかったな」
シルムがニコニコと含みがある発言、ロクスは一応は取り交わした相手なのに他人事で感心。
ポルドは裏に繋がりがあるとはいえ、表の方で幅を利かせていた。
その財産と言えるものが一気に失われるとなると、立ち直るのは難しいだろう、実態面でも精神面でも。
「こちらを持っていらしたのはスティーさんとロクスさん、でしたわね」
クランヌが二人の名前を呼びながら、それぞれに顔を向け、
「今後関係がどうなるか不明ですが、お礼申し上げます」
挨拶を告げると、腰を折って恭しく一礼。
言葉と動作が相まって、明言してないのに線引きがなされている。
「ま、そういう約束だったからな」
「上品…それに弁えてる。誰かさんと違って」
「あれー? 誰かさんじゃなくて、自分じゃないんですか?」
「心当たりあるでしょ?」
再びピリピリとし始める空気。
順調に行っていると思ってたが、中断しただけでまだ燻ってるか…
「そういえば貴方たち、何やら揉めていたみたいですけど」
クランヌ? 何で煽るような真似を…
「そうなんです、あの色情狂がーー」
「それよりもシルム。ここにはセンさんを朝食に呼びに来たのでしょう? 建物の方でそう聞きましたけど…あの子たち、待ってますわよ」
「あっ、そうでした! みんなに怒られちゃいますっ」
世話を含め準備を済ませてから来たとなると、俺が最後になるわけで、この間も待たせてしまっている。
確かにシルムなら、すぐ食事に取り掛かれるよう整えてそうだ…みんなに謝らないとな。
「そういや俺らも食ってねーな。夜行したし腹減ったわ」
「私は別に…ちゃんと食べなさい? いつも言ってる? ああわかったから」
帰って来たロクスたちも朝飯は取っておらず、スティーは謎の人物? に諭されている。
「ということで御飯と所用を先に片付けて、二時間後にもう一度集まりましょう。その時間なら空いてますので」
「はいっ、そうしましょう! 先に行くので、センお兄さんも早く来てくださいね!」
すかさず強引に取り纏めてしまうクランヌ。
シルムは賛同を示すと慌ただしく出入口に向かい、そう言い残して一足先に去る。
「…仕方ない、出直すとする。センさま、また後で…ほら早く」
「はいはい行けばいいんだろ。どう食い下がるか興味あったが、しゃーねーか」
不承な態度のスティーに急かされ、ロクスは軽く愚痴をこぼしながら続き、二人はこの場を後にする。
どう食い下がるか…戦ったときの勝敗が分かっている口振りだ。
まあ率直に言って…シルムじゃスティーには勝てない。
シルムはまだ新参だし、追手の一人であるスティーは対人戦を知っている。
それに実力も相当…俺とロクスの戦いに乱入した際の一撃は、あの頑丈なロクスが慌てて回避する鋭さ、威力を秘めていた。
追手には数回襲われたけど、あんなに腕が立つ相手いなかったのに。
「…保留になりましたけど、間を挟めば多少落ち着くでしょうし、私も同席いたしますので」
空間の中には俺と、こちらを労わる優しい笑みを浮かべるクランヌ。
最初はどうして焚き付けるのかと焦ったけど、考えがあってやったのか。
「突然のことだったのに、気を回してくれてありがとう」
「お安い御用です。センさんにはこちらを頂きましたし、他にも……いえ」
言葉を途切り難しい表情で逡巡、首を振って払い、
「私も失礼させて頂きますわ」
結局、何も言わないまま律儀に会釈して外へ。
気負ってたみたいだけど、やっぱりクランヌも事件の影響で動揺があるのかな…。
……。
「とりあえず…飯にするか」
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