111 敵対
「……」
「……」
シルムとスティー、出会って早々に睨み合い、対峙する両者。
前者は丸く愛嬌のある銅褐色の瞳を細め敵意を露に、後者はもともと切れ長で無感情な菫色の瞳がより冷たさを帯びている。
仲裁に入っても無駄に終わりそう。
その気配を感じ取ったのか、関わりたくないのか、ロクスは背を向けて寝っ転がっている。
シルムと二人は初対面なんだが…前日に話したばかりだから、状況を見て件の追手黒衣だと判断したか。
それでスティーは俺のローブに匂いを付けた当人ーーよろしくしてた訳ではなく、止むを得なかったと伝えてあるけど、過去も鑑みてシルムは反発をそれなりに抱いている様子。
スティーの方は…よくわからないけど、凄みを利かせたのは対抗してではなく自発。
つまりシルム相手にそうする理由があるということ。
…おかしくないか?
二人に面識はなく会うのは初めてなのに、シルムは事情を知ってるからまだしも、スティーの方に因縁があるのは妙。
可能性があるとすれば、直接はなくとも間接の関わりがあるとか?
俺はスティーがこっちにいつ来たのか、目の前に現れるまでどう過ごしていたのか知らない。
その期間に遠因が生じる出来事があったのかも。
しかしそんな反感を買うような、しかも対象がシルムなんて偶然が…?
何かしらの事情があるのは確か。
じゃないと今にも一戦交えそうなこの物々しい雰囲気には至らない。
…もう止められそうにないし、割り入る用意だけしておこう。
無言のまま一歩も動こうとしない二人。
静けさが不穏さを際立たせ、客観の立場にいるのにどうしてか板挟みにあっている気分。
目線を外すとやっぱりロクスは不干渉の姿勢、そんな中ついに二人が口火を切る。
「及第点ですね…」
「暫定…」
発せられたのはどちらも相手を評価するような謎の一言。
さらに否定的な口調も同じ…険悪だから自然なのかもしれないけど、まるで示し合わせたみたいだ…
「何です?」
「何?」
二人とも気に障ったらしく片眉をピクリと動かす。
そして黙っていたのが嘘のように、
「感付かれてないからって、随分とお楽しみね」
「…はて、何の話ですかねー」
「事あるごとに一人で盛ってる癖に」
「ああそれって、懲りずにお尻を付け回す変態のことですか」
「…白々しい。でも所詮は、お子様の戯れでしかない」
「はー? 乏しい誰かさんと違ってこっちは量感ありますが?」
「ふん…響かなかったらそんなもの唯の飾り」
「くっ…飾りでもないよりあった方がマシですけどー」
バチバチと喧嘩腰の応酬をするシルムとスティー。
だんだん勢いが強くなり、丸く収まる見込みは全くない。
にしても…言い回しが互いに、理解はないけど分かっている感じ。
やっぱり俺が知らないだけで、二人には接点が…?
「眠ったらどうです? まだ育つ望みはあるかもしれませんよ」
「誰が。拘るなら自分がすればいい」
「…このままだと埒が明きませんね」
「…その意見には賛同」
溜め息まじりにシルムが言い、頷いて目を伏せるスティー。
啀み合うのを止めて落ち着き…そうにはないな。
譲歩したように見えて殺伐とした空気は依然としたまま。
「お盛んな雌が傍にいると身が危ない」
「いつタガが外れるかわからない万年発情は隔離しませんと」
「私とやるつもり?」
「試してみます?」
主張と挑発で締め括り、そのまま自然と戦いの流れへ。
五指を開くスティー、シルムは腰を落とし、一層の気迫で構えを取る二人。
予想通りの局面を迎えたか…対立しながらも、ある意味通じていたからもしかすると…なんて期待が僅かにあったんだけどな。
「お、戦闘が始まる予感」
気配を感じ取ってか、寝っ転がっていたロクスが嬉々として身を起こす。
戦うのが好きであると同時に、観戦するのも嗜みらしい。
俺が黒衣たちと死合ってるのを隠れて見ていた。
目的は力量を測って戦う相手の物色なのかも?
まあその気になってるところ妨げてしまうが、これ以上は続けさせられないので仲裁に入る。
一定の距離で追いかけられていた以前ならいざ知らず、スティーは俺に接触を図り、命令に従うと従者宣言、約束通り契約書を持って帰還した。
一度だけとはいえ成果であり事実。
とりあえず処遇を決めるのは保留にして、警戒を解かず様子見。
なので実害が出て決定的に二人の関係が拗れては支障を来す。
仲良くしてとは言わないし、相容れないならそれでいいけど、いちど落ち着いて話を済ませ、戦うにしても取り決めをしてから。
開戦手前の急場に割り入ろうとすると、新たな人の気配、
「失礼しますーーどういった状況ですの…?」
入口には律儀に入って来て顔を上げ、只らならぬ雰囲気に当惑するクランヌの姿が。
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