104 鎧通
読んでくださりありがとうございます。
両手のハンドガンがぱっと消え失せ、新たに手に収まる二つの硬質な感触。
寸法は拳銃より少し大きい程度だが、トリガーガードの前方から下に突き出ているマガジンや、熱が生じても扱える等の利点で付いているファアグリップなど、ハンドガンとは異なる要素が盛り込まれた別種の銃。
短機関銃ーー通称サブマシンガン。省略してサブマシと呼ぶのが主流。
例の如く消音器が取り付けられた新たな二丁を提げ、黒衣と相対する。
「ほー、さっきのとは雰囲気が違うな。どんな違いがあんのかねえ」
牙を剥くかもしれない武器の出現にも関わらず、片方だけ露出している目を細めて嬉しそうに興味を示す。
へらへらと好奇心を前面に出してはいるものの、警戒心も持ち合わせており単調な攻めでは読ままれてしまうだろう。
調子そのままに構えてくれればいいのに。
「見れば分かるよ」
「間違いねえ、なっ! ーーやべっ」
話を区切り、急始動で機先を制しようとする黒衣。
その動きを察知した俺は瞬時に銃口を向け、咎めるようにトリガーを引いて維持する。
ーーこのサブマシは『カスタム』により毎分1500発、秒で25発の改造が施されていて、両手持ちのため二倍。ちなみに装弾数は50発。
片手で打つのは本来、重量と反動で目も当てられない結果に終わる所だけど、それも『カスタム』のお陰で調整され、必要なのは照準を合わせ放つことだけ。
先程とは比べ物にならない、黒衣へと殺到する弾丸。
出鼻を挫かれ、前のめりだったため回避に移る間もなく、急いで反れるが大半の直撃を許してしまう。
「うっ……ん?」
胴体への集中砲火に体を曲げて呻く黒衣だが、直ぐに平気な様子になって妙だと気付く。
着弾した無数の弾は内部に至るどころか傷を付けておらず、勢いを失って次々と落下し、金属音を立てて行く。
服の方も無事で、黒衣は代わり映えしない結果に違う意味で目を細め、
「おいこれーー!?」
抗議の声を発し顔を上げた直後、目を見開いて言葉を失う。
随分と驚いてるな。まあ、俺の動きには感付いてなかったしな。
黒衣が自分の検分してるのを余所に俺は撃ち切った銃を別のサブマシ…グリップに弾倉の挿入口がある型式の物に交換。
既に引き金に指を掛け、力を込め第二射を放ったところ。
再び同じ箇所に押し寄せる無数の弾丸。
姿勢は直前よりマシとはいえ、意表を突かれ、そもそもマッハで迫る攻撃を躱すのは不可能に近い。
それでも驚異の反応で、腕を交差して庇いつつ逃れようとする黒衣に対し、動きに銃口を合わせ全弾見舞い、また多数命中させる。
…命中させはしたが又も害することはなく、きんきんと弾と床による音の連続。
構えを解いた黒衣は今度は見向きもしない。
「やってくれたな…一切効いてねーけど! てか数は一気に増したけど、よく見たら全く同じもん飛ばして来てねーか?」
「目がいいな。その通り、武器は変わってるけど撃ち出してるもの自体は一緒」
基本的にサブマシに用いられているのはハンドガンの弾。
拳銃弾を全自動発射できる銃をサブマシンガンと呼ぶんだから、当然と言えば当然。
一応、銃身が長い方が火薬の推進力をより得られるので、多少威力はハンドガンより高い。
「物量で押し切るつもりだったのか? 生憎、俺はピンピンしてるぜ。残念だったな」
「残念と言うほどでもないけど。下地にはなってるし、ほら」
「…ほーん、めんどくさいな…」
二人の間の床を示すと、状況を見て頷き納得する。
そこには転がったり弾き合って点々と散らばっている、底面は円形で先は丸い傾斜の弾丸。
一つ一つは小さいが、桁が桁なので足場を狭めており、移動の妨げに一役買ってくれる。
薬莢も合わせたら相当な規模になっていたが、自分の首を絞めかねないので消してある。
「つっても、まだ一撃も貰ってないようなもんだからな。やっぱ条件のせいで攻めあぐねてるか」
「まあまあ、まだ試し終わってないんだ。結論を出すには早い」
『コール』で片手にハンドガンと、もう片方は新たなサブマシへと切り替える。
「はっ、そんな悠長でいいのかよ? 俺は適応して来てるってのに」
斜め、前、横と自身の言葉を証明するかのように、踏みどころへ俊敏に移る。
ただ制限されている都合上、動きを予測しやすくはあるため。
迎撃にサブマシ撃ちっぱなし、ハンドガン数発。
黒衣は胸部を守り、姿勢を低くし最低限の回避行動。
腕と腹部に集中する弾丸、結果は同様で、脅威にならないと見てかそのまま詰めて来る。
またサブマシ二丁持ちで応戦、至近距離ゆえ当たるのを割り切ってるらしく、胴への連射を物ともせず間合いに至り。
「オラっ!」
今まで好き勝手やられた鬱憤を晴らすかの如く、気迫を乗せた拳が放たれる。
俺は攻撃をやめ重い打撃を躱すも、続けて右左、蹴りも繰り出され猛攻。
受け止めても怪我を負いそうだな…流石に加減はしてるとは思うけど、避けるのが無難。
見切りに専念して凌ぎ脇腹に蹴りが放たれた瞬間、逆の方へ体を開いて、流れで弾丸区域へと身を投じる。
着地の直前に邪魔なものだけ除いて安全を確保。
「ずっるいなおい」
「こういう利用の仕方もできる、使用者の特権さ」
「んで、更に追加と。やれやれ」
黒衣が度外視で受け止めたことによって、減るどころかむしろ散らばりは増した状態。
いつでも消せる俺とは違い、あっちは立ち回るのに苦労するはず。
(当てたのは約300発に3発…別の方法も考えておくか)
「だがもう大体掴んだぜ。まどろこしいのは無しだ!」
最初を彷彿とさせる、床を強く蹴っての突撃。
しかし醜態を見せた時とは打って変わって、速度を出しながらも振り回されておらず、低空で飛び越えながら真っ直ぐ俺のもとへ。
確かに無視できているが空中ではいい的、撃ちつつ限界まで引き付けて場から退き、その手前で黒衣が一瞬顔を顰めたのを視認。
ようやくか。
「まだまだ!」
再度、逃れた俺を追っての飛び掛かりに、横へ飛んでわざと隙を晒しつつ発砲。
今までの流れからすると好機だが、追撃を仕掛けて来ず留まっている。
らしからぬ様子に確信を抱く。
「どうした」
「…なんでもねー。なんでもねーが…!」
眉間に皺を寄せ、次は不規則な今日一番の高速移動。
俺はハンドガンとサブマシの組み合わせに変更。
銃口を向けると黒衣は屈味、あまり防御には使っていなかった右腕で胸の前に持ってくる。
「アンタが胴体ばっかり狙ってるのは見抜いてるぜ」
対策は完璧だと言いたげな主張を気にせず、俺はハンドガンを三連射、それからサブマシをフルオート。
「っ、ぐっがあああああああ!!」
1発2発と怯み耐えたものの、3発目と銃弾を浴びせられると、今までの反応とは全く異なる、広いホールに響く苦悶の声。
身体のあちこちで発する痛みで操り人形のように奇妙な挙動をして、堪らず黒衣は後方へ大きく退避する。
「はぁ…はぁ…いってえ…何で急にこんな…」
表情を歪ませ、途中からするのを止めた身体の確認をしている。
相変わらず無傷で、特に異常も見当たらない、なのに強い痛みを訴えている。
いくら見ても分かる訳が無い。
その痛みは内部から発しているんだから、魔弾によって。
用いたのは『鎧通』と『累積』。
『鎧通』は対象のあらゆる隔たりを無視して、内部へ衝撃を与える。
どれだけ頑強な防具を付けていようが、分厚い鱗に覆われていようが関係なく、弾頭の先にある体内へ直接攻撃。
付与された弾丸は性質が変わり、着弾するとその場に留まって衝撃を内部へ透過させ、終わると自由落下。
表面に対しては軽く突いた位の影響。
『累積』は付与されている効果の補助で、弾を当てれば当てるほど威力を底上げしてくれる。
これまで平然としていた黒衣に通用するようになったのも『鎧通』の力が強まったため。
複数のサブマシを使ったが装填されているのは共通で、悟られないための仕掛けであり、狙いは一貫したもの。
幻痛と違い負荷が掛かるので許容範囲の見極めが必要。
だから上がり幅を少なくしてあるサブマシで様子見しつつ、大きい設定のハンドガンを適宜追加、謂わば燃料。
相手に異変生じたら、一息に燃え上がらせて圧倒する流れ。
しかし1発が微々たるものとはいえ、大量に弾を要したな…元の世界だったら片付けるのが億劫になっているところ。
甲斐あって、既に1発1発が黒衣にとって脅威に変貌。
まだ弾は残っているが、とりあえず打ち止め。
過剰なのは危険なのもあるし、暗に告げているんだ、もう十分だろうと。
呼吸を整えている黒衣を待っていると、奴は手で顔を抑え、大きく息を吐く。
「はあ…どんな仕組みか分からねーが、こうも一方的にやられちまったらな…」
「満足できた? だったらーー」
「抑えられなくなるだろうが?」
直後、黒衣の気配が膨張、のし掛かる重圧。
それを受けて俺は真っ先に大きい溜め息をしたくなったが、呑み込み。
「一応聞くけど、やる気か」
「それは野暮ってもんだろ」
さっきまであんなに苛まれてたのに、今は闘志を迸らせている。
耐久力といい、復帰する早さといい、出鱈目。
頭の中で警鐘が鳴ってるし、はっきり言って相手したくないけど…一度戦わないと収まらなさそう。
俺が応じる気配を読み取り、金色の瞳をぎらつかせ獰猛な笑みを深める。
「少し、飛ばしても構わねーよな!?」
(仕方ない、俺もーー)
そう覚悟を決めた所で。
バン! と玄関のドアが破られる音が響き、俺たちは揃ってそちらを向く。
入口から瞬く間に駆けて来る一つの影。
「うおっ!」
影の主は離れた所から黒衣に対し手を払い、黒衣は驚きつつ後ろに跳ぶ。
元いた場所には極薄の線が幾つか走っており、その手前に陣取るすらっとした人の姿。
身体のラインがはっきりしたスーツに身を包み、紫の髪を一つに結んだ女性。
「どうして、ここに…」
この気配…俺は知っている。
差し向けられた追手が段々と数を減らして行く中で、最後の一人になっても俺を追い続けていたーー。
素性を見たことはないけど、間違いない。
「会いたかった、センさま」
俺の方を向いたと思ったら、直ぐに顔だけ横に逸らし、彼女は言った。
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