98 殲滅
読んで下さりありがとうございます。
シルムとクランヌたちを送り届けた前後。
沈黙を保っていた黒衣らの少数に動きがあり、よろけつつも壁や地面に手を付いたり、手で空を切るなど何か目論んでいる素振り。
「…!?」
しかし目に見えた変化は起きず、どうやらそれは奴らにとって想定外の事態のようで。
顔を上げる、右往左往、再度試す…表情は隠れ口を開かないが、手に取るように分かる、敵前では秘めておくべき焦燥ーー。
パパパン!
そこへ弾丸が襲いかかり、気を取られていた者たちは撃ち抜かれ、轟く重なった銃声。
硝煙が立ち上り、火薬の香りが鼻腔へ流れ込む。
両方手にしたハンドガンいつもと違って消音器が無く銃口が剥き出し。この運用の方が有利に働くと見込んでーー片方だけ切り替え、斜め後ろの床に一発撃っておく。
弾丸はいずれも致命傷となる箇所を通過していて、その証拠にじわじわと血が広がり、倒れたまま完全に沈黙。
付近で死の気配を感じ取り、隙を見せた奴にも透かさず撃ち込み、同上の結末を与える。
しかし例外もあって、確かに着弾したにも関わらず出血はなく、静かに姿を消す黒衣もいた。
幻か分身か、とりあえず本体はまだ存命だが…
(もう介入しては来なさそうだな…これは)
直前の様子からしても、助勢にやって来る線は薄い。
そもそも奴らが行動を起こした狙いは大方、いや、確実にこの場から引き下がるため。
どうして断言できるのかというと、試みが不発に終わり無防備になったのは…俺が他に仕込んでいた妨害が働いたと考えるのが自然。
ポルドが逃げ道を封じたように、こちらも手を打たせてもらった。毛色は異なるだろうが。
閃爆を浴びた者は同時に『必定』の影響を受けており、この場からの逃亡を禁じられている。
分が悪いから引くと判断するのは可能。
でも、いざ行動に移そうとすると体が言うことを聞かず、魔法や能力に頼ろうにも後退の意図があったら発現しない。
俺が離れるか倒れるか、それまでは術中に嵌まり続け、消去法で採れる選択肢は一つ。
そんな説明をする訳もなく、仲間との連携も儘ならず、思考が追いつかなくなり放心の結果、辿った末路。
早々に撤退を決めたのは良かった、しかし酷な話だが、詰めが甘かった。
少しも迫ることなく撃退された以上、秘策でもない限り乗り込むのは蛮勇。
仲間想いなら無理を押してでも来るだろうが…こいつらは人情家とは逆の柄だと思う。
だから冷淡に捨て置く判断を下すというのが見解。
それに…駆け付けるには随分と遠方にいるみたいだし。
さて、敵の数は半分ほど削れ残るは10人くらい。
まだ閃爆の効果は残留していて、最初の獲物を前にした狩人の如き殺気は何処へやら、静かに立ち竦んでいる。
むしろ動き難くなってるまでありそう。
視覚聴覚が封じられ自ずと他が鋭敏な今の状態だと、慣れた血の匂いも強く感じられることだろう。
突然の不調にもどかしい中で不安を煽られ、生命の危機に警戒を強めるので手一杯。
数の差こそあれ、主導権はこちらにあると言っていい。
とはいえ、認識を改め備えられているのは少々厄介ではある。
手当たり次第に弾丸を放っても成果は望めない、銃弾を躱した手練れも残ったまま。
先に主力を潰すのが理想ではあるが、数を減らすのを優先した。
(どう切り崩すか…あんまり悠長にもしてられないし)
候補を思い浮かべていた折。
どすっ。
嫌な音が耳朶を打ち、そちらに顔を向けると、背後に黒衣の姿と背中に突き立てられた短剣。
深手を負わせ、黒衣は布越しでも分かる愉悦を発露させーー直ぐに異変に気付き、後ろに飛ぶ。
それから崩れた物から抜き去った短剣で自分を刺そうとし、寸でのところで手を止める。
…どうやらギリギリ察したみたいだな。
何故か、自分の身から俺の存在を感じることに。
まず、奴が刺したのは土魔法で俺を模した土像。
前もって魔弾を床に放ち生成しておいた物。
そして、あれには『変位』が付加されている。
『変位』は俺が発する音、匂い、気配などの様々な情報を全て対象に移す。
つまり、視覚を封じられた連中からすると、土像こそが本人だと錯覚してしまう訳だ。
本来なら一目瞭然で、奇怪な光景なんだけど。
あと変位には特徴があり、最初に攻撃した者は自動的に役を引き継いでしまう。
自分自身の情報は遮断されて。
それが何を意味するかと言うと。
「…っ!」
奇襲が失敗に終わったと踏んで、一緒に潜んでいたと思しき二人も床から背面から現れ、同僚に向け斬撃を繰り出す。
立ち直りが早いのと手の内を知ってか、元の位置へと戻るようにして避ける。
俺は囮を除いて発砲、残り8。
続けて、前方から凄まじい勢いで捨て身の突撃が襲来。
勿論、俺にではなくあちらに向かって。
さながら闘牛士のように躱し、勢い余って進む先へ射出。残り7。
今度は意味を為してない複数の透明化による波状攻撃。
短剣で強く弾き、体勢が崩れた所で引き寄せて自分の盾とし、3人目の攻撃は浅く切り付けられながらも身を捩って何とか凌ぐ。
大体の当たりを付けて連射、残り4。
「……」
(相当なやり手を引いたみたいだな)
荒い息をする姿を見ながら、僥倖を実感する。
渦中にありながらも落ち着いた対処、思えば土像に違和感を抱いてからも素早かった。
残り僅か、この調子で行けば……そうは上手く行かないらしい。
虚空から多数の鎖が出現、搦め取ろうと襲い掛かる。
疲れた肉体でどうにか逃れようと足掻くが、腕に引っ掛かり、そのまま四肢を拘束される。
見れば3人の内1人が両手を突き出していて、おそらくあいつの仕業。
術者を狙い眉間を貫くが、その直前で鎖とは別の尖った金属も虜囚を貫き絶命させた。
鎖が消失、ドサッと二つの物音が立つ。
相手からすれば相討ちだが、こっちとしては同士討ちで手間が省けた。
残り2。
変位が効果を失い、俺の生存を理解して片割れが床を蹴って来る。
短剣を真っ直ぐ構え、破れかぶれの突進。
それに銃口を向けて指を掛けーー発砲はせず、自ら当たりに行くように体を横に開く。
すると凶刃は害することなく透過、その横を背面から刺突しようとしたもう一体が通過。
俺は後者の後頭部に向け今度こそトリガーを引く。
読み通り正面は幻覚で、こっちが本体。
余りにも愚直な攻撃、動いた様子はなかったのに付近に潜んでいた数々の敵。
根拠を元に幻術の主はこいつだと結論づけた。
残りは、1。
そちらを見据えると静かに歩み始め、徐々に速度を早め接近。
牽制程度に撃つと、相手は躱そうとせず手刀で断ち切り、なお迫る。
接近戦に持ち込まれ、力を纏った怒涛の突きが放たれる。
一撃一撃が致命の脅威、回避に集中。
その最中ーーやはりまだ身体の違和感は抜けきってないらしく、バランスを崩し少しの隙が生じる。
見逃さず足に一発撃ち込んで抑止し、こめかみに銃を突きつけ、
「これで最後」
火を吹いて打ち抜き、血液が辺りに飛び散る。
辺りを見回すと惨状の一言。
散らばっている屍、豪華なカーペットは滲み、反射する床は点々としている。
俺は特に感慨を抱かず、ハンドガン片手に壇上へと足を進めた。
駆け足になってしまいましたが、年明け前に何とか更新。
来年もよろしくお願いします。
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