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9 異変

 孤児院でもうすることはなく、長居してもしょうがないので、挨拶を済ませお暇した。

 早い内にシルムの協力が得られたこともあって、午後からの時間はフリーになった。

 明日から特訓を始めるが、前からプランは練ってあるので、今準備するものはこれといってない。


 それで空いた時間をどう使うかだが、魔物を狩りに行くつもりだ。

 前の世界と似たような魔物もいるものの、知らない魔物も多数存在している。

 

 ギルドの書物庫に魔物と戦った時の所感や特性を記したものはあるが、その内容を鵜呑みにして慢心するのは危険。

 こういうのは自分自身で経験し、それで得た情報と照合するのが大事。


 向かう場所に選んだのは、最初転移してきた蒼然の森。

 理由としては人があまり寄り付かないというのが大きい。

 ソースとなっているのは、昨日の酒の席でティキアから聞いた蒼然の森について。


 蒼然の森は広大な大森林で、所々に木が生えて開けた場がないため奇襲を受けやすく、察知や探知のスキル又は魔法持ちは必須。

 一度分断されると合流するのも難しく、大人数だと逆に動きにくくなるので、推奨されるのは少人数で連携の取れるパーティー。

 出現する魔物はCランク以上なので実力も必要。


 これらの要因があるので限られたパーティーでしか挑めず、深部を目指す場合は尚更らしい。

 

 (一人で森を抜けてきたの誤魔化しておいて正解だったな)

 

 足を踏み入れるのも珍しいそうなので、俺にはうってつけと言える場所。

 だが珍しいだけであってゼロでは無く、行商人のロアンさんのように森近くの街道を通る人もいるので、遭遇したり一人で入るのを目撃されるのは面倒だ。

 なので直接行くのではなく、別のアクセス方法で向かう。

 そのために、まずは宿屋の自分の部屋に戻る。




「あ、センさんおかえりなさい~」


 宿屋の中に入るとカウンターにいる女性から迎えの挨拶がかかる。

 その女性はティキアの妻であるリームさんである。

 ゆったりとしていて優しげな印象の綺麗な女性で、間延びしている語尾が穏やかさを強調している。


 ティキアはギルドの依頼で出払っているようで、そのときはリームさんが受付の代行をするとティキアから聞いている。


「ただいま戻りました。いきなりですけど、部屋に戻ってやらないといけないことがあるので、放っておいて下さい」

「わかりました~。レンリィにも言っておきますね~」


 この宿屋は一室ごとに錠が取り付けられているので、中を見られることは無いだろうが、呼び掛けられたりすると困る。

 一度だけであれば、寝ていたので反応できなかったと嘘を通せばいいが、複数回呼び掛けられた場合は無理がある。

 特に少し仲良くなったレンリィが押し掛けてこないか心配。

 だから、前もって非干渉でいることを頼み込んでおく。


「それではお願いします」


 預けておいた鍵を受け取って自分の部屋へ。




 部屋に入ってまず鍵をかけて、鍵は備え付けのテーブルの上に。

 腰にある革袋の中に手を入れて取り出したるはネックレス。

 アクアマリンを一つ添えただけのシンプルなものだが、もちろんただのネックレスではない。

 

 これには転移の魔法が付与されていて、一度現地で見たところであって別世界でなければ、コスト無しで転移することが可能、しかも回数無制限。

 造り上げるのにかなりの時間を要したがそれは別の話。


 このネックレスを用いて宿屋から蒼然の森に転移するのだが、一度転移すればそこはもう敵地と化す。

 前と同じような状態にしつつ、いつでも対処できるように万全を期して臨む。


(探知魔法とハンドガン、それから・・・ショットガンも出しておくか)


 探知魔法は半径50メートルにして、ハンドガンはワンショットで倒せるほぼ最高強化仕様を右手に。

 ショットガンは緊急用で、銃身を小さくした、片手で撃つことができるものを左手に。

 威力はマグナム弾を使った銃の方が上だが、数体を相手にすることを想定してショットガンにしておく。

 

 準備は整ったし、ちょうど転移に都合のいい位置があるので、そこを座標にする。

 ネックレスを身につけて場所をイメージしながら、心の中で唱えると発動する。


(行くか・・・転移)




 肌で感じる空気と、匂いが草木のものに一変。

 前を見ると昨日目にしたばかりの、遠くに街道のある風景が広がっている。

 そう、ここは出口の方向を知るために登った木の枝。

 あと上の方に転移したのは当たりで、下の方に反応が3つある。


 下を覗くと、体毛で覆われた3メートル近くはある巨体に、腕は長く幹のように太いゴリラのような魔物がノロノロと歩いていた。

 戦ったことのある魔物で、名前はラピテアプス。

 書物庫で得た情報によると怒りっぽく、いったん荒れると止まることを知らない生態。


 この数ならショットガンは必要ないのでしまっておく。

 ハンドガンのヘッドショット一発で倒すことが可能だったので、こちらの逆に向かって歩いている今が狙い時。

 射線を遮るものがないか確認し、3体の頭部に向けて3連発。

 間断なく放たれた3発の弾丸は、ほぼ同時に着弾ーーーしたが、鈍器で殴ったような衝撃を与えただけで貫くことは叶わなかった。


(何故だ?というか最近似たような光景を見たばかり)


 しかし、銃に間違いはない。

 弾丸を受けたラピテアプスは驚いた反応を一瞬だけして、すぐ怒り狂って暴れだした。

 上に位置取っているのと、消音器の効果により俺の場所は把握していないようだが、見境なく周りの木に突撃し始め、その内の一体が俺が登っている木に向かってきた。

 

(前よりスピードも上がっているな・・・)

 

 焦っても仕方ないので乗れそうな他の木の枝に避難する。

 目をやると激突された木は倒れはしなかったが、衝撃で激しくがさがさと揺れ、まるで悲鳴を上げているようだ。

 どうやら飛び移った際に視認されたらしく、憤怒の形相でまとめてこちらに向かって来ている。


(また体当たりか・・・?ならば『コール』!)


 再び距離を取るため跳躍を行いつつ、空いている左手にマグナム弾が装填されたハンドガンを出す。

 ラピテアプスたちに背を向けたまま、左手だけ後ろにやって銃を構え、敵を見ることなく連続発砲。 

 すると枝に足を掛ける頃には3つの反応は探知魔法から消滅し、そのあとすぐに、ドサドサと地に伏せる音が重なって響く。


「やっぱ強いなこの組み合わせ」


 倒せない場合を考慮して離れておいたが、杞憂に終わった。

 探知魔法により敵の居場所は手に取るように分かるので、見ていなくても撃ち抜くことが可能。

 だが、形までは把握できないので、その点に関しては努力と経験の賜物。


 地面に降りて死体を確認すると3体とも頭部をぶち抜かれ、うつ伏せに事切れている。

 ハンドガンでワンショットキル不可の、1ランク上に対して用いていたのがこのマグナム弾。

 マグナムだけあって威力は破格、『カスタム』によって反動が抑制されいることで、連続して撃つ荒業を可能とする。

 『カスタム』は元の世界では机上の空論で終わるようなことを実現させてしまう。


 さて、今回の戦闘から読み取れるのは魔物のランクアップ。

 それは進化によるものか、外部から何らかの干渉によるものか。

 後者であってほしいのが俺の本音。


 同一の個体でも多少の違いがあるのは事実だが、ランク変動するほどの事例は確認していない。

 そういうのは変異種のように、目に見えて姿が変化しているのが普通。

 不変のものがあるとは思っていないが、認めてしまうと今まで培ってきたものが覆ってしまう。

 

(辺りを探ってみるか・・・)

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