0 はじまり
初投稿になります。
準備はこれで完了。
あと少しで設置した魔法が発動し、この辺りを跡形なく吹き飛ばすだろう。
ここには異世界に通じるゲートが存在しており、俺はそれを利用して行き先の知れない異世界へ向かい、その後にこの場を破壊するのが目的。
今までこのゲートを通じて5人の英雄が役目を果たすために召喚された。
召喚には法則があり、ある時期が近づくとゲートに自然と力が収束し、その時に召喚の詠唱を行うことで素質ある人間がそこへ呼び出される。
その時期とは、モンスターパレードーー数百年に一度起きる魔物の大量発生である。 この魔物の軍勢を対抗できる強大な力を召喚された人間は得ており、その力で戦い抜き人々を守った存在を世間は英雄と称する。
俺はその歴代英雄の一人で、5人目の異世界人。
英雄としての役目を果たし終え、元の世界に帰る…つもりだったがそれは不可能だった。
なので旅をしながら自由気ままに生きていこうと計画していたのだが、周囲はそれを許さず連日のように囲いに来た。
当然、囲いの目的は英雄の持つ強大な力。
新種または討伐難易度の高い魔物が現れたときの対処が期待でき、他国に出現した場合は救援に向かわせ恩を売ることができる。
そのため、各国のお偉いさん方は身内に引き込もうとあの手この手で接触をしてくる。
どこの国にも所属するつもりはないと宣言しだが、しつこく勧誘に来るので、俺のことを誰も知らない場所に行こうと決意。
力で脅すような真似はしない。
明確な恐怖は人を縛り付けると同時に、突き動かす要因となり得るから。
だからこそ、ゲートによる異世界への渡航を敢行する。
推測でしかないが、この世界で英雄のことを知らない人はほぼいない。
となると、行けるところは限定されてくる。
そこで俺は、別の世界に来たのだから行くことも出来る筈と閃き。
国の保管庫を探って、大量の魔力を代償に、転移が可能と記された資料を発見。
確認も取れたので利用することに。
それと同時にこのゲートを破壊しようと思い至った。
問題なのは英雄に依存していて、危機感が薄いこと。
英雄の存在が平和の維持に繋がる反面、必死さがなく進歩を遅らせているように感じる。
召喚された人間全員が協力的とは限らないし、不死ではないから亡くなる可能性だってある。
そのときは自分たちの力で対処するしかない。
しかし、ただ壊して去っていくのは憚られた。
中にはこちらへ来て助けとなってくれた人もいる。
何かお返しをしようと考え、目を付けたのは自身の膨大な魔力。
独自に魔法の研究を初め、試行錯誤しながら過程を記録ーーそして半年ほどで発見があったので打ち止め。
その内容と別れの挨拶を記した手紙を各国や世話になった人たちに送っておいた。
この世界でやることは無くなったので、あとは異世界に向かうだけだ。
人にいいように使われるのは御免なので次の世界は目立たないよう慎重に行動するつもりでいる。
そろそろ魔法が発動するので、こことはもうお別れだ。
転移に必要な魔力は尋常ではないが代替物の魔晶を用意してあるので、自身の魔力消費は無しにできる。
その魔晶を使いゲートに魔力を込めていく。
すると、ゲートに反応があり淡い光で彩られる。
これは転移の予兆であり、まもなく別世界への扉が開く。
新しい世界での生活が始まるわけだが、なんにせよーー
「出落ちだけは勘弁してほしいな…」
そう呟き、魔弾使いと呼ばれる英雄 桐島 穿は光に包まれこの世界を去った。