始まりの物語〜激闘〜
いつも見慣れているはずの警視庁。
だが、いつも門前に立っている警備員、入口のロビーには人の気配がない。
「てか…みんなでかかればいくら能力者といえ、俺はいらないんじゃないか??」
「いいえ、だいぶ苦戦してるわ。どうやら相手は3人…7階にある大きなホール??で交戦中…火、水、雷を操る能力の様ね」
何をしているのかわからないが瞳には目を隠している代わりに何かが見えているらしい…と、俺の勝手な推測を立てる。
「そうか…じゃあ…さっさと終わらせるぞ!!」
瞳の能力の方が気になるが…今は目の前の事件が最優先だ。
途中、ロッカールームがあるので、そこから俺専用のバットを取り出す。
そして7階まで突っ走って行った。
7階ホール。
ホールというよりは警備隊の訓練スペース、いわば体育館って所だ。そこにいたのは3人の能力者、そして今に倒されてしまう警備隊の姿…。
「なぜ…俺たちは…同じ同士の…はず…」
「うぜーうぜーうぜー。さっさと燃えろ」
肩をポンと叩かれ触れられた肩から全身へ炎が燃え広がった。
「ぐああああぁぁぁぁぁ!!………」
炎は瞬く間に勢いを増し天井まで火柱が上がった。
「チリ一つ残らなかったな〜!!はははははははっっっ…!!!」
炎が燃え尽きると同時に俺は渾身のタックルを決め込む。
「ぐはぁっ!!!!」
「今時ぐはぁっ!!とか古いんだよ!!」
俺専用武器の金属バットですかさず、腕、脚、そして頭を滅多打ちにし相手を戦闘不能及び気絶させる。
「…………次!!!」
勢いは止まらず次の標的へと突撃を開始する。
「な…なんだお前!!」
いきなりの突進劇に動揺している残りの犯人グループ。慌てて出現させたのは…水の壁だった。更にもう1人の能力だろう、水の壁は雷を纏い始めた。
「フン…これで近づけ…」
そんな壁おも見境無しに突撃し、水の能力者であろう相手の頭部へ会心の一撃を食らわせる。
「バカ…な…」
ドサァと体全体で倒れる。
「あと…1人…」
火と水の能力者を倒し残るは雷を操る能力者だけとなったが雷のダメージが体に残ってしまったせいか思ったように体が痺れて動かない。
「邪魔をするな!!消え去れ!!」
辺りが明るくなる、いや雷か。
バチバチと立てるその音はどんどん増幅されていく。
「ちっ…くそ…ここ…までか…」
膝をつきその場に倒れこんでしまう。
流石に能力者3人にノーマルな人間が叶うわけがない…か。
思えば…今まで何度も何度も能力者と戦い続けてきたが、何故自分は生き残ってきたのか。
ーー答えは簡単だ。
普通じゃ俺でも勝てないのだ。
勝てる時もあるのであろう。
でも本当は勝てるはずがない。
俺が今まで勝ってきたのは他の犠牲があったからだ。
俺が守ってきた訳じゃない。
守ろうと思わない。
守って戦うだなんて…偽善者にも程がある。
俺達警察は犯人を生かして捕まえなきゃいけないのに、相手としては俺達を殺してもいいのだ。
意味が違う。
俺の命がかかっている。
守るなら人の命より自分の命を守れ。
その結果、一緒に戦って…勝手に死んでいった。
ただそれだけだ。
そのせいだろうか…いつの間にか俺の周りには誰もいなくなってしまった。
こんな世の中で誰かと一緒にだなんて…ましてや誰かと組めだなんて…
「ただ犠牲を増やすだけ。苦しい思いをするのは自分だけでいい…か??」
はっと声のする方を見るとそこには息を切らした瞳の姿があった。
「おまっ…!!…………逃げろ!!!」
逃げろ…だなんて初めて使った言葉。
今まで誰かが死のうと俺には関係ないし、目の前で殺される光景も何度も見てきた。
そんな気持で生きてきたのに…このままでは今、目の前にいる少女が殺されてしまう。
最初は正直綺麗な子だと思った。でも話す事はメチャクチャだしムカつくし自分をここまで陥れた…しかも能力者ときた…。
ーーでも自分の死が近いだからだろうか…。
ーーもう自分では助けられない。
ーー体が動かないんだ。
ーーそんな気持ちだからだろうか。
ーー俺はどうなっても構わない。
ーーだからお前だけでも…。
『生きて欲しい』…そう思うのは。
「安心したまえ。私は死なん。そしてお前も死なん。全部助ける」
何を根拠に…。そう思ったが…。
何故かその言葉に安心を覚える。
安らぎを覚える。何故だ…。
「残念だがもうこの雷陣は完成する!!そしてこいつは死ぬ!!お前もその後殺す!!」
「だから…死なせぬといったろ??」
瞳は自ら…その目隠しを…外した…。
「おい竜二…死にたくなければ…眼を閉じるか…私を見るな」
言葉の意味は分からない。
一瞬だが見えた瞳の『瞳』は、綺麗な瑠璃色をしていた。が、その奥に何か…見てはいけないものを感じた。
俺は事の顛末を見るため視界を落とし様子を伺うことにした。
「な…なぜ…なぜ…」
急に動揺し始める雷の能力者。
それに近づけないと言っていた雷陣…と呼ばれる雷でできた柵だろうか…瞳は感電する事なくスルリと抜け一歩…また一歩と近づいてくる。
「何で感電しない…!!く…!!くるなあぁぁぁぁあああ!!!」
俺を通り越し見えるのは瞳の後ろ姿と激しく動揺する雷の能力者。
とうとう瞳の手が届く範囲まで近づいた。
だが相手は何もしない。
ただ口をあんぐりと開けながら怯えている。そして…瞳が肩ポンと叩くと同時に相手は白目を剥いたまま泡を吹き倒た。
どうやら気を失ったらしい。
雷陣もフッっと消えてしまった。
終わった…のか??
一気に疲れがきたらしく急に眠気が襲ってきて…俺は静かに目を閉じた。