始まりの物語〜少女との出会い〜
たどり着いたのは町外れにある廃墟。
元、何かの会社のビル。
1階1階が広いオフィススペースになっているのだろうー5階建てだ。
廃墟とあってヤンチャな奴らどもが夜集まったりしていのだろうか…壁にはスプレーで無数の落書きがされ、窓ガラスは殆どが割られている。
周りには建物はなく車通りも殆どない。
建物の入口には一台のワゴン車。きっとこいつで逃げてきたに違いない。中は既に空だが、ついさっきまで人がいた様な跡がある。
俺はワゴン車の後ろに隠れ佐々木と連絡を取る。
「…情報は…??」
「怪異能力者は近くの銀行で強盗を図ったのち1人の少女をさらい建物に引きこもったらしい。逃走の際、私服警官を7人殺っている。その時の目撃証言何だが…なんでも砂嵐が発生してあっという間に警官たちが砂に変わってしまった…とか…。竜二…今回ばかりはヤバイんじゃないか…??」
「砂に変えてしまう力…か…??確かに厄介そうではあるな…」
自分の手にしている武器…金属バットと腰につけた拳銃…相手が砂に変えてしまうなら多分…いや、確実にひとたまりもない。
「だけど…それでも市民を守り犯人を捕らえる。それが刑事ってもんだろ??」
「…言っても無駄だなこりゃ…。まぁ…いつもの如くだが…増援を向かわせた。指揮は水野 小百合だ」
水野 小百合、俺たちの後輩にあたる新卒の巡査だ。たしか彼女は最近、怪異能力を身に付けたと聞く…。
「目には目を歯に歯を、怪異能力には怪異能力を…ってか??」
彼女の能力は警察内でも口外されていない。知っているのは佐々木と…俺くらいだ。
でも俺も佐々木から身につけたと聞いただけだ。どんな能力かまでかは知らない。
「彼女の力はまだ間もない…そしてそこまで強くはない…しかしこの先、犯罪としてでなく未来のため使ってくれるってんだから…良い娘な事だ。それに馬鹿力だけじゃ心細いだろうに??」
「分かったよ…ただし…俺が解決するまでに間に合えば良いがな」
そう言って俺は連絡を終えた。
まるで子供同士の追いかけっこでも始めるかの様に建物へ向かった。
建物は廃棄と化していた為、進入には困らなかった。窓ガラスは割れているし、扉もほぼ朽ちて倒れている。所々には蜘蛛の巣まで張られ、長い間使用されていなかったのが見受けられる。
待ち伏せしている気配はない。堂々と正面口から入る。
「おいおい…どうぞ忍び寄って下さいって言ってるみたいじゃねーか」
俺は隠密行動も一応だが並々に手慣れていた。蜘蛛の巣一つつけず触らず触れず部屋の隅々まで調べて行った。しかし…
「おかしい…」
5階建てであろうこの建物の今、3階まできた。
誰もいない上に未だ人の気配すら感じない。まぁ、相手は人と呼んで良いのかって所なんだが…。
ーーだが…幾ら何でも静かすぎる。
警戒を怠らずに進む俺は何事も無く5階まで辿り着く。
「ここが最上階…ここに必ずいるわけだが…やっぱり静か過ぎる…」
本当にここに立てこもっている犯人とその人質はいるのだろうか。
いくら怪異能力者だとしても自信満々すぎないか??と思うくらい。そして…
「ここが最後の部屋…」
まるでこの先に、地上最強の魔王がいてそれにさらわれた姫様でも助けに来たかのようなそんな気分だ。
ただ…ここに絶対いるはず。
…いや…いる…。
かすかだが扉の向こうから人の気配を感じる。
じっと止まっている…。
待ち伏せか…??
確実にその気配はじっと俺のいる扉へと向けられている。
「こりゃ…バレてる…のかな〜??」
初めて感じる感覚。
扉を開けた途端、その先から無数の銃弾でも飛んでくるのではないのかーー。
はたまた…銃弾ではなく扉を開けた途端ビル全体が爆発でも起こすトラップでも仕掛けてあるのではないのかーー。
バレているなら尚更だ。
何故待ち伏せをしているのか、何故この部屋から一歩も出ないのか…。
考えていても仕方がない。
俺は意を決して扉を強く蹴破った。
「うぉぉおおおらぁあああ!!!警察だそこを動くんじゃねぇええ!!!!」
勢いよく扉は前方へ吹き飛び地面に叩きつけられると同時に見たものは…1人の少女…。高校生くらいか??そう思わせるくらい身長は小柄で幼い感じだ。
白髪セミロング、頭の天辺にはアホ毛がフワフワと割れた窓から吹く風にそよいでいる。特に手と足は縛られていない。
立ってこっちを向いている顔には目隠しがされている。
そしてその少女の隣には砂の山があった。
砂山の隙間隙間から5〜6人分の服が顔を出している。
「これ…は??おいお前、一体何がどうなってる」
初対面、しかも人質であろうその少女にお前呼ばわりで説明を求める。
「ここに連れ込まれて…乱暴されそうになって…そして…うぅぅぅ」
少女は見た目に反して弱々しく、そして儚げに答え、泣き出す。
「うおぉお!!わ!!悪い!!悪かった!!とりあえずここから出よう話はそれから…な??」
おいおいおい。
色々と飲み込むことのできない状況に困惑してしまう。
ーー犯人が逃げたはずの建物。
ーーそこに犯人はいなかった。
ーー人質の少女は置きっ放し。
ーーいきなり泣き出す少女。
…あぁもう、どうしろというんだ。
とりあえず…目隠しを取ってあげよう。
目隠しを外そうとする俺に少女は平手でパァンと払う。
「っ……って」
「女性の涙をみようとするなんて最低です」
突然の対応の変化に驚く。
「いや、その状態だと前見えないだろ??」
「おぶって下さい」
「………………はい??」
理解が遅くなる。
結構紳士的な対応の筈なのだが。
何だこの少…。いや、メスガキは。
「…ちょっと今、失礼なこと考えたでしょう」
考えて…たよ。
当たってるよ。
「んな訳ないだろ??お人質様を助け出すのが刑事の仕事だ」
思いとは正反対の事を発言する。
普通初対面同士っていえばお互いに謙遜しあうと思うのだが、堂々とした態度が気にくわん。
「じゃあ、おぶる理由ですか??途中ガラスとか蜘蛛の巣とか沢山あるじゃないですか。裸足の可愛い女の子にそんなSM拷問プレイのようなところを歩けとおっしゃるのですか??」
いや、理由なんて聞いてねーよ。
大体、目隠しも取ったらダメなんだろ??
おぶる事しか選択肢はないじゃないか。
「わかったよ…ほら、行くぞ」
呆れて溜息をつく俺は少女をおぶって建物を降りて行った…。