前書き
この冊子を手に取った月橋大生の大半が思っただろう。
「うちにオカ研なんてあったのか?」
それも無理はない。月橋大学オカルト研究会は総勢十数人程度の団体で、しかも一切の新歓活動を行っていない。その理由は初代会長が「なんで年の変わらんようなやつらに飯を奢ってまで媚びなくちゃならんのだ」とか何とかみみっちい理由で拒否したかららしいのだが、結果として月橋オカ研は月猫(※外部者向け用語解説:月橋キャンパスに住み着く野良猫の通称。UMAの類ではない)くらいしか知らない、あるいは月猫の眼中にすらない日陰のサークルになってしまった。
しかしその一方で月橋オカ研は、実は30年以上の歴史を持つ伝統的なサークルである。私はその栄えある(あるのか?)三十七代目の会長であるのだが、入ってすぐ、桜の舞う季節に私が18歳だったころに気が付いたことがあった。
このサークル何もしてないな、と。
活動内容がないのだ。内容がないよう、というやつだ。少々調べてみたところ、月橋オカ研は一定の活動内容を持たず、毎年会長になった人物の趣味に合わせてメインの活動を変えるという珍妙な伝統を持っていた。だから年によって占いサークルになったり、天体観測サークルになったり、UMAを狙う賞金稼ぎ組合になったりしている。去年は三十六代会長の趣味に合わせて(心霊)写真サークルになっていて、月橋まわりを歩きながら日常のステキを写真に収める健全なサークルとして活動していた。
で、前置きが長くなってしまったが、今年の月橋オカ研の活動内容は、この会誌の作成になった。私の趣味で。
サークルメンバーに作成を依頼した「オカルトっぽい」話を編集したのが本誌となる。「オカルトっぽい」の定義は各人に委ねたため、ホラーものから少し不思議ものまで傾向にはバラつきがあるが、所詮は学生発行の冊子だ。気楽に読んでほしい。
こんなことをぐだぐだ書き連ねても大して読者の興味を惹けるとも思えないので、簡単ながら前書きはこれで終わりにしようと思うが、このことだけはきっちりと伝えておかねばなるまい、と考えるため、最後に記しておく。
この冊子に載っている話は、頭から爪先まですべてが虚構であり、たとえあなたの見覚えのある人物・地名が記載されていたとしても、それは錯覚である。
決して存在しない。
すべて嘘である。