ミソスープ
晩、十一時
「ありがとうございましたー!」
今日、最後のカフェのお客さんが店を後にし、バイト先の店は終わった。
僕は、店の掃除を済ませた後、普段着に着替え、店を後にする。
「おつかれさまでしたー!」
そう、言って店を出て、帰る。
「はぁ疲れた。」
独り言を呟きながら、歩く僕、疲れた足取りでコンビニへ行くと、
「いらっしゃいませー!」
元気な声で店員が迎えてくれた。
僕は、いつも、晩ごはんをこのコンビニで、買っている。
今日も、棚からディナーを取り出し、レジへ向かい、買う。
ディナーと言っても、いつもと変わらず、弁当だ。
店員が、バーコードを読み取り、レンジで温めてもらい、僕がコンビニを出るとき、
「ありがとうございましたー!」
とても元気な店員のいるコンビニを後にし、自分の家へ帰る。
帰る、と言っても、僕は、一人暮らしで、五年前、僕は夢を追いかけ、大阪から上京して来たのだ。
僕の夢は、プロの歌手で、そのために僕は、この東京に来たのだ。
まだ、ストリートライブと、オーデイションで、止まっているが、そのうち、プロの歌手になる! そう決めているのだ。
お金をためて、オーデイションに応募する、そのためにも、僕は、バイトを必死でしている。
家に着き、部屋へ入り、一息ついた時と同時に、家のチャイムが鳴った。
「はーい」
玄関のドアを開けると、郵便配達員が立っていた。
「お届け物でーす!」
元気よくそう言った、その人は、大きな箱を持っていた。
「印鑑、おねがいしまーす!」
「あ、はい……」
そう、疲れ気味に答え、判を押すと、その配達員は手に持っていた大きな箱を僕に手渡すと、
「ありがとうございまーす!」
と言って、ドアをゆっくりと閉めた。
部屋へ戻り、箱を開けてみると、食料や、米、洗剤などの日用品が入っていた。
中の物を取り出すと、底の方に小さな手紙が入っていたので、読んでみた。
『健へ、元気にしてますか?こちらは、父さんも母さんも、元気です。 夢を叶えるのも、大事な事やけど、体には気をつけて下さい。 それと、父さんが、とても、心配しているから、たまには、顔を見せに帰ってきいや、ところで、今年の年末は、帰ってくるんですか?来年は、一緒におせち料理を食べたいです。
何度も言うようやけど、体には、気をつけて下さい。
母より』
僕を心配してくれている、母からの手紙に、涙ぐむ僕。
「オカン……」
この手紙を読むと、実家に帰りたくなるが、それと同時に、元気も出てくる。
僕は、その手紙をテーブルの上に置き、弁当を食べた。
次の日、今日も、ストリートライブをしていた。
《ミソスープ〜作る手は優しさに溢れてた〜♬》
僕の歌に立ち止まる人はまばらだった。
晩になり、今日も僕は、バイトを終え、帰宅する。
僕は昨日、届いた、母からの手紙を、もう一度読み返す。
『年末には、帰ってくるんですか?』
この文面を読むと、帰りたくなってしまう、だが、僕には、夢がある、その夢を、捨てられない。
(決めたんだ!僕は、夢が叶うまで、帰らない!)
その日、僕は、風邪をひいていた。
こんな日は、家に篭もり、朝から何も食べず、テレビを見ていた。
一人の夜は、もう、慣れたが、やっぱり、
「寂しい……」
と、思ってしまう。
こんな時に、昔、実家の母が、キッチンで、晩ごはんを作っている、風景を、思い出す。
母の丸い、やわらかな、笑顔、母が作る、味噌汁の香り、その具材を切る音……、思い出せば、思い出すだけ、懐かしくなる。
「帰ろうかな……」
ふと、呟いた。
途端に、寂しさが増していくのを、首を振り、振り払った。
数日後、元気になった僕は、ボイスレコーダーで、僕の歌を録音していて、その音を、レコード会社に送る。
この歌が、採用されれば、僕は、歌手になれる、はずだ。
そう期待して、僕は夜、またストリートライブをするため、いつもの場所に出かけた。
そういう日が、何日も続くが、連絡は未だに来ない。
手紙は、添えてあるのだが、
(聞いてくれているかな?)
つい、そう考えてしまう。
数日後、僕の家の、電話が鳴った。
「はい、もしもし」
《こちら、ACミュージックの者ですが、真野 健さんですか?》
「あ、はい、そうですが?」
《こちらに、届いた音楽が、我社のプロデューサーの耳に届きまして、それで、そちらにお電話させて頂いたのですが》
「えっ、ほ、本当ですか?」
《ええ》
「や、やったー!」
僕は、あまりの嬉しさに、つい、大声で叫んでしまった。
《では、明日、プロデューサーにお会いする、お話をさせて頂きたいのですが?》
「あ、明日、ですか?」
《ええ、ご都合が合いませんか?》
「い、いえっ」
そう言って、僕は、ある事が、少し心配になり、
「あ、あの、僕は、プロの歌手になれるん、ですか?」
《まぁ、あなたの、努力次第でしょうね》
僕は、嬉しさのあまり、泣き出しそうになるのを、必死で堪えた。
《では、明日の事をお話ししますので……》
電話で、僕と、ACミュージックの人と、話を進めていった。
それから、一年後、僕は、プロの歌手になる事ができた。
まだ、駆け出しだが、プロはプロだ。
僕の夢は、叶ったのだ!!
そしてさらに、三年後、僕は、大手音楽番組に出演が決まり、
歌う事になった。
そして当日、僕は、母に感謝の意味を込めて、【ミソスープ】を歌った。
歌っていると、今までの楽しかった事や、苦労した事を思い出し、少し涙が溢れてきた。
僕が、ここまで来られたのは、母のおかけがだ。
特に、母の作る、味噌汁は、僕を勇気づけてくれた。
母が居なければ、ここまでは、行けなかった。
もちろん、父も。
だから僕は、両親に、感謝している。
とても、とても……