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悪役従者に目覚めまして。  作者: 藤魁 真
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それを不慮の事故というには




【誕生日】

誕生日とは個人が誕生したとされる記念日の事。 人間が母親の子宮の中で過ごした期間は数の中に入れず、母親の子宮から出てきた日=その人が誕生した日と考えられている。




私立高校に席を置く“彼方朱(かなたしゅう)”もそれは例外ではなく誕生日を迎えた。6月13日午前0時きっかりに。

そして代わり映えのない一日をそつなく過ごしたのだった。



「お疲れ様でしたーぐっばーい」


部室の時計が17時30分を指したと同時にパソコンをシャットダウンさせる。

終わるや否や荷物をぱぱっとまとめ残っていた部員に軽く声をかけるとそそくさと部室を後にした。


鞄に無造作に突っ込んだ定期と携帯を確認したのち校舎から二番目に近いコンビニへと足を進める。

月に一回ではあるが部活の帰りに自分へのご褒美として、コンビニスイーツや期間限定の気になる商品を買いに行くのが高校生2年目を迎えた彼女の小さな習慣だった。



「うっはー抹茶プリン!期間限定再発売っしゃあ!!」


スイーツコーナーの一角にオススメ商品として置かれていた抹茶プリンを手にぐっと拳を握る。些細なことだとしても彼女にとっては至福の一時だった。


手始めに手にとった抹茶プリンを皮切りに次々と篭に商品が放り込まれていく。和菓子、洋菓子、スナック菓子、と口元を緩ませながら淡々と放る様はこのコンビニにおいて新名物化していることを彼女はまだ知らない。



30分ほどたった後、彼女はコンビニ袋に入ったお菓子飲み物等を片手に上機嫌で電停へと急ぐ。彼女はいつものように公共交通機関である市電とバスの乗り継いで約1時間半程かけて我が家に帰る予定だった。




「いやあもう当分コンビニは遠慮しなきゃなあ」


一ヶ月に一度の恒例文句。

交通量が多い交差点。信号は青。横断歩道を渡った。電停の表記が見える。



「ライトぐらいしぼっ……あ?」


目的地目前にして、彼女は右からの強い光に気付いた。


徐々に近付くヘッドライトに目が効かなくなるのが分かる。迫る車体。ゆるりと流れるようなスローモーション。咄嗟に避けようとしたが、ここで再度彼女は気付く。


この車は、避けようともせず、自分の元に、減速もせずに走っているということに。

時既に遅し。一言で表すならばまさしくそうだった。

気付いたときには既に避けようの無いどうしようもない距離だった。



「うっわ、とんだ屑野郎だな」


目が合ったその瞬間に本音がぽろりと漏れる。


どうしようもない距離だと察したとほぼ同時にヘッドライトが消える。真っ先に視界に映ったのは若い男の姿。車はシルバーの軽自動車だった。そこからはスローモーションのようにじわりじわりと時が進んでいく。


0,001、0,002,0……。ナンバーまでやけにくっきりと見えた。見知らぬ誰かが気付いた。自身の心臓がやけにうるさい。男は嗤っていた。



構える訳でもなく、叫ぶ訳でもなく、彼女はその場で立ち尽くしたまま動かない。

誰かが叫んだ。危ない、と。誰かが避けろ、と。そしてまた別の誰かが嘆いた。可哀想に、と。


無駄な足掻きはしたくない。周囲の声を遮断するかのように彼女もまた笑った。強がり?なんとでもいえ。心中で悪態をつく。一種の自暴自棄ともいえようか。



「うぐっあ……………!」


衝突の瞬間、体の芯から嫌な音がした。今までに聞いたこともないおぞましい音。衝突して間もなく体が宙を舞う。手足は制御不能だった。


次に背中に伝わる衝撃に声を詰まらせた。

ぐしゃあっなんて可愛らしいもんじゃない。どうやらはっきりくっきりとした視界とはもうおさらばのようでぼかしがかかる。朦朧とした意識の中で彼女はコンビニ袋とスクール鞄に手を伸ばした。我に返ったかのように周囲が騒がしくなる。


「くそ…いってえなあ」


痛いどころではない。全身に走る激痛に顔を歪めると視界に一つの人影が映った。人影は彼女の元へ駆け寄ってくる。ぐらりと視界が揺れた。それから徐々に霧がかかったように暗くなってきて十もしないうちに視界が完全に真っ暗になる。どうやらゲームオーバーのようだ。



激痛に耐え意識が失われるまでの僅かな間、彼女の脳裏を駆け巡ったのは人生を振り返る走馬灯ではなく、かといって事故に対する恨み言でもなく



「パン…お菓子…食べてねぇや……」


友人お手製のくるみパンとコンビニで購入したお菓子たちの数々だった。





女子高生が意識を失い身動きしなくなった直後、真っ先に彼女に駆け寄った人影が崩れ落ちるように膝を付いた。

人影は我に返った人々によって呆気なく捕らえられる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいおれのせいでごめんなさいおれがわるいですごめんなさいごめんなさいごめんなさいおれなんかのせいでああああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいほんとうにごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


男は狂ったように繰り返し続けた。

女子高生の返事は、ない。





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