よまわりさん!こいつです!
現行犯逮捕だ。
職質の匠と呼ばれる長谷川は犯人が白い粉を捨てるところを見逃しては居なかった。
見破られた犯人は首を垂れ、参ったと降参するのであった。
ーーーープツン。
テレビでは警察24時、昔は1番好きなテレビ番組だった。
今では1番気が滅入る番組だ。
乾いたため息が、扇風機の風に消えていく。
制服を着て仕事をしていた頃はあんな風だったかなぁとヘコむばかりだ。
6畳一間のアパートに1人淋しく天井を仰いぎ、昔のことを思い出す。
「勢いでやめちまったのは、失敗だったなぁ。」
元警察官、多田野正義は現在は自動車学校の指導員である。
正義の味方に憧れてなったはずの警察官だったが、理想と違い、上層部と喧嘩、辞めてしまった。
しかし多田野は今燃えていることがある。
最近近所で頻発している変質者を捕まえることである。
時計の針は11時を示し、辺りは暗い。
多田野は夜に溶け込むため身体にぴっちりのライダーススーツに身を包み、頭には汗を拭う純白のタオルを巻いてママチャリに乗り、夜回りを開始した。
夜の住宅街は街灯も少なく、人通りも少ない。
時折どこからか犬の遠吠えと、車のエンジン音だけが聞こえてくる。
無用心な事にこの時間でも若い女の子が1人でうろついている。
そんな子を見つけると、危険がないように後をこっそりつけて見守るのだ。
「もし変質者が現れれば俺が捕まえてやる。」
そう意気込んで多田野は今日も自転車をこいでいた。
ぴちぴちのライダーススーツにサドルが食い込んで股間が熱い。
だがそんなことは、平和のためには些細なことである。
しかし真夏は夜でも熱い。
多田野は自転車から降りた。
「ちょっと休憩だ。」
頭に巻いたタオルで顔を拭き、ライダーススーツの前のジッパーを半分ほど開ける。
それまでレザーの中に閉じ込められていた熱気が外に出ていくのが最高に気持ちいい。
ーーガサガサッ。キャー。
近くで女性の悲鳴が響き渡った。
しかしタオルをおろして周りを見渡すも誰もいなかった。
多田野は自転車にのり、付近の捜索に乗り出したが、その日は発見に至らなかった。
「くそっ。変質者め。今度現れたら絶対に捕まえてやる!」