頭が良くたって、美しくたって関係ない!中身って大事よ!
私は弟の嫁が気に入らない。
頭が良く、気が強く美しい義妹。
没落貴族で貧乏で苦労した分を取り戻すかのように贅沢にわがままに暮らす義妹。
本当は自身の美しさを武器にして、我が家よりも格上の上流貴族との結婚を望んでいた。
でも、欲を出しすぎて失敗し、中流貴族の我が家で手を打って結婚したに過ぎない。
-何たる侮辱!
でも、夫となる我が弟は、そんな嫁のことなど何も知らずに仕事場の上司からの紹介で見合いをし結婚した。
弟のランスロールは自身が至って普通であると自覚し、真面目な性格ゆえに上司からの話であるために『見合いを断る』との選択肢は全く思い浮かべずに、トントン拍子に見合いをして結婚してしまった。
また、家を継ぐ貴族ならば幼いころからの婚約者がいて当たり前だが、運の悪いことに弟の婚約者は流行病で儚くも命を落としてしまった。
私の義妹となるはずだった方は美人とは言えないが、笑うと陽だまりの様にポカポカと温かく、心根の優しい娘だった。
弟はもちろん私達家族みんなが、弟の結婚を楽しみにしていた矢先でのことだった。
「お義姉様、ようこそおいでくださりました。」
私も結婚しており、最低、年に1回は実家に顔を出す。
昔からの親族の集まりのときだけの顔出しだ。
でも、非の打ちどころのない義妹の出迎えの態度であっても、目だけは雄弁に語っているのがわかる。
私を見下し、いいえ、自分以外の人間を見下した眼を。
没落したとはいえ本来ならば、我が家より身分は上で、こんなところに嫁ぐはずではなかったとの思いが現れている。
出迎える一族みんなに知れ渡る程の隠しようのない目で語っている。
でも、誰も何も言わずあたりさわりなく月日が流れていく。
弟から弾む嬉しさがわかりやすいくらいにわかる手紙が届いた。
父が亡くなり、弟が後を継いだが結婚から何年も子ができず、周りからは離縁するか愛人を囲えと言われるぐらいには時間が流れていたから、よほど嬉しかったのだろう。
真面目な優しい弟には、どんなに周りから嫌われるような嫁でも、一度縁を結んだからには相手を裏切ることなく大切にしたいのだろう。
現に他人から嫁のあれこれを聞いても、あたりさわりなくもキッパリと縁を大切にしたいと話していると聞く。
そこまで思い考えているのならば、私が義妹を嫌いでも弟夫婦に波風を立てるものではないだろうと黙って見守っている。
そんな中での弟からの知らせに、『あぁ、周りがごちゃごちゃと言っても弟夫婦はちゃんと幸せに夫婦のきずなを深めているんだ。』と、手紙の返事を書きながら感じていた。
年に一度の親族の集まりに、今年もまた顔を出す日がやってきた。
今年は義妹のお腹がおおきく、家の雰囲気はさぞ嬉しさで、にぎやかだろうと親族一同が集まる日より前に実家に顔を出すことにした。
楽しみに実家の門をくぐれば、予想した雰囲気とは違いなぜか空気が重くぎこちなく感じる。
出迎えにでた使用人に何気なく尋ねるが、要領をえず、首をかしげながらも廊下を歩いていく。
「・・てが・・・ん・・。」
「・・・しら・・!しん・・!」
あら、言い争う声が聞こえるわね。
家の空気が悪いのはコレかしら。
部屋に入るのをためらってしまうが、何やら不振な言葉も聞こえるのよね。
弟夫婦の声と・・・お母様の泣き声?
ただ事ではないわね。
「私にそんな口を言うなんて許さない!黙って言うことさえ聞いていればいいのよ!そんな女の言うことより跡継ぎを身ごもっている私が正しいのよ!馬鹿は黙って言いなりになればいいの!!」
早口にまくしたてる義妹の怒鳴り声がドアの外にいる私にまで声が届いた。
ますますもって、なにごとでしょうね。
そっとドアを開ければ、しまったと言う顔をした義妹と表情をなくした弟が部屋の真ん中に立っていた。
視線を隅にやれば、やはり泣き崩れる母がいる。
「それがお前の本音か?」
弟の低い、ひく~い、心の底から絞り出したかのような声が響き渡る。
義妹はそんな弟に怯え一歩あとずさるも、何を決心したのか次の瞬間には目に力を入れ逆に一歩踏み出した。
「ええ、そうよ。そんな身分の低い家の出の女より、私のほうが尊いのよ。あなたは血筋の良い私に感謝こそすれ、怒鳴られる筋合いはないわ!この美しく賢い最高の家柄の血筋があなたの家に混じるのよ!ありがたいでしょに。」
そう言って義妹はクスリと笑う。
「何を言っているんだ?だからどうした?そんな理由で俺の母親を・・・俺達一族を辱める言われはない!」
普段温厚で怒ることを知らないんじゃないかと思われるほど大人しい弟が、怒りをあらわに言い切り、目を閉じ怒りを抑えようと軽く呼吸を整えて目を開けた。
その眼は普段の弟からは、かけ離れた冷めた眼差しをしていた。
「離縁をする。出ていけ。」
低く冷たい声。
その声に泣き崩れていた母親が思わず顔を上げ、涙が止まるほどに普段の弟とは別人のようだった。
さすがの義妹も弟に飲まれ、何かを言おうとしたが口を閉じる。
ピーンと張りつめた空気に誰も動けず時間が流れるが、やはり義妹が口を開く。
「できっこないでしょ?もうすぐ子供が生まれるのよ?」
「いらない。お前の血筋はこの家に必要ない!」
「なにを!・・・あなたの子がおなかの中にいるのよ!もうすぐ生まれるのよ!この家の跡継ぎなのよ!」
そう叫ぶ義妹を気にも留めずに、この家の執事を呼び、何かを命じる。
ほどなくして部屋を出ていった執事が戻り、弟は執事から紙の束を受け取っていちべつした後、義妹に読めとばかりに近くの机に放る。
その間に執事は部屋を出ていき、私も母親のそばにより支え起こし椅子に座る。
義妹は何だと言わんばかりに紙束を拾い読みだすが、読み進めるうちに顔色が青くなり、しまいには白くなって震えている。
「不義密通。俺の子ではない。」
震えながらも何かを言おうとした義妹を見て、また口を開く弟。
「一族の者と子をなせば、子が疑われないと思ったのだろう?あいつは一族の中では末端だが顔は良い。それとも、お前の他の遊び相手か?どちらにせよ、生まれてくる子には罪はなしと黙っていればいい気になりやがって。そんなお前でも夫婦になったからには情はあった。・・・が、今回のことで俺はつくづく甘いと思い知ったよ。」
そう吐き捨てた弟はポツリと
「色々と気づくのが遅すぎた。」
そう、寂しそうに上を向いてつぶやいて、執事を呼び義妹を追い出した。
何が原因でこうなったのかは知らないが、頭が良くたって、美しくたって関係ない!ましてや血筋も関係ない。人間中身って大事だとつくづく思う。
まあ、うまくやったと思っていた義妹だろうが、悪いことはいつかはばれるんだよ。
大っ嫌いな義妹よ。ざまぁ~!