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悪の矜持  作者: runa
9/12

捌*週末の予報は嵐です。さあ、傘を用意しましょう。

やって来ました第8話です(*´ー`*)


駆け足、もとい対シナリオで参ります。

***



「つまり、今ある現状としては全てがお芝居に近いと考えてもいいんだね?」



姉からの説明を受け、弟としての理解を確認する。

これにはその場にいる全員が、苦笑するしかない。



「そうね、そう受け取ってもらってほぼ問題ないと思うわ。ヒロインである彼女の望みを叶える為だけに存在する世界の在り方は既に形を失くしている。何しろ学園入学と同時に、バグに次ぐバグばかり。シナリオ回避に近い行動を繰り返しているのだもの。初めは目を疑ったものよ。結果、不審を抱いて確認したというのがその実。……今はシナリオ回避に向けて志を共にしているわ」



姉がそう言って微笑むのに、彼女の周りを囲む三人の友人たちが同調するように頷く。

そんな彼らを横目に、徐に口を開いたのは彼である。

白河 宵弖君だ。


「あんな狂ったゲームに沿って人生を無駄にするなんて、ありえないですからね。原作のシナリオからして理不尽の連続でしたし。バグが起きた所で、あちら側に文句は言わせませんよ。つまり、副会長を含めて僕ら全員が反シナリオ側ということになります」



反、シナリオ側。

なんて素敵な響きでしょうか。

というよりも、志からして端から自分入会していたんじゃないかと思う位ですね。

ええ、まるで違和感がありません。



「ただし、攻略者全員が志を同じくしている現状とまではいっていないのが実情。特に顕著なのは………」


「髭もじゃ……」


思わず零れ落ちた呟き。

姉が苦笑しながらも双眸が僅かも笑みを含まない辺りにリアルさを覚えて思わず身震い。

やっぱりあれだけは、マジモノらしい。



「保険医には、くれぐれも気をつけなさい。……何の因果か、ヒロインとあれのルートが潰れている事だけは安心材料とは言え……その様子だと自覚はしているのね。そうよ。今の奴のターゲットはあなたなの。加えて害虫がもう一匹。……あら、それとも二匹だったかしら……」



おお、姉の助言が真剣過ぎて頷くほか無い現実が恐ろし過ぎる。

目が、目が……

殺意が籠っていると言い換えても違和感の無い辺り、一切笑えない。



「あの保険医に目を付けられるなんて、なんて不運なのでしょう……」


「髭先生の好みド真ん中を射抜くなんて、ある意味凄いですわ。ふふ」


「いや、笑いごと違うからね美鈴さん? あれ、実際やばいって。というか何であれが学校の保険医になれたかという所からして疑問過ぎるから」



全面的に同意します。葵お姉さま……

髭もじゃの隙間から垣間見えた双眸、合った瞬間に鳥肌ものですから。

たとえ美形とはいっても、現実は鳥肌でそれどころでは無いです。



三人のお姉さま方の発言を受け、疲れた様子で俯く自分。

いつの間にか傍に来ていた姉に励ますように抱き寄せられたところで、我に返ります。


暖かさと、花の香り。

そうです。

今日一日で疲弊した思考を、全て丸ごと包み込むような優しい香りでした。

姉の温もりを感じると同時に、不安に曇っていたばかりだったことに気付かされる。

こんな弱気では、笑われてしまいますね。

ええ、そろそろ仕切り直して行かなくては。

私は、他でもない『彼女』を守るために入学して来たのですから。

まだ、懸念材料は全て消滅した訳ではない以上。

いつまでも落ち込んでいる暇はない。

まして、気を抜いている場合でもないのだ。




「姉さん、聞いても良い?」


「……ふふ、その表情。そろそろ天正院について補足説明しておいた方がよさそうね?」



姉の問い掛けに、頷いた。

初対面のあの発言。

確信に近いものを感じながらも、姉の口から聞いておきたかった。





「そう、天正院も前世持ちの一人よ。そして現状では立ち位置が不明。明確な敵でも、まして味方でもない。……シナリオでも読み切れないあれこそが、その実最大のバグと言える存在なのかもしれないわね」



静かな表情でそう告げた姉に、視線を合わせて頷く。

つまり、今最も注意すべき人物の存在が確かな形で確認できたことに。



「限りなくグレーに近い、敵という認識で構わない?」


「ええ、全く構わないわ」



姉が今までで一番、曇りの無い笑顔を浮かべています。

それに対して素直に喜べない問答に、自分で振ったとはいえ大変複雑です。



「そうだ。……因みにポエマー君はどの立ち位置なのかな?」


「彼は特別、実害はないわ。ある意味、彼が一番まともよ。今後の経過次第かしら」



隠れポエマー君、無害判定。

それに対して、周囲が何とも言えない空気になっているのが気になります。

気になりますが、あえてここは突っ込むまいとは内心の声。

『あら、そうなの』的おばさまスキルを駆使して凌ぎます。

世の中におけるおばさま方、その立ち位置たるや。

ある意味、最強ですからね。

心の底から尊敬しています。

見ていて惚れ惚れしてしまいます。

と、と。危ない。これ位にしておかないと。

話題がどこまでもおばさま談議に移行していってしまいますので。



「………つまり纏めると。現状で黒的な立場の人物は………?」



今までの発言を省みながら、指を一つ折った所で。

どこか唐突に朝摘みオレンジ君こと、宵弖君の低められた声が響いた。



「あいつがいるよ」



あいつ、に込められた色には分かりやすい位に嫌悪が混じってましたね。

その時はまだ、全く見当すら付いていない私の様子に姉が待ったをかけようとしている様子は分かっていましたが。

それを、目だけで制して。

先を続ける彼の声に、耳を澄ませる。



「…ある意味、保険医なんて目じゃない。タイムリーな話だけど、あいつは今週末に学園に戻る。だから僕らは今日の騒ぎが無くても、今週中には貴女に接触を図る予定でいたんです」


「あいつ、というのは誰の事ですか?」




それを問い掛けながら、ほんの僅かに脳裏に過った黒い気配。

その仄暗さに、既知感に似た何かを掬いあげる前に。


その名が、とうとう落ちてくる。




「逢見 朔夜。原作では幻とまで称された隠し攻略対象です。三年前からイギリスへ留学に渡英していたのですが、今回学園へ戻って来る予定に。………僕らが反シナリオ側というなら、あれはその逆。つまりシナリオ側ということになります」




逢見、朔夜。




その名に、ぐらりと意識を揺さぶられる感覚を覚えて。

咄嗟に壁に手を付いて身体を支えた。

それほどの、衝撃と。

同時に思い出した、天正院を超える真正の『闇』とも呼べる存在を。




再び上げた視界の中に、映り込むのは憂う様な表情を浮かべた姉。

彼女、久遠寺 透子の最悪の脅威が天正院 暁人だとすれば。

もう一人、いる。


最凶の、攻略対象者。





















どうして今まで、思い出せずにいたのだろう。

怒りにも似た、強い思い。

思考が焼き切られるのではないかと思える程だ。




「……あれが、学園に来るんだね?」


「そう。僕らが今までに打って来た手は、あれを盤上に挙げない為の布石でもあったんです。それでも、防ぎ切れなかった。今の現状は僕らにとっての不利。……それだけあいつは厄介で、正直手の付けようがない。まさに悪魔です」




悪魔。

その例えに、嘗て自分も同じことを思ったことをその場で告げていた。



あれが、来訪することで全てが覆される可能性。

最悪だ。正真正銘の、窮地である。

もう僅かの気の緩みも、許されないことを認識する。

そう。

文字通り、『覆される』のだ。

人外とも噂され、実際のところは最後まで明らかにされぬまま姿を消した彼について。

当時、憶測ばかりが流れた。

けれども自分は、実際に画面上で目にしたことがある。



その時に、思い知らされた。

自分はけしてこの悪魔を、許す日は来ないだろう。




自分が涙を零したあの時、直前まで画面に映っていたのは天正院の微笑みでは無い。

今だから、明かせる事実。

実は全てのエンディングを迎えた後、用意されていた隠しエンドがある。

『シークレットエンド』と呼ばれるそれは、別名解放エンド。

それだけが、唯一。

彼女を救うための道が、残されていた。

救いのルートエンドだった。








但し。

それを唯一覆す存在がいる。

そう。逢見 朔夜だ。



描写については、口にするのもおぞましい。

ハーレムエンドルートと同等か、それ以上。

一度は解放の道筋を開きながら、最後には希望を尽く踏みにじる展開が待つ。


掛け値なしに言おう。

絶望の淵に、叩き落とされた心地がした。

思わずゲーム本体を投げていた位に、最悪の終幕だ。



それを招く存在を思い出した今となっては、彼らの表情の意味も分かる。



ああ、なんて理不尽。

うん、なんて不条理。

そんな悪魔のごとき存在が、明日には学園の門を潜ると言うのだから。




どうやら、二日目にして既に最大の山場を迎えた模様です。

そうなんですね、まだ二日目。

それですでにゲーム終盤の展開を迎えようとしている現状に物申したい。


ただ、最大の問題は。

それをいう相手がいないと言うところに尽きますが。



いつかの穂香さんを、もう自分は笑えないですよ。

ええ、とても笑えない。

だって今の自分はおそらく、あの保険医が退く位の鮮度の低さ。

死んだような目をしているでしょう。



もう、手遅れなのだと示された現状で。

淀んだ空気の中で、諦念に傾きかける思考の行きつく先。



それは、ゲームオーバー。

終幕の二文字。




ええ、その通り。

それが自然です。

けれど、それがなんだと言うのでしょう?






「姉さん、まだ終わって無い。………いや、まだ終わらせないよ」






決意を乗せ、顔を上げた先に『彼女』を見詰める。

終わらせない、その意味を。

きっと本来の彼女は知らなかった。

けれども『彼女』は姉で。

姉と自分がこうして再び出会ったことに、意味があるのなら。

今世こそ、二度と諦めない。



自然を壊して行くのもまた一興。

不完全な人間だからこそ。

見据える先に、希望を見出せもする。

設定された世界に生きる、人形では無いからこそ。

不自然があっても違和感はない。




そう、ここはバグだらけの世界なのですから。

それに希望を見出している辺りから、すでに可笑しいと言えるのでしょう。

けれど。

正当に逆らい、進むことを選択した先人たちの強さをほんの少しでも私が持てたなら。



きっと、終わりにはならない。

否、させない。



「姉さん、覚えている?」


「……蒼太?」



「こんな終わり方、僕は認めない。……今もそれは変わらないから。たとえ、運命が姉さんの死を望むとしても、その根底から覆してみせる」



言い切った声に、欠片の迷いも存在しなかった。

今はまだ見えないその先は、既に敷かれたルートに繋がっているのだろう。

だからと言って、退く気など微塵もないだけの事だ。

正しいだけの世界など、そもそも存在しない様に。

バグが許され、綻びは目に見える形で現れている。

それにもう一つ。



「自分は、シナリオでは描かれてすらいない存在だからね。考えてみたら、自分以上にバグと呼ぶべき存在はいないんじゃないかな。……たとえ石一つ。水面に落ちれば、波紋くらいにはなってみせるよ」


「………あなたなら、諦めないと思ったわ」



ありがとう。

そう呟いて、堪え切れずに伝う水滴を肩に感じながら。

抱き締めた。この温もりを、けして奪わせない。

その意思を胸に、明日を思う。


ここまで読んで頂いた方々へ、感謝の気持ちを込めて。



混沌の終息へ向かおうとして、何やら一層の混沌を呼び寄せつつある現状に目眩を覚える作者が一名…


(/´△`\)


反抗期の息子さながら、バグたちの首根っこを摘まんでズルズル引き摺っていける…

そんな主人公に果たして『私』は為れるのか(^-^?



物語の終末へ向け、あとは走り回るのみになりました(*´ー`*)


最後まで走りきれるように、力を尽くします。

今暫く、お待ちいただければ幸いです。


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