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悪の矜持  作者: runa
8/12

漆*明らかになっていく事実を前に、まだまだ現状把握には至りません。

お待たせ致しました(*´ー`*)


久々の投稿になりましたが。

漸くの第7話。

姉弟の再会編をお届けします。

***






「天正院、その子を離して下さいまし。十秒以内に離れない場合は通報いたしますわ」



状況を一目で見て取るや、そう告げた人物がいた。

乃木 花音である。

一見して穏やかな表情を張り付けながらも、明らかなことが一つ。

その目に宿る凄絶たるや、筆舌に尽くしがたい。


鈴の音の声でカウントを始めるのは、その傍らに立つおっとり系美女白河 美鈴であり。

その斜め後ろで、そんなことしてる場合かと半眼になっているのが神薙 葵。

彼女はボーイッシュ系のお姉さまである。



「花音の言う通りだよ、暁人。取り敢えず、その手を離して。…怖い思いをさせたね、皐月さん」


「……どうして、私の名前を」



歩み寄って来た、銀縁君こと副会長三宮 隼。

彼の労わる様な眼差しに半ば茫然としながらも、今の状態を思い出して必死にはだけた部分やら居た堪れない赤の痕跡を隠そうとするやらで忙しい私である。


とはいえ。

何よりも、彼が自分の名前を知っていることが想定外である。

こんな状況ながらも、思わずそのまま口に出して聞いてしまった。



「うん? …そうか。僕らは君の事を知っていてもその逆は無いんだった。御免よ、その辺りを失念していたね。それについては追々説明していくとして。まずは、現状を収めておかないとね。聞こえているんだろう、暁人。君の今回の行動について、僕はまず彼女への謝罪を聞いておきたいのだけれど」



「…は。まさかここでお前が出張って来るとはなァ。想定外だ。三宮、お前はあの女の指示で正義のヒーロー宜しく登場した。その経緯で間違いないか?」



深い溜息を零しつつ、ようやく体を退けた天正院である。

億劫そうに身体を起し、同じ生徒会メンバーにあたる彼を見据えて。

その低めた声で問い掛けた。

それを受け、返る答えといえば。



「……君が一体何を望んで彼女を襲ったかは知らないけれど、いい加減にしてもらっていいかな。僕も気は長い方だけどね、…それでも君の最近の行動は目に余る。何度も言わせないでくれるかい?」



なんだろう。雲行きが大変に怪しい。

改めて副会長を見ていると、どうやら純度の変更を検討した方が良い模様。

うん、安心した。

ここで教え諭すような菩薩を見たら、きっと私の眼は潰れてしまうだろう。



「男が女を襲う理由なんてわざわざ説明する理由もないだろう、なァ? 三宮。……いずれにせよ興が削がれた。後は好きにしろ」



小物感たっぷりの捨て台詞だなぁ、と見送ろうとして。

去り際に、耳元へ掠め落とされた声。

油断していたにも程があった。

その仄暗い囁きに、悪寒が走り抜けたことは言うまでもない。

その一音に込められた意味。

仄暗い双眸に宿る何かと共に、心身から思い知らしめようとするが如く。



「またな」



比奈子、と。

口の形だけで、読み取れてしまった自分。

その心境たるや。

ええ、それはもう。

手が出なかったのは、単純に思考が真っ白になっていたからです。



何なんでしょうあの人。

自分にこれほどまでに執着を示して見せるのには、どんな思惑が絡んでいるのかと。

ぐるぐる回る思考の果てに、行きつく答えは態を成していない。



少女はこの時、己が周囲で語られていた四人の会話を認識していなかった。

それもこれも、混乱が為。

もし聞いていたならば、当人はそれほどまでに悩まずに済んでいたであろう。

それほどに赤裸々で。

どこか、間の抜けた独白である。






「あんな暁人は初めて見たよ。聞いた? あの去り際の文句。余程にこの子が気に入ったらしいね。やれやれ、歪んでいるとはいえ執着心を持つまでに感情豊かになったのは良い兆候と言えばそうなのかもねぇ………結局謝罪はしなかったけど。うん。ただ、友人としてはこの機会にあれの矯正を進めておきたいなぁ」



「まあ……それは良い案ですわ。是非私も協力したく思います。幼少の砌から、尽く興味の幅が限られた方でしたもの。見ていて痛々しい程でしたわ、ええ。本当に。このまま放っておいては取り返しがつかなくなること必至です。それを思えば、今こそ私たちが立ち上がらなければなりません。ね、葵さん?」


「美鈴さん、いつになくやる気……何と言うか……うん。まあいいや。確かにあれを矯正するのはこれを逃せば後は無いかもしれないしねぇ。ただ、そんな悠長に構えていたらこの子の身が危ないような気もする。その辺は私たちだけでいつでも対処できるとは限らないし………」



銘々に述べ合う輪の一番端で、溜息を隠さない美女が一人。

未だ座り込んだままの少女を横目に、徐に口を開いた。



「お三方、そろそろ聞いて頂けますか………? 今は授業時間。いつ、誰が来るかもわからぬこの場所ではこれ以上の話し合いも困難です。現状として幸運なことに、最悪の事態は防げましたわ。今までの経緯についても、これからのことに関しても話は放課後に。それで宜しいですわね?」




艶やかな巻き髪を垂らし、有無を言わさぬ微笑みで了承を取り付けるその姿。

それはまさに、女王然としておりました。

他の有無を言わせぬ、その圧力に思わず見惚れてしまう人物が一人。



ええ、私です。



思いがけず、叩き落とされた混乱から這い上がる気力を頂きました。

眼福です。

花音様、是非ともお姉さまと呼ばせて頂きたい。

透子様に次いで、私が尊敬してやまない彼女。

いやはや、ヒロインなんて目じゃありません。

掘れます。

失礼、間違えました。


惚れてしまいそうです。




「皐月さん、一人で教室まで戻れますわね? 私たちが付き添いたいところではありますけれど、残念なことに目立つのは本意ではありません……許して下さいね」


「大丈夫です。今回は、本当にありがとうございました。ご迷惑をおかけしたことに、重ねてお詫び申し上げます」



放課後に、案内を一人向かわせると約束を貰った後は。

廊下に誰もいないことを確認しつつ、談話室を出て教室へと向かいます。



今から体育の授業へ向かうのは、目立ち過ぎますから。

途中で貧血を起こしたことにして、まずは担任に事情を説明するところから始めなければなりません。

保健室行きだけは、回避。

最悪の場合、屋上への逃亡も検討しつつ。



思い返すに、朝から散々な道行きを辿っております。

放課後まで、持ち応えられるのか自分。

使用されずに抱えられたままのジャージを片手に、溜息を付く午後。

うん、何か泣けてきますね。




百合のプレートの元へ、無事に戻った後。

実際のところ、担任への説明にはそれほど労力を割かずに済みました。

どうやら事前に、副会長である三宮氏による計らいがあった模様です。

いやはや、本当に認識を改めなければなりません。

あれほどに忌避し続けていた当人に、救われた現状。

今や人としての好感度は、鰻登り。


バグだらけの現状を、憂えてばかりいた午前中の自分を省みたいと思います。



心配する担任へ、普段使わない頻度の『有無を言わせない笑顔』を張り続けた結果。

表情筋が限界です。

けれど、保健室行きが免れただけでも今朝の占いの結果は覆せたと思うのです。


言いませんよ。ええ。

言葉にすると、碌でもない結末を招きかねませんから。

自分の事はよく分かっている方です。

そこは自負しておりますとも。



六限目の鐘が鳴り、放課後を無事に迎えられたことに安堵してへたり込む自分。

机が私の枕です。

そう紹介しても、違和感を覚えないほどにお世話になっています。

ややあって回復。

数学の教科書を鞄に仕舞い、今日の分のノートを纏めてファイルに閉じる。

今週は部活動紹介週間ということも重なって、今日も含めて後四日は午後の授業が短縮される。

勿論部活に入る気はないが、初めて今日この週間が合って良かったと思う自分。


とにかく話を聞きたいと言うのが八割。

あわよくば、憧れのお姉さま方とお近づきになりたいという下心が二割弱。

残りは、あれです。

敢えて言葉にするのも……という一割弱ですよ。


いつでも動ける体制を整えた所で。

やはりと言いますか、彼女こと彼が歩み寄って来ましたね。

昨日は、何も言葉にする前に疾風の如く教室を去った自分。

挨拶も儘ならなかったので、今日こそは挨拶をと思っていました。

ええ、最低限の礼儀ですから。

けれども、見上げた所で言われた言葉は思いがけないものでした。



「比奈子ちゃん、君にずっと逢いたがってる人がいる。…大丈夫、僕は君の敵じゃない。四時限目の騒ぎも三宮先輩から聞いたよ。代理で申し訳ないけれど、彼女のところまで案内させて貰っていいかな?」



普段の軽やかな口調よりも、幾分落ち着いた響きのその声に戸惑いが無かったと言えば嘘になる。

それでも、頷いたのは。

自分自身が信じたいと思うほど、真摯な色がその双眸に籠っていたからだ。




放課後特有の騒がしい廊下を潜り抜けて、向かった先は東棟の端。

複数ある音響室の一つ。

プレートの柄は薔薇だ。

それを見て、ふと過った夢幻の様なその背中。


それが、現実になるのは扉を開いた刹那だった。


視線の先に、ふわりと香る。

まるで大輪の薔薇の如く、美しいその人。

高等部の紅薔薇。

久遠寺 透子。

その人が自分を見て確かに微笑んだ。




「久しぶりね、蒼太? 来てくれて有難う」




それは、夢にまで見たと言って過言ではない立ち姿。

この学園で微笑む彼女の姿に、思わず涙が溢れそうになると同時に。



ああ、そうであったかと。

納得の思いで、肩の力も抜けていく。

似ても似つかぬその姿であっても、その一言で重なる面影。

最期は、涙で顔をくしゃくしゃにしてくれた最愛の人。

重ねられていた手の暖かさまでも同時に蘇って、思わず駆けだしていた。

向かう先は、広げられた腕の中。



自分はもう、弟ではなくなってしまったけれども。

それでも互いが紛れもない、嘗ての姉弟だと分かっていればそれで良かった。




「姉さん、また会えて嬉しいよ」


「私もよ、蒼太? 今回は姉妹で余分に嬉しいわ。実は欲しかったのよ、妹」


「………そういうところも変わらないね、姉さん。元気そうで、何より」


苦笑した自分に、姉は前世と同じ笑い方で微笑んだ。


「ええ。初めこそ絶望したものだけれど、貴方の残してくれた言葉のお陰で諦めないで頑張ってこられたの。蒼太? 顔を上げてよく見せて。今の貴方を間近で見るのはこれが初めてなのだから」



見上げれば、秀麗な顔立ち。

その実こそ姉だと分かってはいても、その美しさには溜息も出る。

ヒロインといい、攻略対象の一部といい。

その再現率の高さや顔面平均値の高さには、ここに至るまで感心させられてばかりでしたが。

敢えて言おう。

文句の付けようがない。

その隙の無さに、姉だと分かっているからこその発言も出る。



「姉さん、どれだけ頑張ったの? なんか原作よりもスタイルアップしてない……?」


「ふふ。姉さんの底力をその目に焼き付けなさい。蒼太をがっかりさせたくなくて、姉さんは物凄く頑張りました」



誇らしげなその姿に、苦笑しながらも。

こうして再び出会えた奇跡に感謝という思い以外、何を浮かべられるだろう。




とはいえ、そろそろ周囲に目を向けなければなりません。

此処まで案内して来てくれた縹君を含めて。

音響室に集まっていたのは、姉こと久遠寺 透子以外に四人の人物たち。

その内の三人は、言わずと知れたお姉さま方。

そのお姉さま方の一人、白河 美鈴の後方に初めて見る人物がいた。

端的に描写しましょう。


日の光を浴びて、柑子色に輝く天使の輪。

肌は程良い小麦色。

常盤色の双眸を飾るのは、陰が出来るほどに見事な睫毛。

すらりとした全身を、中等科の制服に包んで立つ。

それはまさに、美少年。




「………ま、まさか」


「ふふ、思い出した様ね。というか忘れていたでしょう、蒼太? 彼は美鈴さんの弟君よ。『朝摘みオレンジ』で思い出せた?」



それを当人の前で口にするあたり、姉の変らずのマイペースさに絶句する。


ほら、件の美少年が苦笑してますから。

微妙に目が笑ってない気がするのは気のせいかな。

うん、気のせいだと思いたい。

無駄な抵抗と分かっていても、目を背けたい現実もある。




「はじめまして、皐月 比奈子さん? ご存じかも知れませんが、中等科月白組所属の白河 宵弖といいます。以後お見知りおきを」



……て、丁寧だ。

物腰が柔らかいだけに、どうしてだろうね。

伝わるものがある。

自然と背筋も伸びる所以。

それ即ち、野生の勘に近いものがあるかもしれない。



彼は、私がすっかり記憶のかなたに飛ばしていた攻略対象の一人。

とはいえ、そのルートの分岐は非常に複雑こと迷宮めいたものでした。

隠しキャラでは無い筈なのに、どうしてか出会えない。

その姿を拝めただけでも、狂喜乱舞するプレイヤーが絶えなかったという曰くつき。


それが彼、白河 宵弖君なのである。

彼の笑っているようでその実微妙に笑っていないという複雑なそれを横目に。

姉は気にした様子もなく、さくさくと話を進めて行きます。

恐るるべきは、姉。

弟は改めてその逞しさもとい鈍感力に感嘆を隠せないでいるよ。



「さてと、そろそろ今に至る経緯を話しておこうかしら? 此処にいる五人と副会長の三宮君を含めて、その全員が私と貴方の事情を知っているわ。その上で、協力を約束してくれているの。……もう察しているのかもしれないわね。そう、私たち全員が前世の記憶持ち。つまり、ゲーム本編に関わる人間の大半がシナリオを既に知っている現状よ」



まさかの、告白を受けた。

思わずその場で見渡したところで、まるでそれを予期した様に一人一人から肯定の頷きを貰うことになる。



うん、これは流石に言葉にならない。

そして徐々に差し込んで来る理解と共に真っ先に思ったこと。




なるほど、穂香さん。

貴女の攻略が、尽く上手くいかなかった所以はここにあったらしいね。と。

今は何処にいるかも分からぬヒロインへ、心の中で合掌した自分がいた。


ここまで読んで頂いた方々へ、感謝の気持ちを込めて(*´ー`*)


予定では、とある人物の登場で締める筈だったのですが…


思いがけない『朝摘みオレンジ君』の登場によって見事に予定変更となりました第7話。


軒並みのバグ達の余波。

作者をも翻弄する恐ろしい事態を前に早くもめげそうです……(/´△`\)


恐怖\(゜ロ\)(/ロ゜)/混沌


それはさておき。


第8話は駆け足でお送りする流れになりそうです。


今暫く、この混沌を納めていくべく奮闘していく所存でおります。

今暫く、お待ちいただければ幸いです。



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