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悪の矜持  作者: runa
7/12

陸*戦況は混沌を極めております

久方ぶりの投稿になりました(*´ー`*)


息抜きがてら、別作品に取り組んでいた為。

結果なかなか戻れずアワアワしておりました…



今回でバグ揃い踏みです(^-^ゞ





あの鵲橋での遭遇から、一夜が明けました。

窓から射し込む朝日が眩しいです。

あれからどのようにして教室まで帰ったかと言えば………



実は覚えていません。



午後の授業を終えた所で、尋常でない速度で荷物を纏めていた事はうっすら覚えている。


遅れて保健室から帰って来た様子の縹少年こと少女(?)が声を掛けるコンマ一秒の間を予期していたようなスピードで、教室を出た所もうっすら覚えているのです。


そして昇降口。

ここで例の背中を目の端に入れた瞬間に、陸上部も真っ青の速度を実現した私の足。

実に、頼もしい限りだ。

そして帰宅した私。

まさに尻尾を巻いて逃げかえって来た私。

そうなんです。

あんな啖呵を切っておきながら敵前逃亡どころか迂回逃亡を成し遂げた私。




……鳴きたい。

間違えた。

泣きたい………。




夜も安眠する事が出来ず、うっすらと隈を作った今朝の私。


最悪だ。体調管理も儘ならずに、どうやってあのバグたちと渡り合えようか。

鬱々と寝台の上でキノコの栽培に最適なジメジメ度を実現していそうな私。

そうだ青カビが生えるかも………。

チーズを手に持っていたら、ブルーチーズが出来るかも。

ああ、こうやって思考を余所に向けていこうとする涙ぐましい努力。

やっぱり泣きたい。







二時間の鬱々を乗り越え、やって来ました二日目。

桜の花びらを背にしつつ、校門前で若干仁王立ちする自分。

何故さっさと入らない?

理由は言わずと視線の先にあります。



昇降口の人混みが、私に知らせてくるんです。

あの場所に近づいたら、その日が私の命日だと。


いるよ、いる。

間違いない。

チキンな心臓が極限まで収縮してるもの。

遠目どころか遠耳に、奴の名前が届いてくるもの。




「キャー!!! 見た? 天正院様よ? こんな朝早くから登校されているなんて……!!」

云々。



私の内心に変換し直してみようかな。



「ギャー!!! 何なの? 天正院暇なの? こんな朝から待ち伏せとかあり得ないから………!!!」




これ以上ない程、的確に表せたと自負しています。



さて、あんな啖呵を切っておきながら二日連続で敵前逃亡を選ぶのか君は?

このままずっとあれから逃げ続けるなど、出来ると思っているのか君は?


心の中で、自分を鼓舞する私。

そして選んだ答えの先に待つものを、私は受けとめようと思います。



徐に足を進める。

人混みにまぎれながら、速足で向かいます。

その先には自転車置き場。

ええ、そうです。自転車置き場の向こうには、体育館に続くドアがあるんです。


そのドアから、体育館へ入り。

体育館から東棟へ伸びる廊下を進んでいけば………!!

以上、昇降口回避の為の安全攻略法です。



不甲斐ない私を存分に罵っていただいて結構です。

まだその方が耐えられる気がするんです。

出来る事なら、もう二度とあれと顔を合わせたくないんです。


けれどもそんな事を考えていた私への天罰なのでしょうか。

それが、体育館のドア前に座り込んでいたこと。

そして丁度そこへ到着した自分がドアを開け、それに盛大にドアノブをぶつけた事。



………これ、私が悪いのでしょうか?



何かにぶつけた感触はありました。

まさかそれが誰かの頭だったとは思わず、思わず引いてその後恐る恐る開き直した自分が見たのはやたらキラキラしい頭髪を散らして転がる人の姿。


それに凄く見覚えのある私。

思わずそのままドアを静かに閉めた私。



………なんだかこの流れ、昨日もあった様な気がしますね。

………あの時は、その見た目があれだったことへの反射的行動でした。


けれども今回は、違います。

見た目すなわちビジュアルはそのままです。

ある意味作中で一番ましなエンドを辿ることが出来る為、個人的には評価しても良いと思っていた位の人です。

ただ、それでも透子様を徹底して壊すのは同じ。

そのやり口が、他に比べて仄暗さが感じられないだけマシというだけの事ですが……。

それでも他の攻略対象に比べたらと、何度も言い聞かせていた。

その苦労が、結果として実を結ばなかった事は今この場で証明された。



駄目だ。やっぱり鳥肌立つ。



まだ声を聞いていないだけマシなのだろう。

私、この攻略対象の台詞の数々とその声質に徹底してサブイボを覚えるんです。


あの軽男君を上回る、ドロ甘の台詞たちは本質的に合わないとしか言えない。



声量途中からオフにしてましたから。

この人の攻略ほどある意味で苦労した経験はない。




「……あぁ、もうどうしたらいいの」


「………君、人にドアノブぶつけといてそれは無いんじゃない?」




背水の陣という言葉は知っているけれど、まさか自分が似たような状況に追い込まれる日が来ようとは………ほんとに人生分からない。



「………これ聞いてないよね? こんな見事にシカトされたの初めてだ。これわざと? それとも確信犯? どっちだ……」



そうそう、この人プレイヤーたちの間では詩人と呼ばれてた。

因みに私はポエマー君と呼んでいた。

心の内に秘めておく分には良いのにな、って常々思いながらプレイしていた。




「ええいっ!!?」


「……?!…… っ、この変態ポエマーが!! 許可なく人の体に触って無事で済まされると思わないでくださいね!!!」


「やっぱり気付いて……?! と言うかなんで俺の秘密を………!!」



あ、秘密なのね。

隠しているのなら、それは純粋なポエマーとしてそっとしておくことも吝かではない。




「ドアノブの件は、謝ります。申し訳ありませんでした。……以上、失礼します」


「いやいや、待て。相当の棒読みだからそれ。一縷のブレもない棒読みに寧ろ感心したいけど、今はそうではなくて」


「なら感心してればいいんです。というか触らないで下さい変態さん。どさくさに紛れて抱き着こうとするなんてあり得ないですから」


「………君も揺るがないね」




棒読みを指摘されて尚、棒読みを止めない心意気を誰か評価して下さい。

ええ、揺るぎませんよ私は。

そもそもこんな所で和気藹々と話している時間は私には無いのです。

とにかく教室へ逃げ込まない事には、私に今日の分の未来は残されないのですから。




「ということで、さっさとその場をどいて下さい変態さん」


「どういうことで……?! というかこの短時間で君の中に変態呼びが固定化していないかな。そもそも何で君俺の趣味を知ってるの?」


「………世の中は、貴方の知らない事で溢れているんですよ」


「うわぁ……何か凄く投げやりな答えが返って来た。しかもまた棒読み。ねえ、台本とかあるの? どうしたらそんなに毎度棒読みになるの?」




台本は無いが、大まかなシナリオはある。

しかしそれをまさか伝える訳もない。

溜息を一つ落として、仕方がない。

最終手段に打って出ることにした。



















うん? 勿論上手くいきましたよ。

ようやく解放された今は、背後に崩れ落ちていくそれを省みる事無く東棟へ歩を進めていますから。



ポイントは三つです。

にこやかに視線を合わせる。

その言葉を一言一句、明確に伝える。

その後の間を与えずに立ち去る。



校内で女生徒が大声で変態と叫んだら、まず間違いなく一番近くにいた人物が疑われますから。

脅しではありません。

あくまで、現状を親切に教えてあげただけです。





百合のプレートの下へ駆けこんで、ようやく一息吐いた。

朝からこれ程に消費していて、果たして下校時まで持つのかはともかくとして。

大切なことは、取り敢えず回避できたという事。それに尽きます。

教室の端にいた縹君こと軽男君の朝の挨拶に軽く会釈で返し、自分の席へ向かう。


今日の朝までで主要な攻略対象は出揃った。

このあたりでもう一度整理しておきたい。


まずは今も前の席に逆向きに座って、興味深々と言った様子を隠そうともしない彼。

縹 尚人。

通称ブラッディ・ハニー(姉曰く)

高等科百合組所属。

バグ持ち。男の娘。


次は銀縁君こと副会長。

三宮 隼。

通称冷血腹黒眼鏡氏(友人a譚)

高等科月草組所属。

バグ持ち。純度100%眼鏡氏。


続いて狂人こと保険医。

神室 邑。

通称隠れロリコン(友人b譚)

白桜学園保健室保険医。

バグ持ち。サンタを超える髭。


更に詩人こと美術部の鬼才。

高堂 枢。

通称ポエマー君(個人譚)

高等科橘組所属。

バグ持ち。隠れポエマー自称。


最後に災厄こと生徒会長。

天正院 暁人。

通称全ての元凶。

高等科特進クラス『金鴉』所属。

バグ持ち。何故か事情を知る暇人。



………ああ、混沌にも程がある。

ただ、救いはある。

この内、ハーレムエンドは既に回避されている。

個別エンドについても、ポエマー君の状況はいざ知らずその他は既に潰れているといって過言ではない。

ヒロインはおそらく自分と同じ前世持ち。

ビジュアルについてもほぼ完ぺきな形に仕上げて来ている。

にも拘らず、バグは彼女の期待を初っ端から挫いた。

銀縁君は天使もかくや、と言った風情であるし。

保険医は興味を示していない。

軽男君はドン引きしていた。

ここまでを見る限り、攻略に関してはほぼ絶望的な展望だ。

否、まだいるじゃないかと?

否。現時点でそんなに甘い展望は望めない。

少なくともあのヒロインでは、元凶たる天正院を落とせない。

あの嗤いを見た上、限られた言葉の端々から察してもそう思えてならない。

寧ろ原作よりも凶悪さを深めているのは、あれ位なのではないだろうか。

他のバグに関しては、どちらかと言えばマシな方向へ進んでいるというのに。

そう、今の時点で私にとって最大の脅威。

それが天正院 暁人である。

あれは、私が前世持ちである事実を知っている。

肝心なのは、それが何処からもたらされた事実なのかという点。

それに尽きる。



この間。

机に頬杖を付いて思案する少女の蒼白と言っていい顔色に、軽男君が“ほ”から始まる提案をし掛けたものの幸いなことに朝礼の始まりを告げる方が早かった。




午前の授業は幸運にも、移動教室のない時間割が続いた。

しかし問題は昼休みとその後に続く四時限目である。



昼休みは常に移動し続ける事で、その追跡を辛うじて振り切った。

何せ、奴は目立つ。

周囲の喧騒を感じ取る度に離れる事を繰り返せば、逃避はさほど困難でも無かった。

女生徒アンテナは学内の其処彼処に存在するのだ。


ともあれ、問題は四時限目だった。

体育の授業である。

教室から、高等科の横を通って鵲橋、体育館へと抜けて行かなければならない。

授業中に中座してまで廊下の自分を捕捉できるとは思えないが、万が一を考えれば安穏とは渡れない。

とはいえ、このルートを避けようとすれば今度は保健室前を通らなくてはならなくなる。

迂回路の途中には、尽く厄介なものが転がっているのだ。

どちらを取っても、平穏には結び付かない。



それはもう、海溝ほどに深い溜息を零しながら着替えた。

ここまでくれば、腹を括って進むしかない。

チキンもほどほどにしておかないと、今後の学園生活が儘ならない。




そう、思ってはいたのですが。











「よォ、昨日の啖呵は痺れたぜ。……で、何で朝から尽く逃げ回ってた? 理由位聞かせてくれるよなァ?」







背後に壁を、前方に災厄を目にしている自分の状況に眩暈がします。

ええ、全ては私が読み違えた所為です。

常識の範囲内で測れるような相手ではないことを、分かっていた筈でした。


けれども。

不意に背後から回された手に、事態を察するよりも早く動きを封じられていた。

抵抗する間もなく、引き摺りこまれたのは談話室。

この部屋の鍵は、教職員と生徒会の管理下にある。

ガチリ、と硬い音が耳に届いたその意味を分からない筈もない。

手足を拘束され、声を張りかけた私の耳元で囁かれたその言葉は。

理解に至るよりも速やかに、背筋に悪寒を走らせていく。



「………お前が叫ぶよりも前に、塞ぐ方法がある。……試したいのか?」



両腕を拘束している右腕と、左手の指で唇に触れる仕草。

寄せられた身の近さに、それ以上下がる余地もない。

必死に震えを抑えつけることに集中していた。

弱みを見せれば、目の前のこれは躊躇しないだろう。

けして、悟られてはならなかった。

限りなく、平淡に。ただそれだけを願って声を出した。



「不快です。離れて下さい」


「……そそるねェ。やっぱお前面白いわ」



首筋に寄せられたそれを、振り払う術もない。

一瞬遅れて知覚した痛みに、噛み痕を付けられた事実を知る。


………勘弁してよ。


その瞬間、振り切れた。

渾身の力で振り払った手は、そのまま頬を張る。

小指の先が肌を裂き、細く滴る血の筋。

正直そこまで力を込めていたつもりは無かった。

だからこそ、動揺した。

けれどもそれは、向こうの想定内であったのだろう。



その嗤いを口元に見つけた時には、今までに感じていた悪寒が馬鹿馬鹿しくなるほどの強烈な警報が脳裏に鳴り響いた。



形振り構ってはいられないと、開こうとした口を宣言通りに封じられた。

その艶かしい接触に、真っ白になる思考。

その場で硬直していた自分の愚かさが嫌になる。


奴は上手だった。

それは認めるほか無い。

そしてポエマー君、前言撤回する。

君は変態とはいえない。

今目の前にいるこれこそが真実変態と言えよう。


その変態に対して、これ以上譲る気は無い。


いつの間にか解かれていた髪を、指先に絡めて引き摺り倒された。

例え授業中とはいっても、それなりの音を出せばこの場は凌げる。

それだけを思い、手当たり次第に備品へ手を伸ばそうとした。

落とされる嗤い。

絶望的な、囁きが耳朶を打つ。




「……談話室は学園設立当初から、音響室以外で唯一防音壁が取り入れられてる。……知ってたかァ?」




伸ばし切れなかった指先をも囚われ、被さる影が一つ。

その双眸に灯る仄暗い熱を見て取り、それでも。

最後の最後まで抵抗し続けてやると覚悟を決めた矢先。





カチリ、と錠の回る音。





思わず視線を上げた先で、視線の先に彼らがいた。

堪え切れず、零れ落ちたものが頬を濡らす。


ああ、助かった。




そこに立っていたのは、銀縁君こと副会長。

そして彼の後ろには、学園に入ってようやく相見える事が叶った彼女たち。


私が尊敬して止まない、久遠寺 透子の友人たちの姿があった。


ここまで読んで頂いた方々へ、感謝を込めて。


次回はラスボス襲来編を予定しております。

本編に未だ姿を見せない最後の一人です。


混沌の収束へ向けて、今暫くお待ちいただければ幸いです(*´ー`*)

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