プロローグ*少女の独白と見解
昨今の悪役モノに触発されて、筆をとった次第です。
拙い部分もままありますが、宜しくお願いいたしますヽ(´o`;
始めに要約しておこう。
悪とは?
A:善の対極に存在するものです。
***
幼い頃から、私には主人公よりも憧れた存在がいる。
それは、善の対極に存在するもの。
つまり悪だ。
初めに断っておきたい。
ここで言う悪とは、真性の害悪ではない。
私が憧れた悪とは、悪役のこと。別名サブ。またの名を物語の引き立て役とも呼ばれる。
物語を時に導き。
我が身を犠牲にして、主人公の行為や目的を正当化する為に存在している彼ら。
犠牲って何の話? と思われた皆さん。
考えてみて欲しい。
悪役に、休息は許されないのだ………!!!
いや、若干これは極論だったかな。
適度に休んでくださいね、全国の悪役の皆様。
仕切り直して続けますね。
実際のところ、悪役の条件は主に次の三つに集約されないだろうか。
不屈の精神・粘り強さ・勤勉さ
これは、突き詰めればかなりの努力家と言えまいか。
意図せず社会人の鑑みたいな三拍子になったね。
でも、きっと間違いではないよ。
だってそうだろう?
面倒くさがりな悪役には、悪役の努めは全うできない。
馬鹿すぎる悪役では、主人公に対峙するばかりか一泡吹かせることさえ難しくなる。
まぁ、さらに馬鹿な主人公が相手の世界ならそれも許されるかもしれないが。
しかし、実際は殆どの物語中で悪役たちは涙ぐましい努力を重ねているのだ。
見えないだけで。
それは、描かれてはいけないから。
人知れず、その頑張りを認められる事もなく彼らは日々を積み重ねているのだ。
その謙虚さを思った時、どうして彼ら悪役への尊敬を持たずにいられるだろう?
幼少のみぎりには、かの国民的アニメを見てパンをくれる人よりも(人…?)尖ったお耳で必死に頑張る悪役の鑑に惚れ込んだものである。
懐かしいなぁ…
そうとも。だからこそ、心底不思議だったさ。
あれほどの才能に溢れながら、どうしてその才能の全てを主人公に傾け続けなければならないのかと。
何度も考えた。
報われない彼に、出来れば直接聞きたいくらいだった。
しかし、当人どころか作者にも聞けない子供の疑問の行く先は言うまでもない。
幼心に両親の困った顔は何となく察するところがあったのかもしれない。
その一度以降は口にしたことはないからね。
今思えば、あの質問は中々に答えづらいものがあっただろう。
今もって反省してますとも。
さて、結局何のこっちゃと話の収拾がつかなくなる前に本題に入りたい。
私はこの春、とある高校への編入を果たした。
ここで勘の良い方ならピンと来る筈だ。
そうとも。その勘はきっと当たっている。
回答編の前に、学校名をあげておこうかな。
私立白櫻学園。
なんだか、もの凄くありがちな学校名だろう?
そうだよ。
この学園はこれから一人の少女が入学してくることを切っ掛けに、乙女の聖戦が繰り広げられるであろう舞台なのだ………!!!
(……うう。無理矢理普段以上にテンションをあげつらっている余波が今頃………)
もしこの時、周囲に第三者がいた場合。
おそらく彼もしくは彼女は、赤面して桜の木の陰で蹲ったまま動かない少女を一人見つけることになっただろう。
しかし、幸運なことにそれはないようだ。
さて、気を取り直して回答編に入ろう。
ついでにさらりと追加情報。
私こと皐月 比奈子は前世の記憶持ちにあたるとてもイタい子です。
もう自覚はしてますので。
だからどうか、これ以上は突っ込まないで下さい。
いまの自分に必要なのは、スルーして頂ける皆さんの優しさです。
メンタルの弱さは折り紙つき。
それが私こと皐月 比奈子です。
ここからは主に自分のために、ダメージを最小におさめるべく簡潔かつ早口で進めていきます。
あしからず。
私の前世はとても病弱な少年でした。
青年期を迎える前には、その命が尽きてしまうほどに脆い体でした。
その少年には二つ上の姉がおりました。
弟を溺愛していた姉は、良かれと思って病室にゲームを持ち込んだのです。
まさかその結果、そのゲームが弟にトラウマを植え付けることになるとも思わずに……
姉には欠片も悪意があったわけでなく。
単純に少年のメンタルがそのハードな乙ゲーについていけなかっただけなのです。
そうなんですね。
このメンタルの弱さは変わらずに引き継がれた筋金入り。
だから記憶も所々あやふやです。
自己防衛の為に、細部が尽く塗り潰されたようですね。
実際その乙ゲーのタイトルも思い出せないくらいですから。
ただし、二つだけはっきりと記憶が引き継がれて来たものがありました。
それが、『学校名』と『悪役少女の情報及び彼女が辿る運命』なのです。
ゲームの舞台は私立白櫻学園。
そして、その学園の女王として君臨し、高等部の赤薔薇と呼ばれる彼女こそ。
久遠寺 透子。
赤薔薇の異名に相応しく、乙ゲーの悪役としてその至高を極めた存在である。
旧家、久遠寺の長女として生まれた彼女は幼い頃より英才教育を施されてきた完璧なご令嬢。
当然の如く、家格の釣り合う婚約者が十の頃から定められていた。
その婚約者は言うまでもない。
乙ゲーの攻略対象にしてメインヒーローに当たる令息。
……名前は忘れてしまったけれど……
うん。でもきっと俺様だったよ。
きっとこの予想は外れない。
自分を信じるって大切だからね……!!!
そしてこの透子様。
実はとっても健気で可愛い人なのだ。
努力家に加えて健気なんだよ……?!
これ以上何を望むところがあるだろうか。
いや、無いね。無いよ。
だからこそ、の話だ。
このゲームのラスト。
メインヒーローを加えた攻略者たちによる制裁には愕然とさせられたものだよ。
このゲームのエンドにはノーマル、個別、ハーレムのほかにも三つエンドが存在する。
そのどれもが、容赦なく透子様を壊す終り方なのだ。
思わず姉のゲーム機を壁に投げ付けたくなる位に残酷なエンドの数々に、マジ泣きした弟の様子を見て愕然とした姉の顔が今も忘れられない。
姉は物凄く謝った。
具体的には、病室の床にスライディング土下座してきたから流石に涙も引っ込んだ。
余談である。
そして今世である。
私があえてこの学園を志望し、血反吐を吐くような思いをしてまで勉強して入学に漕ぎ着けたことには理由がある。
編入試験のレベルの高さは噂に違わぬものでした…
幾度弱音を呟いたことか。
それでも、諦めたくなかったのが大きな後押しになった。
私は、どうしても彼女を助けたかった。
たとえ画面越しであっても、ずっと彼女の内心の叫びを聴いてきた自分がいたからこそ。
生きたい、と。
そう叫んだのは自分も同じだったから。
だから私は、この学園へ。
久遠寺 透子を残酷な終焉に向かわせない為に、私はこの学園にやって来たのです。
ここまで読んで頂けたことにまず感謝をρ(・・、)
次回は桜の下から、主要人物も絡めてお送りする予定です。




