滅菌室の君
君のからだはいつの間にかぼろぼろになっていた。
僕も君も知らない何かが、君を連れていこうとしている。
白い部屋で僕と君の二人だけ。
僕たちの理解の及ばないところで全てが進んでいこうとしていた。
君のその可憐な指先を、唇を、瞳を壊していったものの名前なんて僕は知らなくたっていいんだ。
滅菌室の君。
ガラスにはね返される吐息で僕の目はいつも霞んでいるよ。
僕はそこにいくことを許されない。
静かな部屋に呼吸の音は聞こえずに、ただ機械の音だけが僕の耳に届く。
今、僕の世界はここだけだ。
心臓の音をききたい。
その無数の管をすべて幸せにつなぎ合わせたい。
点滴を愛情で満たしたい。
必要とする酸素は僕がかき集めたい。
全部全部僕のわがままだ。
君の存在を知らせる音が僕にはまったく聞こえない。君にも何も届かない。
ねえ、君がいなくなってしまったら、この小さな僕の世界は消えてしまうよ。
どうか、どうかと僕は分厚いガラスに縋ることしかできない。
ガラスには傷ひとつ、ついてくれない。
二人の距離は遠い。
twitterでのSSが膨らんだお話でした。