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泥にまみれたオオカミ

劉温「お久しぶりヨー。劉温ネ。旅のお土産話は何時かお話するアル」


劉温「今回は、韓甲と呂猛の逸話ネ。有体に言えば40話記念のコラボヨ。全く…」

悠久ともいえる中国の長い歴史には数多の戦乱の時代が存在した。その中でも後世に“三国時代"--魏、呉、蜀が天下の覇権を巡り争った--と呼ばれた時代。江南を中心として支配する呉には敵味方を問わず“オオカミ"と畏怖を込められ呼ばれた者達がいた。


その名は『黒狼隊こくろうたい


この部隊に所属する者たちは生まれも育ちも違う。しかし、2つ共通しているものがあった。そう。彼らは皆、軍人崩れの傭兵だった。そして、隊長とその右腕に絶対の信頼を置いていた、という事である。

隊長の名を韓甲かんこう狼牙ろうが真名まなは和樹。


この時代、名前とは別に真名なるものがあった。それは神聖なもので、不用意に呼んでしまえば、打ち首やむなしとまで言われる程だ。


そして彼の右腕、副隊長。呂猛りょもう百鬼ひゃっき。真名を将司。


彼ら傭兵たちは『信頼』と『人情』によって一つにまとまっていた。これから語られる、伝説とも言える戦いは『信頼』と『人情』が主役の物語。


「なぁ、相棒…」


「どうした将司」


「来る場所間違えてないか…?」


「大丈夫だ、問題ない。ほら、もうすぐ物語が始まるぞ」


「お、おう」


かくして役者は全員が演壇へと登る。そして暁の惨劇は幕を上げる


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


場所は執務室。そこには異様な光景が広がっていた。


「おいせき、あんまり暴れるな…。せいもだ…」


和樹が赤や青と呼ぶのは狼である。この狼たちは、中国の西の州、益州えきしゅうから和樹を追ってきた変わり者、いや変わり犬か。因みにこの名前の由来は首輪の色からである。


「…。お前に子供が出来たら心底同情するだろうな…」


そう言うのは華雄である。彼女は和樹の仕事に同行していたため、和樹の執務室にいた。


「その言葉はうちの野郎共から何度も聞かされてるさ…」


そう言って、韓甲、和樹は溜息をついた。その直後、バタバタと足音が近づいてきた。


「韓甲将軍、失礼します。韓甲将軍にお客人です」


「ほう、誰だ?」


「孫策様です」


「そうか、わかった。すぐ行こう」


遣り取りの後、和樹と彼を呼びに来た兵は客室へ向かい、華雄もついでとばかりに随伴する。一方、残された狼達は律儀にお座りをし、主人の帰りを待つ事にした。


「ヤッホー、和樹ー!」


天真爛漫な少女の如き満面の笑みを浮かべ彼等を出迎えたのは孫策、字は伯符、--真名を雪蓮--。彼女こそ、呉を治める君主……ではある。何故、このように曖昧な言葉で濁すのか?…ぶっちゃければ…平素の彼女の言動は“あまりにも君主らしからぬモノ"だからだ。内政、外交など−−彼女曰く“面倒臭い"仕事は何処ぞへと放り投げ、城から逃亡きゅうけいしたと思えば城下へ繰り出し、散々酔っ払って帰って来る。一番、君主らしからぬのは戦の時だろう。彼女は君主の筈だ。


しかし−−−


「さっさとかかってきなさいよ!あんたの狙う敵の首はここにあるわよ!あっはははは!!」


---と、勇気と呼ぶには程遠い蛮勇を持って敵軍に突撃し、返り血を浴び鬼となる。こうなるともはや特定の人物にしか止められない。


そんな訳で彼女は“戦闘狂い"なのだ。


「伯符殿、今日はどういったご用件で?」


その質問を待ってましたと言わんばかりに目をキラキラさせ、口を開いた。


「ちょっと付き合ってくれないかしら?すぐ終わるから」


「要は、護衛という訳ですか。了解しました。お付き合いしましょう」


「あ、わかっちゃった?」


どうにも主従関係に見えない会話を繰り広げながら、雪蓮と和樹は部屋を出て行った。和樹は、雪蓮を雇い主、雪蓮は和樹を友達ととらえ方の違いはあるが、これがいい方向に向いているようだった。


場所は変わり人気のない辺鄙へんぴな場所。ここには、あの『孫文台そんぶんだい』の墓があった。孫文台は孫呉にとって英雄であり、雪蓮の目指すべき母親であり、武人だった。


「随分と静かな場所ですな」


「母様がね、『お墓を建てる時は静かな場所に』ってうるさかったのよ」


和樹は、孫文台が言い残したことが少しわかった気がした。死ぬ時くらいは戦場の喧騒から離れ、人として眠りたかったのだろう。もっとも、俺には無理だろうが、と自嘲気味に笑いながら目の前の墓石を見つめた。


「汚れてる…、掃除しなきゃ…」


「手伝います」


こうして、和樹と雪蓮の奇妙な掃除が始まった。きっとここにあの孫文台がいれば笑い飛ばしただろう。


「母様、この人、カッコいいでしょ?頭も切れるし、武術もやばいのよ?和樹、自己紹介お願いしてもいいかしら」


「は、私は韓狼牙と申します。僭越ながら文台様の御子女、伯符殿に御厄介になっています」


和樹と雪蓮は少し話をした後、異変に気が付いた。何者かがここで殺意を垂れ流している。全く大した蛮勇だと和樹は思いながら雪蓮を見た。


「分かった?」


「もちろんです」


直後、矢が飛んできた。やはり孫策を消すための差し金だったか!間に合わない!その答えを瞬時に導き出し、和樹は自身の体を突き出した。


「ぐっ!」


「和樹!」


和樹は知っていた。このまま意識が落ちれば、孫策伯符はこの世界から消えることを。


-だからこそ-


彼は、長年慣れ親しんだ銃『デザートイーグル』を取り出し、矢が飛んできた方向に発砲した。そして雪蓮は己が持つ得物を手に暗殺者を駆逐していった。


「お怪我はありませんか?」


「私は大丈夫。和樹は…?」


「少々疲れました。すみませんが、煙草を取ってくれませんか?」


和樹の体は流血で憔悴しきっていた。今の感想は嘘偽りのない真実だった。


「たばこ?」


「そこにあります」


和樹は力なくコートのポケットを指差した。雪蓮はそのポケットから小さな箱を取り出した。雪蓮にはどういうものなのか分からなかったが、嗜好品であることは分かっていた。


「少し落ち着きました…」


ふぅーと煙をひとしきり出した後、雪蓮がぽつりと呟いた。


「今のは…」


「曹操の軍勢でしょうな。ここまで来てるという事は本隊も近いてすな」


和樹はゆっくりとトランシーバーに手をかける。しかし和樹は一瞬顔をしかめた後、手を戻した。


「どうかしたの?」


「トランシーバーが壊れていたようです。伯符殿は早く戻られてください」


「でも…!」


「そうですな…、将司には間に合わないと」


「わかったわ…」


こうして、雪蓮は来た時に連れてきた馬に跨り来た道を帰っていった。その手に小さな布切れを握りながら。


雪蓮は心で泣いていた。おそらく、和樹と会えるのは最後だったからだ。暗殺に使う矢が普通の矢であるはずかない。和樹は痛みを押し殺していたにちがいない。


その時、孫伯符の心に戦いの炎が燃え上がった。



「ガハッ…!」


一方の和樹はというと、毒の痛みと戦っていた。この痛み…、懐かしいな…。もしかするとマラリア以上か?まさしく、心中で毒つきながら天を仰いだ。もはや…、これまで…。



その頃、建業では喧騒が喧騒を呼んでいた。なにせ、曹操軍がいきなり近くに現れたのだから。


「今の曹操軍の位置は!」


軍議室に入った途端に喋り出した男。彼こそが呂猛、将司であった。そして側にいた周瑜しゅうゆという女性が答えた。


「どうやら、もうここまでいるらしい」


黒髪の美人、周瑜 公瑾こうきん-真名を冥琳-が答えた。彼女は呉の大都督、つまり軍事のすべてを担っていた。彼女は地図を開き、建業の20キロ北を指差した。


「至近距離もいい所だ…。兵の招集は?」


ここで、そばに控える兵が答える。やはり、将軍がピリピリしていると不安なのだろう。不安や焦燥といった感情がその兵の顔に張り付いていた。


「現在、散っている兵を集めていますが、3万が限界です…」


「了解した…。公瑾殿…、どうしましょうか…」


「3万なら2万を前衛、残りを後衛にするしかない。黒狼隊はどうなっている?」


「中尉、どうなっている?」


「はっ!」


中尉と呼ばれた男、朴容国パク・ヨングクは答える。やはり生粋の軍人といった所か、幾ばくか余裕が見られた。


「現在、総出撃の準備を取っており、四刻半もあれば準備が完了します」


中尉が報告を終えた瞬間に扉が開かれた。


「すまん、遅れた」


「華雄か。今は出し惜しみする暇がない。お前の隊にも出てもらうぞ」


いきなり入ってきてそのまま座った華雄を将司は見遣る。


「分かっているとも。すでに出撃命令は出してある。抜かりはない」


話し合いが進む中、皆がある人物を忘れていた。ここに呼ぶべき君主と部隊長を皆は忘れていた。


「将司、和樹はどうした?」


その中で、冥琳か将司に聞いた。やはり、部隊長がいないというのは気になるのだろう。それよりも優先すべきは孫策なのかもしれないが…。


「孫策様と韓甲将軍は一緒に出かけられたそうです…」


「こんな時に…」


「かっかっか、それなら問題ないわ。今、妹君の孫権様が迎えに行っとる」


緊急事態にも関わらず自然体でけらけらと笑うのは黄蓋こうがい公覆こうふくであった。彼女は、孫文台の代から仕える古参の将軍だった。


「孫策様と孫権様がお帰りになられました!」


報告が終わった刹那、扉が開かれた。そこには、二つの影があった。影の片割れは迎えに行った孫権。もう一つは孫策だった。


「遅くなったわね。申し訳ないわ」


「……」


冷静に言葉を紡ぐ雪蓮と孫権-真名を蓮華-は表情がこわばっていた。そこに将司の質問が飛んできた。


「和樹はどうなされましたか?駐屯地か?中尉、通信入れろ」


「はっ。」


『こちら朴容国から隊長へ。応答お願いします』


おかしい、反応がない。


『隊長、応答をお願いします』


「故障か?」


「恐らくは…」


将司と中尉のやり取りを見ながら泣きそうな表情でポツリと呟いた。


「将司…。これ、なんだかわかる…?」


その布きれが、黒狼隊の面々に見せた瞬間皆の表情がこわばった。いや、驚いた、という方が正しいか。


「伯符様、これを一体どこで…。これは隊長の…!」


「伯符殿。あなたがどうして“ソレ”を持っているか、お聞かせ願いたい」


「私、お墓参りに行ってて…。襲撃を受けてしまったわ」


「それで、それで相棒は?」


将司は表情を険しくしながら問い詰めた。


「…毒矢を受けたわ。和樹から『もしかしたら間に合わない』って伝言を預かったわ」


この時、涙を溜める者、驚く者様々だった。しかし呂猛百鬼は違った。彼の中で何かが弾けた。当然だ。韓甲狼牙は相棒を通り越して体の一部に近かった。


「朴容国中尉」


「はっ!!」


名と階級を同時に呼ばれる事は少ない。だからこそ、こういう時は仕事が任される時だと相場が決まっていた。


「部隊長の生死不明につき、小官が代行的に指揮を執る。異存は?」


「ありません!」


「結構。貴様は私の補佐を担ってもらう。では最初の仕事だ。駐屯地に繋げ」


「はっ」


<こちら、駐屯指揮所>


『こちら朴副隊長代行。通信回線を拡張機に繋げ』


<は?副隊長は…>


『いいから繋げ!!』


<は、はっ>


中尉の怒気に、トランシーバーの相手だけでなく、その場にいた全ての人を震わせた。


<繋げました>


そんな短い通信の後、トランシーバーは将司に渡された。ここから語られるのは誰もが作戦伝達だと思ったことだろう。しかし、この時ばかりは呂猛百鬼は人間だった。それに感情より理性を優先するほど呂猛はできた人間じゃなかった。


『各員、傾注』


『黒狼隊隊長、韓甲狼牙が曹魏兵により負傷。生死は不明である。非常事態により一時的にだが小官、呂百鬼が指揮を取る。朴中尉には私の補佐に就いてもらった』


その声は、いつもの飄々(ひょうひょう)とした声から想像できないものだった。


『これより、諸君らが成すべきことを伝達する。各隊、準備が整い次第出撃せよ。敵軍は建業の北20キロ。武装はもちろん完全武装だ。そうだ、ナパーム弾も奴らにプレゼントしてやれ』


声が一際、低くなる。そして彼は“ニンゲン"という、どうしようもなく愚かな生物として次の作戦を発令した。作戦そのモノは揚州奥深くまで侵攻してきた曹操軍を迎撃する軍事作戦としては落第点ものの代物でしかない。


だが“ニンゲン"という理性よりも感情が優先される事が多々ある生物としては出来たモノであった。


『目に映る敵兵を全て焼き尽くせ。戦略?戦術?知った事か。逃げる者?追って引き金を引け。投降する者?そのそっ首を暖炉にでもくべておけ。いいか、有象無象の区別なく、全て焼け。ただし、曹操の首は取っておけ。俺が叩き落とす』


黒狼隊の面々は震えた。そうだ、俺は、俺たちは狼なんだ。上がやられたら次点が後を継ぎ、仇を取る。それが俺たちじゃないか。戦場でやられたなら納得しよう。イ・ヨンジンの戦死はすでに飲み下した。しかし、今回だけは別件だ。暗殺という薄汚れた手段によっての隊長の死は到底納得できるものではなかった。


この時、誇り高き狼から、反逆するしか頭にない神狼フェンリルへと成り果てる。この戦いに最早、勝敗なんぞ関係なしだ。さぁ、仇を討とうじゃないか…。




その後、両陣営も絶句するような戦、いや、虐殺が行われた。逃げる者は泣き叫び、降伏する者は首と胴が離れていた。そしてナパームによって酸素が奪われ、のたうちまわる者もいた。まさに地獄だった。いや、もしかすると地獄という表現すら生ぬるいかもしれない。


しかし、そんな“地獄”は意外な形で終結を迎える。


「曹操軍に告げる!今すぐ退け!」


「今回の戦には不幸な行き違いがあった。我ら孫呉はこれにて手打ちにしたい!」


呉の将軍たちのその怒号によって、最終的に戦が止まる。次第に、暗殺を企てたのが、曹操の軍の逃亡兵であること、韓甲が生きていることが判明する。将司は逃亡兵を処断した後、黒狼隊をまとめあげ帰還した。その後、曹操から呉に対して謝罪の意が伝えられこれにて手打ちとなった。


報復とはとは恐ろしいものである。常に連鎖が続く。仲間を討ったアイツが憎い。そんな気持ちから沼地にはまっていく。しかしこの戦いは、今日において伝説として語られている。たった“100名”で“10万人”を撤退させた。ある伝説だと、韓甲が地獄から炎を脇に携えて帰ってきた、というものがある程だ。


黒狼隊は、この後このような失敗することはなかった。なぜか?その解は簡単である。


韓甲という“頭脳"、呂猛という“四肢"、そして隊員達という“爪牙"。


これらが二度と欠ける事なく戦場を駆け抜けるオオカミとして帰還したからだ。


今日もまた戦場どこかで狼たちの銃声とおぼえが聞こえるかもしれない。

以上、ブレイズ様作、「恋姫†無双-外史の傭兵達- 」とのコラボでした。二次創作の二次創作という訳分からない状況ですが堪忍して…。


韓「ほう、読者に許しを請うのか?いいだろう、この俺が直々に手を下そう」


呂「まぁまぁ、落ち着けって…。シワ増えるぞ?」


あなたは…、韓甲と…、呂猛…?


劉「ヤバいヨ…。本物アルよ…。今のうちに謝るヨ!まだ死にたくないアルね!!」


韓「冗談だ、冗談。さて、俺たちは礼にきたんだ」


呂「真顔で言われるとあんたの“それ”は真実になんだよ!少しは改善しろ!」


とりあえずまだ生きれるみたいですよ、劉温さん。


劉「そうみたいヨ」


韓「俺たちが生きる外史…、知られるこのないパラレルワールドとやらを書き残してくれてありがとう。これできっと誰かの記憶に残るだろう」


呂「和樹が“ありがとう”…、だと…?」


ガチャッ!スチャッ!ッパーン!


呂「悪かった…。悪かったからその銃しまえ?な?」


韓「……」


改めまして、コラボを二つ返事で了承してくれたブレイズ様。本当にありがとうございました。


劉「謝謝ネー。気が向いたらこの小説流し読みでもしてほしいアル」


韓「さて、俺たちも帰るか。“アイツら”も待ってるし」


呂「だなぁー」


『ギィィィ、ガチャン』

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