断章 「二人の想い」
~千代~
いつもなら、真っ暗な夢を見るだけだった。いや、夢かどうかも解らない。ただ、暗く、真っ暗で。
けれど、今は、違う。
人の子、不思議な子、俊。
ずっと、ずっと、時がたってもどんなことをしても彼を思う。
何故じゃ、なぜなのじゃ?これはいったい、何のじゃ!?
俊を思う気持ちが大きく膨れ上がる。苦しくて、胸の奥が切り裂かれてしまいそうなくらい。
千代は、こんな思いを抱いたのは、初めてだった。
俊と約束したことを思い出すたび、胸が苦しくなる。
次の春に現れなかったとき、我は、奴に殺すといった。
殺したくなんてない。殺しなくない。
一緒にいて欲しい。また、同じように過ごしたい。
わがままだろうか?
ああ、我は、狂ってしまったのか。
それならば、我は、消えてなくなってしまえばいいのだろうか?
いいや、まだだ。
まだ、約束の時では、ない。
どうか、どうか来ておくれ。
来て、俊…
~俊~
千代に会いたい。
その思いだけがいっぱいだった。
早く、早く会いたい。
早く、早く、早く…
君に触れたいよ、千代。
両親からお見合いの話が出ていた。けれど、断る。
僕には、千代だけだ。
その思いだけは、決して変わらない。
次の春。
千代は、僕と一緒にいてくれるだろうか?
千代は、僕を好きにならない。
いいや、まだ、否定してはダメだ。
次に会うとき、僕は、千代に言うんだ。
愛していると。
ありったけの愛情をこめて。