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血の雫  作者: 梅雨
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第三話 過去

 自室で、優斗は悩んでいた。何を悩んでいたかというと自分のベットに寝かされている、雫のことについてだった。

「うーん・・・・。これは、仕方ないんだよな、それに小学校の時にも何回かしたし・・・。このままじゃ雫も苦しいだけだし・・・・うん、そうだな!そうなんだっ!!」

 なんだかまた雫に対して決心をする優斗。

「お、おしっ!」

 あーなんで雫相手だとこうも緊張してしまうんだろう。他の女の子は大丈夫なのになぁ・・。

 自分に自分で呆れていた。たかだかキス程度のことで、どうしてこんなに緊張しているんだと。

「ん・・・」

 合わせた唇から雫のうめき声が漏れた。

 優斗はゆっくりと唇を離した。すると見計らったように雫が目を開けた。

「・・・・・小六しょうろくの卒業式以来だね。」

 にやり、と雫は笑った。

「・・・・・ハズい。」

 真っ赤になって、優斗は俯いた。

「えー。キスで恥ずかしがるの?女たらしの優斗君。」

 くすり、と雫は笑った。

「えーと、それは・・・。あのぉ・・」

 答に困った。雫にふられたから、やけくそで寄ってくる他の女の子と遊んだなんて口が裂けても絶対に、言えない。

「ふふ・・。でも良かった。彼女は居ないんでしょ?」

 嬉しそうにまた、雫は笑った。

「・・・それはどういう?」

 期待する自分と、在るはず無いと、傷つかないために否定しようとする自分が居て―――。

 結局、悩んでもどうしたって期待してしまうんだ。はずれたときに初めて期待していたと気づくだけで・・・・。

「んー、だってこれから一緒に行動するのに困るじゃん。彼女だって嫌だろうし・・・・。しかも人工呼吸みたいなもんだけどさ、やっぱキスだし。私が彼女だったらめっちゃ嫌だろうなーと」

 やっぱり。

 こうやって期待するから。結局自分が傷つくんだ。

「・・・・・?どうしたの。何か暗いぞ、優斗??」

 さっきのキスは、雫の言うとおり人工呼吸に近い。雫は強い能力ちからを持った優秀な祓い師だが、その若さから、自分の身体に宿る大きな力を抑えきれない事が多い。校門で雫が焦点の合っていない目をしていたのは今にも力があふれ出しそうだったから。“人工呼吸”は、そのあふれだしそうな力を相手に移すことが出来る。・・・つまりここで言う俺に。

 基本的には、雫が感情を抑えられなくなったとき、“それ”は動き出す。瞬く間に雫の意識を奪って、対象を容赦なく、殺す。厄介なことに一度発動してしまったら、そう簡単には止められない。

 かつて雫は小学校三年生の時、クラスの約半分に当たる十七人ものクラスメイトを皆殺しにしたことがあるのだった。そしてそれから雫は枷になるのもいとわずに、知人全てに徹底的に術をかけた。もしまた自分が暴走してもその人達には絶対に危害を加えないように。だから電話で怒られたときも俺は殺されずに済んだ。

「お〜い、優斗?優斗クン?だいじょーぶかーい?」

 雫がひらひらと優斗の顔の前で手を動かす。

 物思いにふけっていた(正確にはやっぱりどうとも思われていなかった事へのショックでマイナス思考になっていた)優斗は現実に引き戻された。

「あ、いや。雫はいいのかと思って」

 は?と言う顔を、雫はしていた。

「や、だからさぁ。なんか居もしない彼女の心配ばっかりで、自分の心配はしないの?」

 はあ??雫の頭の上に浮かんでいる『?』が更に増えた。

 これでも通じないのか・・・。ほんと、他人のことは考えるのに自分の事となると、何にも考えてないんだから・・・・。

「だから!!雫はいいのかって聞いてるんだよ。これから俺と行動するんだろう?他の奴らにそりゃあもう盛大に誤解されるぞ、って言ってんの!分かったか!?」

 優斗がキレた。そりゃあもう盛大に。

「えー大丈夫だよ。私誰にどういわれたっていいし。カレカノって事にしとこーよ。色々面倒くさいし。」

 それを聞いて少しピンと来た。

 きっと高校で友達、居ないんだろう。小学校でも三年生のあの事件以降、雫にとって友達と呼べる女子は真那だけだった。その真那も小六の三学期に悪霊に取り憑かれて、死んだ。

 それから、雫は独りになった。

 煉から少し聞いてはいたが・・。俺の噂も届かないほど、教室で一人なんだろう。

「そっか。分かった、派手に宣伝しちゃおうかなぁ」

 優斗が雫を笑わせようと、冗談めかして言った。

「はあ!?何のために宣伝なんてするの。」

 笑って、雫が聞く。

「んー。だってさぁ盛大に宣伝しとけばさ、今日みたいなやついなくなるかも。」

 あ、そっか〜、と雫が同意してくる。

「そうだねっ。賛成!!今日の人たちめっちゃ恐かったもん。もー優斗来なかったらどうしようかと思ったんだよ〜・・・・て、優斗?・・・・・わっ。」

 優斗は雫を抱きしめていた。

「ごめん。俺の能力ちからは、雫のに比べたら塵同然だし、視えるだけで何にも出来ないし。だけど、せめて人間からは俺が雫を護るから・・・・」

 ぎゅっ、と強く雫を抱きしめる。雫は抵抗しない。

「うん・・・・。ありがと。」




「とりあえず、今日は帰るよ。一回発動しかけちゃったし。煉、学校では普通なんでしょ?」

 靴を履きながら玄関先で雫は言った。

「ん、まあ人並みには。勘づいてるやつもいるかもだけど、霊とかそう言うとこまではわかんないと思うし。―――あ、送ってくよ。」

 そう言って、自分もいそいそと支度を始める。

「あ、うん。お願い。」

 いつもの雫なら断っていたが、今日は素直に受け入れてくれた。俺は少しでも彼女に近づけただろうか。そんなことを思いながら雫と一緒に外に出た。

「わぁ・・。雪だぁ・・・・。」

 上と下をマンションの壁に阻まれながらもちょうど二人の視線の先には雪の舞い散る景色があった。

「綺麗・・・。久しぶりに見た・・・・。」

 壁(手すり?)から少し乗り出して雫は、雪を受け止めるように手をのばす。

「あんまり乗り出すなよ・・」

 こうして雨や雪、空を見上げるときなど雫はとても無邪気だ。

「ちょっと意外。」

 いきなり雫がそう言った。

「は?何が??」

 そう優斗が聞き返すと雫は言った。

「ん、部屋がきれいだったから。」

 はい?目が点になった。どうしてこのタイミングでそれを言う??

「あははっ。ワケ分かってないでしょ。なんつーの・・・・・・仕返し??」

 え・・・・。ああ、俺がキレたときか。

「仕返しって・・・。」

 呆れて物も言えない。

「うふふっ。いいじゃん。でも意外だったのは本当。一人暮らしでしょ?もしかして定期的になぎが家政婦でもやってるの?」

「ぶっ」

 これには思わず吹き出してしまった。 

 凪とは、小六の時同じクラスだった優斗の仲のいい友達だ(もちろん男)。俺と一緒になって雫と遊んでくれた数少ない二人共通の友達。ちなみに綺麗好きで運動神経抜群。

「んー。まあ結構凪とはゲーセンとかで遊ぶけど・・。あぁ、確かに家来て徹底的に綺麗にされたときがあったかなぁ。何か最近その綺麗さがもつようになってきてるんだよね。」

 そう言って歩き出す。

「へぇ〜。変わってないと思ってたけど、ちょっとは成長したんだ〜?」

 後ろから雫がぱたぱたと追いついてくる。

「うるさいな〜。あ、そうそう。気をつけて。多分明日には噂になってるから。」

「え、なにが??」

 ホントこいつ何にも考えてないな・・・。いくらなんでも考える事と考えない事について差が出すぎだ。

「だから〜。俺との噂!!!」

 もう少し意識してほしい。

「んー。そんなこと言われてもなぁ。だいたいどーやって気をつけるの。」

 うっ・・・。確かにそうかも。

「まあいいんだよ。とにかくそう言うことで!!」

「変なの〜。」

 くすくすと雫は笑った。

 その顔がすごくかわいくてそれを見ることが出来て、すごく幸せだった。


 その時俺は舞い上がってて、気づかなかったんだ。

                  煉の黒い気配に――――・・・・・。

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