第二話 校門で
失敗した。
荻原男子高等学部の校門に立ちながら、雫はそう思っていた。
ちゃんと優斗の言うこと、聞いとけば良かった。
自分が悪いのだ。優斗の制止も聞かずに強引に来てしまったのだから。
はやく、来ないかなぁ・・・。
結構限界まで来ていた。
ここは、中高一貫の男子高校。そんな学校の校門に、めっちゃかわいい女子(本人に自覚はない)がいれば、目立つことこの上ないのだ。
さっきからずっと、下校していく生徒達にじろじろと見られまくりなのだった。
うう・・・。だって忘れてたんだよ。あの電話の時は。
正確には、来る途中まで気づかなかったのだが。まあ、そんな事実、雫は無視する。
はやくこーい。優斗ぉ・・・っっ
その間にもじろじろと無遠慮な視線が送られてくる。
「ねぇ、きみ誰待ってるの?良かったらこれから遊ばない??」
典型的なナンパ男が話しかけてきた。
「え、えーと・・。保坂優斗って人待ってるんですけど・・・。一年の・・・。」
何だか恐くて、雫は小さい声で答える。
「ちっ。また保坂の女かよ・・・・」
ナンパ男がつぶやいた言葉を雫は全く聞いていなかった。
何故なら、
なんかこの人、不良オーラ出してるよ・・・。どーしよぉ・・・。
泣きそうだったから。
しかもこのナンパ男がきても、思うことはあまり変わらなかった。
優斗ぉぉーーーっ!早く来てーーーー!!
若干、必死さが増したが。
が、雫の願い届かず。逆にナンパ男の仲間らしき人が五人新たにこちらに向かって来る。
「えーなに、お前の彼女?んなわけないか。ちょっと俺にも紹介して〜」
え、え〜!?ちょっと、何で増えるのよ!!
「ん〜今ナンパしてるトコ〜。つーかさ名前なんて言うの?保坂なんかやめてさぁ俺らと遊ぼうよ。」
ん?保坂なんか・・・・やめて??
「あ、あの〜、保坂君のこと知ってるんですか。」
自然と優斗のことを名字で君付けしてしまった。いつぶりだろう。
それより、なんでこの二年らしき人が優斗のこと知ってるんだろう。まあ、確かに優斗、見た目は良いけど男子高校じゃ関係ないんじゃないのかなぁ・・。
「ああ、知らないのか。あいつさ〜見た目に物言わせてしょっちゅう女連れてんの。しかもいっつも違う女で美人が多いの何のって。なぁ、女たらしだろ〜。だからさぁ、俺らと・・・・」
ナンパ男はここぞとばかりに売り込もうとする。そんなナンパ男のセリフを遮って、雫は言った。
「え、と。すみません。私は保坂君とは付き合ってないし・・・・。それに今日は保坂君に用事があってきたので。えっと、あの・・・ちょっと遊ぶのは無理で・・・あの、すみませんっ。」
かなり頑張っていった。・・・・つもり。
「えー用事って何〜?いいじゃん、今度でさあ」
う、しつこいよぉ。
「え、ええ〜と・・・・その・・」
困った。やばいぞ。なんだか力ずくでもつ連れていかれそうな気配がひしひしと伝わってくるんですけどぉっっ。
「やー、ごめんごめん。待った?雫。」
優斗の声がした瞬間、ナンパ男達がぴくりと反応した。
「あ、ごめんね。雫ちゃんは俺らと遊ぶ事になってるから。保坂君は引っ込んでてくれるかなぁ?」
ナンパ男達の声がめちゃくちゃ敵対意識むき出しなことに雫は驚いた。
え、もしかして先輩さん達と仲悪いの?しかも女たらしって・・・ホントなのかなぁ。っていうか、私遊ぶなんて言ってないし!!!優斗、なんとかして・・。
「えーだめだめ。さいっしょから雫がここに来たのは俺に会うためなんだから。なあ、雫?」
こくこくっ!
と強めに何度もうなずく。これ以上は嫌だった。
「そんなことないよねぇ?雫ちゃん??」
がくがくがく・・・・
顔を近づけてきたナンパ男は、めっちゃこわかった。すごんでたし。
「ねぇ、そうだよね、し・ず・く・ちゃ・ん??」
がくがくがく・・・・
震えるだけで何も反応しない雫に、ナンパ男はさらに顔を近づけて、すごんだ。
「うっ・・・・。」
がくっと雫が膝をつく。
「わっ、ヤバ。」
その光景を見て優斗はつぶやく。
「おっおい。俺たちは何もしてないぜ!?なあ!!」
周りから受ける「そこまでするのかよ、最低だな」という視線にナンパ男達は必死で弁解しようとする。
「お、おい。どうしたんだ・・・」
よ、と言う前に雫にふれようとしたナンパ男は宙を舞った。
「雫に」
ばったーーーんっ
ナンパ男が地面にたたきつけられる。
「さわるな」
ナンパ男を投げ飛ばした本人―――優斗が冷たい目で残った五人を睨み付けた
「雫の手前、穏便に済ませようとしたんだけどな。もう雫に関わるなよ・・。」
仲間の一人が「ひっ」と声を上げて逃げていく。それをきっかけにみんな一斉に逃げだした。投げ飛ばされたナンパ男は放置されている。
「雫、大丈夫?」
何事もなかったかのように、優斗はうずくまっている雫に声をかける。
が、雫はナンパ男が投げ飛ばされたことにも気づいていない様子で、動かない。
「雫・・・・」
優斗の手が肩に触れると、雫はしゃべり出した。いや、しゃべり出したと言うより、つぶやきだした。
「や・・・っ。だめ、なの。抑えなきゃ・・・・抑えなきゃ・・・・」
雫は焦点の合っていない目でつぶやくだけ。
「だめなの・・。・・・あ」
突然つぶやくのをやめると、ふっ、と倒れた。
「雫!!」
優斗は倒れた雫を抱えた。周囲から「あれ、やばくないか」「さっきのやつらになんかされたんじゃねえの」と囁きあう声が聞こえたが、優斗は無視して走った。