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第八話 リガル


リガルと名乗った若い兵士は、人波に目を凝らしながら紫色の頭を探し始めた。

そんな探し方で見つかるのかと不安に思っていたリアナの心配に気付いたのか、リガルは隣に立つリアナに横目を向けて人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。

「大丈夫ですよ。あんな髪色、すぐに見つかります。あれはかなり目立ちますからね」

「確かに目立ちますよね。……この国では、魔法使いや魔女は珍しいのですか?」

リアナは人波に目をやりながら尋ねる。

こうしてたくさんの人を見ていても、黒や茶色など極一般的な髪色しか目に入らない。

魔法使いの髪色は先天的に鮮やかなものになる。

魔女の髪色は後天的に一部分だけ鮮やかに変化する。

スルティナと同じくらい人がいるにも関わらず、そう言った髪色をした人は今のところいない。

「あー魔女はいるにはいるんですが、まだまだ卵としか言えない状態なんですよ。……やはり書物だけでは難しいようで」

リガルは苦笑しているが、リアナは首を傾げた。

「何処の国にも、訓練舎はあると聞いた事があるのですが」

訓練舎とは、魔法を学びたいと願う魔力を持たない者に魔法を学ばせる為の学び舎だ。

素質があると認められたものだけがそこへ入り、魔力を身につけていく。

「あるにはあるのですが、指導者がいないのですよ」

魔力を身につけただけでは、魔法は使えない。

ちゃんと使えるようになる為に、教える者が必要なのは言うまでも無い。

訓練舎は魔法界公認の唯一魔法が学べる学び舎の為、その指導者も魔法界から遣わされる場合が多い。

指導者は魔法界からの依頼という面目で、魔女を育てに一時的にこちらに訪れる。

依頼という形ならば、称号を持たない魔法使いであっても一時的な滞在が認められるのだ。

「緑の魔法使い……シオナさんとは御会いしましたか?」

リアナは小さく頷く。

「国王が何度指導を頼んでも、シオナさんは絶対に了承しないのです。それどころか、国に魔法使いや魔女を入れるなと国王に約束させてしまいましたし」

「それで、指導者がいないのですか……」

「ええ。この国の訓練舎はまだ新しいほうですから、魔女となった者は少ないのです。それ故、訓練舎を卒業した者に指導を頼む事も出来ないのです」

指導する者がいなければ、魔女は育たない。

それでも魔法を学びたいと願う者は少なからず存在する。

「訓練舎の書物はシオナさんが選りすぐった名著らしいので、指導者がいなくともそこそこ学べているらしいですけどね」

学びたいと言う者の意志を尊重してシオナが自ら提案した事だと言う。

「大変、なんですね……」

リアナは申し訳なさそうに顔を俯けた。

リアナも訓練舎に入って魔法を学んでいた。

スルティナの訓練舎にはきちんと指導者がいて丁寧に教えてくれていたし、書物もかなりの数が魔法界から寄贈されていた。

恵まれた環境にいたからこそ、リアナは王城専属という高位魔女にまでなれたのだ。

「大変なのでしょうね。……あ、いましたよジェイド」

リガルは一瞬自嘲気味の笑みを浮かべたが、すぐに人の良い笑顔に変わる。

リガルの指差す方向に目をやると、人波の中で紫色の頭がちらちらと見え隠れしている。

やがて、ジェイドもリアナ達に気付いたのかゆっくりと近づいてきた。

「やあ、ジェイド」

リガルの満面の笑みとは対照的にジェイドは極まり悪そうなでもどこか不満気な表情を浮かべていた。

ジェイドはリガルを無視してリアナを見ると、呆れたように溜息をついた。

リアナが慌てて謝ろうと口を開いたのを、ジェイドが制す。

「……ごめん、俺がもう少し気を回してれば良かった。慣れない所だから、逸れても仕方ない」

仏頂面で、しかし困った様な口調で謝るジェイド。

「いえ、私が余所見してたから……」

生真面目に謝るリアナ。

そんな二人を見て、リガルがクスクスと笑いだした。

「……笑うなよ」

ジェイドが気まずそうにリガルを睨む。

「悪い、悪い。だって二人して謝ってるからさ、可笑しくって」

「……ていうか、何でリガルはこんな所にいるの」

まだ笑っているリガルに不満を隠そうとしない口調でジェイドが尋ねる。

「ん?ああ、シオナさんの所にお使い行こうとしてたら彼女が困ってたから」

リガルはリアナを示してから、思いついたように懐から一通の白い封筒を取り出した。

その白い封筒をジェイドに渡す。

「これ、国王から。シオナさんにちゃんと渡しておいて」

ジェイドは手渡された封筒を訝しげに見る。

「何だ?これ」

「知らない」

ジェイドの疑問に即答するリガル。

「知らないって……」

ジェイドは即答されて呆然とする。

「だって知らない物は知らない。それより、二人は良いの?こんな所で油売ってて」

リガルにそう言われて、リアナはシオナにお使いを頼まれていた事を思い出した。

「ごめんなさい!私が逸れちゃったから……。早く済ませないと」

「大丈夫だから。それに買う物も少なかったし、もう済ませた」

ジェイドは右手に持った袋をほんの少し掲げて見せた。

「リガルはもう城に戻るのか?」

「いや、一応シオナさんに会っていくよ。もしかしたら、その場で返事を貰える内容かもしれないし」

ジェイドの持つ封筒を指差して、苦笑する。

「……まあ、じゃあ行くか。遅いと遅いで何か言われるだろうからな」

ジェイド達は、シオナの家のある森へと足を向けた。


すっかり冷めきってしまった紅茶を飲みほして、シオナは小さく息を吐く。

「……あたしが知っている事で、お前に話せる事は以上だよ。納得したかい?」

ヴァルアは話の内容を吟味するように、眉間に皺を寄せて両腕を組んでいる。

「つまりはもっと情報を持っているということですか」

「お前に話せる事はもうないよ。お前だって、詳しい事情をあたしに教えてくれていないだろう?それじゃあ何がお前に必要な情報かなんてわかりっこないさ」

シオナは含み笑いを浮かべ、空になった自身のカップに紅茶を注いだ。

「あなたは、何処まで知っておられるのですか……?」

「それはあたしが問いたいね。お前は一体、何処まで知っているんだい」

シオナの言葉にヴァルアは口を噤む。

しばらく二人の間に沈黙が流れた。

拒むことを許さないというようにヴァルアを見据えるシオナ。

その視線を受け、意を決したように深呼吸をして目を伏せるヴァルア。

「……魔法界の創造主」

ぽつりと、ヴァルアの口から零れた言葉。

僅かな怒りを孕んで零れ落ちた言葉に、シオナは静かに目を見開いた。

「レディアーツの、王城に身を潜めていると言う……魔法界を創りだしたモノ。遥か昔に、レディアーツを含む三つの一族に魔法を発展させるよう命じ国を与えた、魔法を持つもの全てを統べる神」

伏せていた目をあげてシオナを見つめたその瞳には、声に含まれるような怒りはなく全く感情が浮かんでいなかった。

「……私は、ある目的の為にこの称号を手に入れました。その一つが、創造主と会う事です」

「さも、創造主が実在する事を知っているかのような口ぶりだな。魔法界の者達はみな、神話やお伽話の類のように考えていると認識していたんだがね」

「昔、私はこの目でその姿を見たもので」

ヴァルアの目を見て、シオナは感心したように小さく頷いた。

「……確かに、創造主は存在するよ。ただ人目に触れる事が無いだけさ。会える者も限られているしね」

「あなたは、創造主に会ったことがあるのですね?」

ヴァルアの確認しているようにも取れる問いに、シオナはふっと小さく笑みを浮かべる。

そして、視線をヴァルアから外して森の方へ向ける。

つられるようにヴァルアもそちらを見やると、遠くから見覚えのある人影が歩いて来ていた。

シオナは立ち上がり、家に向かって右手の人差指を一振りする。

すると、ひとりでにドアが開きカップが一つと数個の林檎が入った籠が飛んできた。

それをテーブルに着地させ、自身はテーブルを離れる。

「……ヴァルア、今までの話は無論他言無用で頼むよ。特にジェイドにはね」

それだけ呟いて、シオナは森からやってくる三人を出迎えに行った。

納得していないようなヴァルアも、シオナに続いてテーブルを離れる。

「お帰り、二人とも。それと、いらっしゃいリガル。またお使いかい?」

三人は小走りでシオナ達に近づき、リガルは兵帽を脱ぎシオナに対して敬礼をする。

「王からの文をお届けに参りました」

リガルはジェイドを肘で突き、ジェイドは先程渡された封筒をシオナに手渡す。

受け取ったシオナはその場で開ける事はせず、すぐに懐に仕舞い込んでしまった。

「御苦労さま。来たついでだ、紅茶でも飲んでおいきよ」

「……ありがたいですが、これからまた王の所へ行かねばならないのです」

「おや、忙しないな。じゃあちょっと待っていなさい、先程の文を読んでしまうから」

シオナはにこりと微笑んで一人、家の中へと戻ってしまった。

「……国王、何かあったのか?」

それまで黙っていたジェイドが、心配そうにリガルに問う。

「別に、大したことじゃないさ」

笑って答えるリガルは、ふと視線をヴァルアへと向けた。

「城門では手間取らせてしまい申し訳ございませんでした。蒼の魔法使い、ヴァルア・ティルファール殿ですよね?リガルと申します」

リガルは体ごとヴァルアに向き合い恭しく一礼した。

「いや、こちらも突然の訪問すまなかった」

ヴァルアは仏頂面で、軽く頭を下げた。

「なあ、師匠戻ってくるまでまだかかりそうだしとりあえず座らないか?」

ジェイドの言葉にヴァルア達は頷き、テーブルへ近づく。

リガルが加わった事で席が足りなくなった為、ジェイドは椅子を取りに家へと入っていった。


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