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第六話 クロト国へ


ヴァルアはジェイドの腕を引っ張って、堂々と王室に入って来た。

「蒼の魔法使いか……久しいな」

国王の言葉にヴァルアはにやりと笑った。

「そうだな、定住許可を申請しに来た時以来だから……五年振りくらいか」

「何用だ?」

ヴァルアはジェイドを国王の前に突き出した。

「こいつの人捜しに同行する事にした。しばらく国を留守にしたい」

「俺は、まだ何も言っ」

反論しようとしたジェイドの口は、ヴァルアの魔法によって強制的に閉じられた。

「国に定住している魔法使いは、その国の王の許しなしには国外に出れないのでね」

ヴァルアはにこりと笑い国王に返答を促す。

「無期限の外出は許可できぬ」

王の言葉にヴァルアは困ったように頭を掻く仕草をした。

「最大、何年の許可なら出せるのだ?」

今度は国王が考え込む。

「……最大二年だ。それ以上は許せぬ。もし、帰ってこなければ定住をやめてもらう」

ヴァルアは嬉しそうに拍手した。

その行為を、彼の隣にいるジェイドが非難がましい目で見ている。

どうやら早く魔法を解いて欲しいようだった。

ヴァルアはそんなジェイドを無視して、すっと王の前に二本の指を立てる。

「二年、私はこの国を留守にしよう。早速明日、出発する」

ヴァルアはそう言って、隣のジェイドの腕を引っ張り踵を返した。

部屋を出る直前、ふと気付いたようにヴァルアは足を止めた。

腕を引っ張られたまま後ろを歩いていたジェイドが驚いて躓く。

「国王よ、捨て子の魔女に魔法界を教えるのなら今しかない。魔女の場合、成長していくにつれて魔法界への扉は狭まっていくからな」

それだけ言って、ヴァルアとジェイドは部屋を去っていった。

リアナはその後ろ姿を見ながら、背後に王の視線を感じていた。

「……二年だ。それまでに戻らなければ、王城専属を剥奪する」

溜息とともに出た言葉に、リアナは驚いて王を振り返る。

「好きにしなさい」

王は愛おしそうにリアナを見つめて、優しく微笑んでいた。

リアナは決心して扉へ向かって走り出す。

扉の前で一度立ち止まり、王を振り返る。

「ありがとうございます!」

リアナは恭しく一礼してから、ヴァルアとジェイドを追って去っていった。

「いってらっしゃい、捨て子の姫よ」

王は悲しそうに別れの言葉を呟いた。

国の城壁前でボロボロになっていた幼い彼女を拾い、国中で大切に育て上げた。

国から最大級の愛情を注がれて、立派に育った捨て子の旅立ちを優しく見守っていた。


「ヴァルアさん、ラスティアラさん、私も一緒に連れて行って下さい!」

王城を出た二人の背後からリアナの声が聞こえて、ヴァルアは立ち止まってリアナが来るのを待つ。

追いついたリアナが息を整えているのを見て、ヴァルアは優しく笑う。

「いいだろう、私がお前に魔法界を教えてやろう」

「ちょっ、何勝手に」

ジェイドは魔法を解いてもらえたようだが、文句を言おうとした今度は手で塞がれてしまった。

「よろしくお願いします」

リアナは少し気まずそうにジェイドに視線をやった。

ジェイドは困ったような顔になり、それから諦めたように溜息をついた。

口を塞いでいたヴァルアの手を思いっきり弾いて、ヴァルアを軽く睨んでからリアナを見やる。

「もう勝手にしてくれ。……あと一緒に来るなら俺の事ジェイドでいいよ。同い年らしいし敬語もなし」

ジェイドの諦めた態度に、リアナはくすくす笑って嬉しそうに頷いた。

「よし、では行こうか」

ヴァルアは何処からか魔法使いが被る黒い山高帽を取り出して二人を促した。


「あっ、と。悪いんだけど、一度クロト国に帰ってもいいかな?」

スルティナ国を出る際、突然ジェイドがそんな事を言いだした。

「クロト国だと?お前はそこから来たんだろう。なら行く必要はないではないか」

ヴァルアは小さく首を傾げた。

そう言われて、ジェイドはかなり言いにくそうに口ごもる。

しかし、ヴァルアの促すような視線に負けて渋々口を開く。

「その……俺を育ててくれた人から……条件が出されてて。国を出るのは……許可、されたけどその、スルティナまでしかダメって言われてて」

「はあ?そんな事を言ったらお前……他の国にいけないではないか」

「だ、だから、他の国に行く必要がある場合は……一度戻れって言われまして」

「そう言う事はもっと早めに言え!」

ジェイドは面白いほどに慌てていた。

まさかこんなにも早く戻る事になるとは思ってもいなかったのだろう。

ヴァルアは隠すことなく大きく溜息を吐いた。

「言いあってても仕方ないですし、とりあえずクロト国へ行きましょう。でなければ、他の国へ行けないんですから、ね?」

苛立っているヴァルアを何とか宥めようと、リアナが二人の間に割って入る。

「……リアナの言う通りか。さっさと行って許可を貰ってくるとしよう」

「そんなすぐに許可がでるといいけれど……」

「何か言ったか?ジェイド」

「いや、別に」

ヴァルアの機嫌をこれ以上害さないように、ジェイドはすぐに口を噤んだ。

歩き出したヴァルアの背後でこっそりとジェイドは溜息を吐く。

「何か心配でも?」

ヴァルアに気付かれないよう、リアナが小さく尋ねる。

そんなリアナに倣ってジェイドも小声で呟く。

「ついこの前出てったのに、こんな早く戻るなんて……絶対何か言われるだろうなって」

「どんな方なんです?」

癖で敬語が抜き切らないリアナに苦笑しながら、ジェイドは考えるように視線を上に巡らせる。

「そうだな……。一言で言ってしまえば、怖い人だ」

「怖い?」

「うん、怖い。師匠は俺にとっては親みたいなものだけど……なんて言うか、考えてる事が全くわからないし、王からの召喚にも断固として応じないし、なにより強い」

ジェイドの言葉に前を歩くヴァルアがほんの少し振り返った。

「こちらの世界に居ると言う事はなんらかの称号を持つ魔法使いだろうが、クロト国にいるなんて聞いた事無いのだがな……」

「結構昔からクロトに住んでるらしいけど。そういえば、その辺の事聞いた事無いな」

「まあ、直接本人に聞けばなんら問題は無い」


クロト国の城壁までそれほど時間はかからなかった。

しかし、入国するに際し問題が発生した。

「定住するわけではないのだから、少しくらい入国しても問題ないだろう」

「しかし……」

ヴァルアと城壁警備の兵士がもめたのだ。

兵士がというよりクロト国の王がこれ以上魔法使いを入れたくないと拒否しているらしかった。

「何だというのだ。何故これほどまでに、クロトの王は魔法使いを避ける?」

不機嫌極まりないヴァルアの態度に、焦る兵士達。

「あー……多分師匠のせい、かも」

「何だと?」

ジェイドはヴァルアの問いには答えず、おろおろしている兵士に何かを伝える。

兵士はジェイドを見て一瞬だけ安堵したように息を吐いた。

そしてすぐに詰所から小さな通信機を持ってきて、ジェイドに手渡す。

『どうしました?先程から何やら慌ただしくしているようですが……』

通信機から聞こえてきたのは若い青年の声。

「久しぶり。今日は城壁警備じゃないんだな」

ジェイドは名乗る事はせず、含み笑いを浮かべる。

『……ジェイドか?そこで何してんだ……スルティナに行ったって聞いたんだが』

「ちょっとね。で、入国させてほしいんだけど?」

『少し待っててくれな』

一度通信が途切れ、ジェイドは言われた通り黙って待つ。

暫くすると、再び通信が入った。

『ジェイド、許可貰ったぞ』

その言葉を聞いて、警備の兵士は慌てて詰所に戻る。

詰所から戻って来た兵士に渡されたのは二枚の入国許可証。

「あれ、俺のは?」

その二枚にヴァルアとリアナの名が記されているのをみてジェイドは首を傾げる。

『お前は住人だからいいんだよ』

ジェイドの問いに通信機から答えが返って来た。

「そっか。まあ、ありがとね」

『これくらい何でも無いよ。……お帰りジェイド』

通信が切れると同時に、閉ざされていた門が開いた。



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