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第五話 魔法使いと魔女


ジェイドはヴァルアに促されて家の中へ入っていく。

玄関をくぐる瞬間、不思議な圧力を感じた。

眉を潜め玄関を睨んでいると、ヴァルアが魔法でドアを閉じてしまった。

「部屋の中には魔力が充満しているのだよ。お前は空気に押し返されるように感じたのだろう?」

まさにその表現だと思ってジェイドは強く頷いた。

「自分の源とは違った魔力が充満する空間に入るとなる現象だ。魔法使いはほんの少しの圧迫感で済むが、これが魔女や魔力を持たぬ者だとその圧力に耐えきれないのだ」

「だから連れてこなかったのか」

「まあ、そうだな」

ヴァルアは杖をドアの横に立てかける。

部屋の中央には白いテーブルと椅子、窓の横には長ソファが置かれている。

壁はほとんどが棚で埋まり、棚の中にはぎっちりと隙間なく書物が納まっている。

部屋の奥にはキッチンがあり、そこにある棚には書物と同じくらいの数の小瓶が納まっていた。

「まあ、その辺に座ってくれ」

ヴァルアが白い椅子に腰を下ろすと、キッチンからポットと二個のコップがふわふわと漂ってテーブルの上にゆっくりと降り立った。

促されるままジェイドはヴァルアの正面に腰を下ろす。

「さて、と。さっきの続きを聞こうではないか」

「続き?」

「お前が何故記憶を失くしたか、それを詳しく話せと言っているんだ」

ヴァルアの言葉にジェイドは目を伏せた。

「……話したくないのならいい。だが、質問には答えてもらうぞ」

ジェイドはヴァルアと視線を合わせずに小さく頷いた。

「お前が覚えている限り一番古い記憶はいつ頃だ?」

「五年前……かな。気付いたらクロト国にいた」

「クロト国?隣国じゃないか。それまで何処に居たのか全く覚えてないのか」

ジェイドは目を伏せたまま眉間に皺を寄せている。

「一つだけ……崖の上に居た事は覚えてる」

「崖?確かクロト国の北にあるにはあるが……。そこから自分でクロトへ移動したのか?」

「……わからない」

今度はヴァルアが眉間に皺を寄せる番だった。

自分が居た場所や移動した場所は覚えているのに、どうやって移動したのか覚えていないときた。

五年前と言うと、ヴァルアが魔法界から人間界へ住処を変えたのと同じ年である。

同時に魔法界である事件が起きた年でもあった。

「そもそも、お前は魔法使いなのだろう?何故人間界にいるのだ」

ヴァルアが一番気になっていた事だった。

魔法界と人間界との間を行き来できるのは魔法使いだけであり、その中でも一握りの者しか許されない筈なのだ。

そして人間界に留まり続けている魔法使いもまたその中のほんの一部のみ。

魔法使い同士がお互いに干渉する事はあまりないが、情報として人間界のどこに魔法使いがいるかは把握している。

把握していたはずなのだが、ヴァルアはジェイドの存在を知らなかった。

魔法界が魔法使いの存在を把握していないという事はあり得ない。

しかし魔法界からの情報にジェイドらしき存在はなかった。

「魔法使いだけど、魔法界については何も知らない」

「何だと?始めから人間界に居たというのか?」

ヴァルアは意味がわからなくて天井を仰いだ。

「お前にかけられているだろう呪いは相当なものののようだ。……お前本当に何をしたのだ?」

ヴァルアの言葉にジェイドはバツが悪そうに口ごもる。

「……何をしたかは、覚えているのか」

ジェイドの肩がぴくりと動いた。

しかし、それ以上の反応を見せようとしない。

「覚えている事を、話せる限りで良い、話してくれないか」

ジェイドはようやく伏せていた目を開け、ヴァルアを見つめた。

その瞳に掛けられていた魔法は効力を失ってしまったようで、右目が紅に変わっていた。

「……俺が、覚えているのは――」

そして、話し始める。


喫茶店でヴァルアとジェイドの二人と別れたリアナは足早に王城へと戻っていった。

頭の中ではヴァルアに言われた言葉が何度も再生されている。

「魔女は魔法使いと関わるな」

二人について行こうとしたリアナに、彼女にしか聞こえないようにヴァルアがそう呟いたのだ。

言葉通りにとるならヴァルアやジェイドに近寄るなという意味で言われたのだろう。

しかし、それ以外に足手まといだという意味も含まれている気がして悲しくなった。

いつの間にか王城に辿りついていたリアナは、迷うことなく王室へ向かう。

ノックをして王室へ入ると、そこには王だけが待っていた。

「お帰り、リアナ。ラスティアラ殿はどうした?」

リアナは王の眼前へいき恭しくお辞儀をする。

「喫茶店にて噂の魔法使いと会う事が出来ました。今は二人で魔法使いの家にいるかと思います」

「そうか……。ご苦労だったな」

王の労いの言葉に再び頭を下げるリアナ。

しかしそのまま頭が上がる気配はない。

「リアナ?」

王は不思議そうに彼女の名を呼ぶ。

ほんの僅かだが彼女が震えているのに気付き、黙って彼女の言葉を待つ。

「私は、何も知らないのです。魔法界の常識さえも……」

リアナは悔しそうに呟く。

「リアナ、五年前捨て子だったお前をこの国総出で育て上げた。お前の望むよう、魔女の訓練もさせた。お前には魔力を宿した痕跡はあるが、魔力自体は持っていなかった」

王はリアナに言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「魔法使いなら魔力を失えば魂は無に帰す。魔女ならば人に戻ってしまう。だが、お前はどちらでもなかった。生きているし、そもそも人ならばその瞳はあり得ない。だから魔法界を教えられなかった」

リアナは悲しそうに頷いた。

魔法使いは初めから魔法界に属すもの、魔女は途中から魔法界に属すことを許されたもの。

魔法界の住人になる過程が異なるため、常識となる範囲も変わってくる。

しかし人は、魔法界を知ることを禁じられている。

魔法界を知りたいがために人は魔女となるのだ。

魔女になったものが人に戻ってしまうと二度と魔女にはなれない決まりがある。

魔女は厳しい制約の中、存在する。

もしリアナが捨てられる以前魔女であったなら魔女になることはできなかった。

しかし、魔力の痕跡があるのにリアナは魔女になっている。

リアナは異例だったのだ。だから、王は魔法界について何も教えなかった。

「王、私は知ってはいけないのですか」

リアナの真っすぐな瞳が王に向けられる。

「……それは誰にもわからない」

王は少しだけ突き放すように答える。

その瞳に悲しみの色を浮かべて、リアナの真っすぐな視線を受け止める。

リアナが何か言おうと口を開きかけた時、王室の扉が静かに開けられた。

「少し邪魔する。国王よ、私はヴァルア・ティルファール。この国を住処としている魔法使いだ」



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