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第四話 蒼の魔法使い


小さくお辞儀をしたリアナに、女性――ミリヤ――は優しく微笑む。

「久しぶり。こんなに早くから来るなんて珍しい、お仕事かしら?……後ろの彼、見かけない子だけど」

リアナはジェイドの手を引いて、自分の前に立たせた。

「昨日、いらした旅人さんです」

「……ジェイド・ラスティアラです」

リアナの無言の圧力に促されて、渋々自己紹介をするジェイド。

その様子を見て、ミリヤは声を出して笑った。

「初めまして、ラスティアラくん。で、どんな御用かしら?」

「この店に最近よく来ると言う噂の魔法使いと会いたいのですが」

リアナが前に出て、声を潜めて言う。

ミリヤは一瞬だけジェイドを見る。

そして、店の奥を指差した。

「運がいいわね、今日はもう来てるわ。奥に居るから、いってらっしゃいな」

それだけ言うと、ミリヤは仕事に戻ってしまった。

リアナは小さくお礼を言って、ジェイドを促し奥に向かう。

店の奥にはカーテンで仕切られた簡易小部屋がいくつかあった。

その中に一つだけカーテンの閉め切られた部屋があった。

リアナはそっと、少しだけ空いているカーテンの隙間から中を覗き見る。

「魔女が私に何の用だ?私は魔女が嫌いなんだがな」

リアナを見てすぐに魔女だと気付いたらしい中の人物は刺々しい声を発した。

「いや、あの、私じゃなくて……」

刺々しい声に気圧されたのか、いきなりの嫌い発言にショックを受けたのか、リアナが慌てて説明しようとする。

「ほう、では後ろにいる男のほうかな?顔をみせたらどうだ」

声の主は慌てるリアナが面白いのか、くすくすと笑っている。

ジェイドは言われた通り、カーテンの内側へ入った。

それに続いて後ろからおずおずとリアナも中へ入る。

「ん?何だ魔法使いではないか」

部屋の中にいたのは蒼の短髪に蒼の瞳を持つ男だった。

男はじろじろとジェイドを観察する。

その視線がジェイドの瞳を見た瞬間にすっと険しくなった。

ふいに男がジェイドの瞳に右手を翳した。

ジェイドは避けようとしたがすでに遅く、瞳にかけられた魔力がぱちんと音をたてて弾けた。

「……オッド・アイではないか。魔力の高い証拠だ」

男は珍しそうにその瞳を観察している。

その視線が鬱陶しいのかジェイドは小さく舌打ちして、魔法が解かれた右目に左手を翳しゆっくりと魔法をかけなおす。

紅だった右目が左目の同じ藍色に戻った。

そのまま男とジェイドの間を沈黙が支配する。

「あ、あの、あなたが魔法使い……ですよね?」

沈黙に耐えかねて、ジェイドの背後からリアナが慌てて声をかける。

「ああ、この国を住処にしている。ヴァルア・ティルファールだ」

男――ヴァルア――は、とりあえずジェイドとリアナに席を勧めた。

ヴァルアの正面にジェイド、その隣にリアナが座る。

「こちらは名乗ったが、そちらは名乗らないのか?」

ヴァルアはじろりとリアナを睨んだ。

リアナは最初の事と相まって完全に怯えている。

「あ……この国の王城専属魔女の、リアナです」

「ほう……あの噂の捨て子か。それなりに成長したのだな」

ヴァルアは悪戯っぽく笑い、続いてジェイドに視線で名乗るよう促した。

「ジェイド・ラスティアラ」

ジェイドは文字通り名前しか言わなかった。

そんな態度にヴァルアは一瞬きょとんとして、ぷっと吹き出した。

そして声を出して笑い始める。

「おいおい、本当に名前しか教えないわけじゃないだろうな。私に用があるのだろう?」

「そっちも名前しか言って無い。それに魔法を解いたからって本当に魔法使いとは限らない」

ジェイドはヴァルアを睨んでいた。

どうやら瞳にかけられていた魔法を解かれた事に不満があるらしい。

「お前、一体何処から来たのだ?」

ヴァルアは呆れたように呟いた。

リアナは先程から黙って首を傾げている。

「お前、魔法使いだろう。その世界じゃ私はそれなりに有名なのだが……。蒼の魔法使いという名を聞いた事ないか?」

ジェイドは眉を潜めて首を傾げたが、反対にリアナが目を見開いてヴァルアを見た。

「私、知ってます。でもあなたがそうだったんですか?」

ヴァルアはリアナに視線を向ける。

「ほう、魔女が魔法使いを知っているのか。王城専属だけあるな」

「蒼の魔法使いって?」

リアナに感心していたヴァルアにジェイドが刺々しい声で尋ねる。

「私が授かった称号名だ。……私の魔力の源が水なんだよ。まあ、髪の色ともかかっているのだろうが」

ヴァルアは簡単に自分の称号の由来を説明した。

しかしそんな簡単過ぎる説明のせいかジェイドは首を傾げている。

「魔法使いの魔力はいくつかの源に分かれていると聞いた事があります。それぞれの源で一番能力の強い人に称号が与えられるそうで。ティルファールさんのように水が源の人は、水の加護が宿っています」

リアナの説明にヴァルアが満足そうに微笑んでいる。

ジェイドもなんとなく理解できたのか小さく頷いた。

「リアナよ、私の事はヴァルアと呼びなさい。で、用件は何だ?これで魔法使いだとわかっただろう」

ヴァルアは初めてリアナに優しい笑みを向けた。

「人を探している」

ジェイドはヴァルアが魔法使いであるとわかり用件を伝え始めた。

「名前しかわからない。……それでも、必ず探して会うと約束した」

「なるほど。しかしオッド・アイの持ち主だ、人捜しの魔法くらい容易だろう」

ジェイドは悲しげに首を横に振る。

「いくら魔力が高くても、俺にはできない」

その言葉の真意を、自分が魔法を満足に使う事が出来ないという事をジェイドは言わない。

それでも彼の真剣そうな瞳を見て、ヴァルアは笑みを収め険しい表情を浮かべる。

「お前は今何歳なのだ?」

「十五」

「何だ、リアナと同じではないか」

ヴァルアはジェイドがかなり若い事に驚いた。

同時に疑問が浮かぶ。

十五歳ならば、オッド・アイを持たない魔法使いであっても人捜しの魔法は簡単なもののはずだ。

ジェイドはそれを出来ないと言った。

オッド・アイを持っているにも拘らず、簡単なはずの魔法を使えないという。

「もし、その探し人が魔女や魔法使いの類なら探しだすのは困難だぞ」

脳内で考えを巡らせていた疑問は口には出さずヴァルアが言う。

「困難……」

ジェイドは肩を落として復唱する。

「魔力で感知できないよう防御魔法を使っているかもしれないだろう。そこはどうなのだ」

「わからない」

ジェイドの言葉にヴァルアは眉を潜めた。

リアナも首を傾げている。

「どういうことだ?本当に名前しか知らないのか」

ヴァルアが少し怒ったような口調で訊く。

「本当に名前しか知らない。俺は記憶を奪われたから……」

「はあ?」

ヴァルアは思わず素っ頓狂な声をあげた。

「あの、記憶を奪われたって……?」

「全部奪われたわけじゃないけど、探し人に関する記憶だけがないんだ」

ジェイドは悲しそうに目を伏せる。

「けれど、必ず探しだして逢うと約束した」

その言葉には強い決意が秘められていた。

ジェイドが嘘を吐いている気配は全く感じられない。

「……呪いだろうな。それも凄く強力だ。お前、何かしたのか」

ジェイドは首を横に振る。

「面白い。……お前のその呪い、私が解明してみせよう」

ヴァルアはふっと笑みを漏らし、尊大に言い放った。


ジェイドに“呪い”がかかっている可能性がわかると、ヴァルアはジェイドを連れて早々に喫茶店を後にした。

リアナは一緒に行こうとしたが、ヴァルアにきっぱり断られて一人喫茶店に残った。

「あの人は一緒にこなくていいの」

足早に城下町を行くヴァルアの斜め後ろに付いて行くジェイドが尋ねる。

「あれは魔女だからな。魔女が魔法界に関われるのはほんの僅か、魔法の基礎知識の共有くらいなのだ」

「魔法の基礎知識?」

「魔法使いと魔女とでは使える魔法の数が違う。二つの間には明確な線引きがあり、それを越える事は絶対に許されない。基礎知識っていうのはまあ、その線引きのことだ」

ヴァルアは背後を振り返る事もせず、淡々と説明する。

「リアナを連れていかない理由はそれだけではないがな」

ヴァルアは立ち止まり背後を振り返る。

突然立ち止まったヴァルアをジェイドが不思議そうに見つめる。

二人はいつの間にか城下町を抜けて、国の西端へ辿りついていた。

スルティナ国の西端には広大な湖が存在する。

そしてその湖は今、彼らの目の前にあった。

「湖……?こんな所に何の用が」

「黙って見ているがいい」

ジェイドの疑問はすぐにヴァルアによって制された。

ヴァルアはどこからか小さな銀色の十字架を取り出した。

十字架はヴァルアが手を翳したと同時に長い杖に変化する。

十字架の中央には鮮やかで冷たい蒼い光を放つ石。

その杖の先端で水面を数回突く。

「なっ……!?」

二人の目の前で、湖上に大きな変化が起きた。

湖の中心に突然質素な一軒家が現れたのだ。

同時にそこへ通じるよう等間隔に浮き石が水面に浮かぶ。

「行くぞ」

ヴァルアは杖を片手にジェイドを促し、湖を渡っていく。

背後からおっかなびっくり付いてくるジェイドにヴァルアが苦笑を浮かべる。

「静かに暮らしたいから住処を隠していたにすぎん。何か問題でもあるか?」

「いや……別に。国王は知ってるのかなって」

「ちゃんと報告はしているよ。見つけられるかは別としてだがな」

笑って言うヴァルアを見て、ジェイドは何も言えなくなった。

そんな話をしている間に、家の前へ辿りついていた。

白い質素な家。

よく見ると家の真下には魔法陣が緩慢な動きで回転している。

「ようこそ、蒼の魔法使いの家へ」



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