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第二話 シオナと兵士


ジェイドが旅立った次の日、来客が来た。

濃い緑色に紅のラインが入った兵服を着て緑色の兵帽を被った若い男。

「こんにちは」

シオナが挨拶をして家に招き入れると、若い兵士はびしっとした敬礼で応じた。

「お久しぶりです、シオナ殿。本日は王の伝言をお伝えに参りました」

「王から?何かしら……」

シオナは魔法書などで散らかっているテーブルを綺麗にし兵士に椅子を勧める。

兵士は軽く会釈して勧められた椅子に座った。

シオナは2人分のコーヒーを用意して、自分も椅子に座った。

「……ジェイドは出掛けているのですか?」

「ええ、しばらくは帰ってこないでしょうね。旅に出たのよ」

「旅、ですか」

「そう、旅よ。……そろそろ用件をいいかしら?」

シオナは微笑んで用件を促した。

シオナと兵士にとっては今までの会話も挨拶のようなものだ。

兵士は頷いてポケットから手帳を取り出し、栞の挟まったページを開いた。

「昨日くらいに受け取られたと思いますが、『定住届』を早めに出して欲しいという事、国周辺の守護魔法を強化して欲しいという事、あとこれが一番重要なんですが……一度でいいから王城へ来てほしいと」

兵士は手帳から目を放してシオナを上目使いに窺った。

「『定住届』は書いたわ。守護魔法の強化も今日の内にやっておく。でも、王城へは行かないわよ」

兵士はうんざりしたような溜息をついた。

「どうしてそう頑なに拒むのですか?もう何回目ですか……」

どうやらシオナが王城への参上を拒むのはこれが初めてではないようだった。

「そちらが諦めればいいのよ。一度でも行ったら、訓練を頼まれるのが目に見えてるもの。そんな面倒くさいこと嫌よ」

「……それはそうですが。じゃあ何故ジェイドを引き取ってくださったんですか?」

シオナは兵士から目を逸らした。

「シオナ殿」

「……あたしが見つけたから引き取ったんだよ」

シオナは右手をひらひら振った。

すると片づけた魔法書の隙間から一枚の紙がひらひら飛んできた。

それを捕まえると、兵士に突き出した。

「ほら、『定住届』だよ。とっととお帰り」

兵士は小さく溜息をついて紙を受け取った。

「……失礼致します」

兵士は敬礼して、家を去っていった。

シオナはそれを見送り、溜息をつく。

家へ入ろうとした時、翼のはためく音が聞こえた。

「ん?」

シオナは音のするほうへ視線を向ける。

すると、一羽の純白の鳥が飛んできた。

鳥はシオナが差し出した右腕にとまった。

「なんとタイミングのいい……」

シオナは呆れたように呟き、鳥の首に掛けられた小さな巾着を取り、中を見る。

中には四つ折りにされた一枚の紙と翡翠の石が一つ入っていた。

鳥を窓枠にとまらせて、シオナは紙を開いてざっと読むと、また溜息をついた。

「まったく、魔法界には逆らえないね。ジェイドの事といい……何がしたいんだ」

シオナは家へ戻り、書物の山から羊皮紙を捜し出し、さらさらと何かを書いた。

そして、先程の巾着に入れて窓枠で休んでいる鳥の首にかけた。

「さあ、お行き」

鳥は翼をはためかせて、飛んで行った。

それを見送り、シオナは奥の部屋へ向かう。

しばらくすると、小さなガラス瓶に水を入れて戻ってきた。

シオナはその瓶に翡翠の石を入れ、きつく蓋を閉め窓際に置いた。

窓から降り注ぐ太陽の光を浴びて、水に浮く翡翠が煌めいている。

シオナはドアの横に立てかけられた、細長い銀の杖を手に取り外に出た。

外に出ると、家から少し離れたところで杖を地面に突き立てた。

先端についたひし形の翡翠が妖しく光った。

シオナと杖を中心に大きな魔法陣が展開される。

「風達よ、ここに集いてこの地を守れ」

シオナが唱えると、四方八方から風が吹き魔法陣の内側に集まり始めた。

集まった風は渦を巻いて球体となった。

シオナがそれに手を翳すと、緑色の十字架が球体に映り球体が空高く浮かび上がった。

かなり高く上がったところで何かにぶつかった様に球体が弾けて消え、十字架だけが空に残った。

その十字架もやがて空に溶けていった。

「これくらいか。しかし強化しなくとも平気なんだがね」

シオナは溜息をついて家へ戻っていった。



シオナが国の守護魔法を強化している頃、ジェイドは隣国スルティナ国の前までやって来ていた。

前までというのは国の城門にいる兵士達がジェイドをなかなか入れてくれないのだ。

日が沈むくらいにジェイドは国に辿りついていたのだが見た目やら持ち物やらのせいで兵士達が渋っているため未だ国の前で立ち往生していた。

必死に説得して、兵士達が根負けして国内に入れた時にはすでに月が昇っていた。


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