養女
「あなたを私の養女にしたい。」
そうパールバン公爵が突然言った時は、ジュリエットは驚愕のあまり目を見開いた。
「養女?」
ジュリエットが聞き返す。
「そう、養女です。私は、まだ独身で娘がいません。さらに、一人っ子で兄弟がいません。従兄弟も男しかいません。つまり、現在我が家で皇帝に嫁げる女子がいないのです。ですから、メソポタ王国のワーレンベルグ子爵の娘マリアとしてではなく、メレヌス帝国の宰相パールバン公爵の養女マリアとして嫁いでいただきたいのです。」
「…。」
ジュリエットは、思わぬ申し出に驚きを隠せない。
「パールバン公爵の養女マリアとして嫁ぐということは何か政治的な思惑があるのですか?」
ジュリエットは聞き返す。
「あなたは、なかなか鋭い女性ですね。そうです。今は、皇帝の側近で宰相をさせていただいている私ですが、今後娘を差し出すことで権力を得ようとする輩が我が国にいると思われます。現在、非常に政権は安定しています。この現状を崩すことは我が国にとってあまりよろしくないのです。現在後宮には后妃になれる身分の女性はいません。ですから、私の養女として嫁げば、ワーレンベルグ子爵の娘マリアとして嫁ぐよりも、公爵令嬢という身分で嫁いだ方が後宮での待遇もよいし、もしかして后妃になりうるかもしれないです。」
突然湧いてでた思わぬ提案に、ジュリエットの心は右往左往していた。ですが、公爵令嬢なんかになってしまったら、さらに脱出は難しくなってしまうだろう。そう、ジュリエットは思った。
「…。私は、メソポタ王国のワーレンベルグ子爵の娘マリアであることを誇りに思っています。ですので、今の身分のままで結構です。」
ジュリエットは、そつなく断ろうとした。
「本当に、この提案を受けていただけませんか?」
目をギロギロさせながら、パールバン公爵が聞き返す。
「はい。」
ジュリエットが、答える。
「私の養女になっていただけないなら、あなたにはこの場で死んでもらいます。」
そういって、パールバン公爵はなにか怪しげな瓶をポケットから取り出した。
「死んでもらう?はっ?何のことですか?」
思わぬ展開にジュリエットの頭はついていけそうになかった。