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男装伯爵とメイド  作者: 橘 紀子
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要人

これから、ミシェルは本名ジュリエットで書いていきます。

メレヌス帝国の宰相パールバン公爵は、ジュリエットのいる隣の屋敷でこれから自分が会いに行く予定の少女の事を考えていた。本当は、ただの人質にすぎない少女であった。しかし、あの方に気に入られたからにはこれからの人生は平凡には行かないに違いない。どんな子だろう?後宮のいかなる花もあの方の心をとらえることはできなかったのに…。








 数刻前、ジュリエットにワーム男爵と名乗った男が、パールバン公爵のいる部屋に入ってきた。ワーム男爵が入室やいなやパールバン公爵はワーム男爵を上座に案内した。


「帝国の方に、何かかわったことは?」


ワーム男爵が、パールバン公爵に尋ねた。


「何もおかわりなく。とまでは、申せませんが今の所目立った動きはありません。」


パールバン公爵が答えた。


「ところで、後宮に入る予定の新しい人質だが…。」


ワーム男爵が、言いにくそうに話し始めた。


「メソポタ王国のワーレンベルグ子爵の娘マリアのことですか?彼女なら、後宮のDランクの部屋に入室する予定です。一様あなたの側室の1人として後宮に入るはずですから、それなりの準備はする予定ですが…。どうかなさいましたか?」


パールバン公爵は、いつもと違って歯切れの悪いワーム男爵を見ながら心配そうに答えた。


「そのことだが、彼女はしばらく後宮には連れて行かない。ここに、匿っておこうと思う。」


「…。」


「自分でも、なぜこんなことを言い出したかわからない。ただ、あの子は後宮に向いていないと思う。それに、見ているとなぜか気になるんだ。一緒にいると落ち着かないし…。」


「冷静沈着で、思慮深いメレヌス帝国の皇帝であるあなたの落ち着きを失わせる女性ですか…。面白い、是非後宮に連れていきたいところですが…。今回は、あなたの意見を尊重し、しばらくこの屋敷に匿っておきましょう。ワーレンベルグ子爵には、娘マリアは後宮に入ったとお知らせしておきますが…。」


パールバン公爵が、笑いながら答えた。









+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




黒い髪に茶色の目…。


今のジュリエットはそう見える。


ジュリエットは、自分の姿を鏡で見ていた。本来の私は、本物のミシェルと良く似ていた。


ミシェルは、金髪で海のような青い目をしていた…。





「パールバン公爵が、屋敷に到着したようです。」


 侍女のアリアが、ジュリエットにパールバン公爵の到着を知らせてくれた。今から自分が会うのは、メレヌス帝国の宰相パールバン公爵。直接の面識はないが、非常なやり手の男だと聞く。こちらの事情がばれないように気をつけなければ…。






「ごきげんよう、閣下。メソポタ王国のワーレンベルグ子爵の娘、マリアと申します。お会いできて光栄です。」


ジュリエットは、かつて習ったメソポタ王国式の貴婦人の礼をとる。


「こんにちは、マリア嬢。こちらこそ、お会いできて光栄だよ。」


 銀の長い髪をたらしてジュリエットに笑いかける。


「突然ですが、これからの私の処遇を教えていただきたいのです。父からは、人質として後宮に入ると聞かされていましたが…。」


 ジュリエットは、かよわい乙女を装う。


「そのことですが、あなたにはしばらくこちらの屋敷に滞在していただきます。」


「!」


「あなたも。陰謀渦巻く後宮にすぐ行かれるよりも、こちらにいた方がゆっくりできますよ。」


「それは、皇帝は私のようなものが傍にいることを不快に思われると言うことでしょうか?」


 ジュリエットは、あえてがっかりした様子を装う。長年諜報部にいるジュリエットにとって演技はお手の物である。


「いえいえ、ただこちらの準備がまだ整っていないだけですよ。しかし、意外でしたね。あなたのような女性は後宮に自ら行きたがるような事はあまりないのですが…。それとも、何か特別な事情がおありでしょうか?例えば…、脱走を考えているとか?」


そう言いながら笑顔をジュリエットに見せるパールバン公爵を見て、さすが帝国宰相と内心思ったが、それをおくびに出さずジュリエットは答えた。


「後宮には、同世代の女の子が多くいると聞きました。今まで、田舎で養生していたため同世代の友達がいません。今、私の話し相手になってくれるのは侍女のアリアだけです。もっと、お友達が欲しいです。」


不意をつかれたように、パールバン公爵は目をみはり答えた。


「では、そう皇帝にお伝えしましょう。ところで、しばらくワーム男爵はこちらに伺うことができません。代わりに、こちらにいるフランシスに後を任せることにしました。」


そうパールバン公爵が言うと。フランシスと言われた少年はジュリエットに軽く会釈をした。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。フランシス殿。」


ジュリエットは、笑顔で笑いかける。すると、よろしくお願いしますと小さな声でフランシスが答えた。







***********



***********



************



 (早く後宮に連れて行ってもらいたい!)


 ジュリエットの頭の中にはもうすでに脱出計画で一杯である。

しかし、パールバン公爵と話したあの日以降、ここ一カ月ワーム男爵が数回訪ねてきただけで他の訪問者はいない。

しかも、忠実なフランシスという番犬までつけられてしまったため、この場所からも脱出不可能である。


 このフランシス実は、少年伯爵で本人だけでなくいつも護衛の兵士が周りをとり囲んでいる。彼らはつわもので、剣に腕のおぼえがあるジュリエットでも相手にするには苦労しそうである。

しかも、成功するかわからない。むしろ、仲間のいる後宮経路で逃げる方がずっと楽である。





  そんな風にジュリエットが思っていた矢先、パールバン公爵が恐ろしい知らせをもって現れたのである。 


ワーム男爵の正体判明。

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