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男装伯爵とメイド  作者: 橘 紀子
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陰謀

「そういえばカイル将軍、今日は何のパーティなんだ?」


フランツことファーンベルグ伯爵が、軍服を着たカイル将軍と話していた。


「ワーレンベルグ子爵の娘の誕生日みたいだぜ。」


「ワーレンベルグ子爵の娘?」


「そう、ワーレンベルグ子爵の娘と言えば黒い髪に茶色の目をした少女だよ。かわいい子だよ。覚えていないか?」


「ああ、だって最後に見かけたのは3年前だ。今は、病気で田舎で養生していると聞いたが…。」


「そろそろ、社交界シーズンだからお披露目するつもりなのだろう。あまり、遅くなると嫁ぎにくくなるしなぁ。」


 カイルがそういうや否やワーレンベルグ子爵は、大広間にやってきて1人の娘を紹介した。すると同時に、広間がザワザワし始めた。


「あの娘が、あの男の娘か…。」


そう、娘をじっと見つめる男がいた。






「あの娘は、何なんだ。」


カイル将軍が、突然ワーレンベルグ子爵と現れた彼の娘について初めて発した言葉がこれであった。


「まあ、君の言いたいことはわかるよ。あの、仮面では顔が全くわからない。ワーレンベルグ子爵は、婿候補を探しているのではないのか?」


フランツも不思議そうに少女を見ていた。







ロベルトもその様子を別の場所から見ていた。


子爵は今日何をするつもりなのか…。


 今回の夜会の主催者であるワーレンベルグ子爵がメレヌス帝国と密通しているという情報を入手してきたのは、メソポタ国に潜伏している情報部の人間である。メソポタ国とメレヌス帝国は、ともに大国で隣接しているわけではないが、両国ともに一番近い大国はお互いである。この2国は基本的に仲が悪く間の小国を巻き込んで時たま戦争をおこすこともあった。現在は、休戦中である。しかし、相手の国に放ったスパイの活動は戦時下以上に活発である。両国共に相手の動きを警戒するとともに、相手国の貴族とつながりを持ち、情報を横流しさせようと情報部は必死である。さらに、逆に自国の貴族の裏切りを阻止することも情報部の仕事である。


「こんにちは、ローゼン外務大臣。」

「こんにちは、ワーレンベルグ子爵。お嬢さんに久しぶりに会えますかねぇ?」


 ロベルトが考え事をしていると、ワーレンベルグ子爵が話をかけてきたので、とっさにロベルトは、今日の主役のワーレンベルグ子爵令嬢の話をもちだした。

 すると、ワーレンベルグ子爵はお茶を濁しながら答えた。


「まだ、娘は世間に不慣れで今日ももう退出しました。ローゼン外務大臣には、また次の機会にお会いできるとおもいますよ。」


と、歯切れが悪そうに娘の話題を転換した。


そして、ロベルトは、その時はじめてワーレンベルグ子爵令嬢が広間からいなくなったことに気付いた。




*****************************************



その頃…。


 ワーレンベルグ子爵の令嬢は、とある部屋にいた。そして仮面を外し、先に来て出された紅茶を飲んでいる自分と同じ黒い髪に茶色の目をしたメイド(ミシェル)に笑いかけた。


「あなたには、私の身代わりになってもらうわ。」


「どういうことですか?」


そう、答えるミシェルは、自分の体にふらつきを感じ、立っているのがやっとの状態であった。


「あなたには関係なことよ。ただ、父は3年前にある密約をし、その約束の継続の証として、私を人質に差し出す約束をしていたの。でも、私は行きたくなかったわ。行ったら、愛人にされて一生檻の中から出れないの…。

おしゃべりが過ぎたみたい。それよりあなたは本当にただの侍女?先ほど出したお茶には睡眠薬が入れてあって普通の人ならとっくに眠ってしまっているはずよ。」


その言葉がミシェルが聞けた最後の言葉だった。その後、ミシェルは、深い眠りについた。






 ワーレンベルグ子爵令嬢はその後すぐに自分の来ている服と同じ服を侍女に持ってこさせ、ミシェルを着替えさせた。そして、子爵令嬢のベットの上に寝かされた。

   


 ワーレンベルグ子爵令嬢が部屋を出て行った数分後、ワーレンベルグ子爵ととある男がこの部屋に入ってきた。


「この娘が、おまえの娘か?」


先ほど広間で娘を見ていた男が、ワーレンベルグ子爵に尋ねた。


「はい、私の娘です。ワーム男爵、私はあなた達を裏切りません。その証としてこの娘を…。」


「わかった。では約束通りこの娘をメレヌス帝国の後宮に連れて行こう。」


「わかりました。しかし、こちらにも一つかなえていただきたい条件があります。離れて暮らす娘に護衛と自分専用の侍女をつけて連れていかせたいのです。よろしいですか?」


「う~ん。まあ、いいだろう。ただし、その者たちが裏切りを行った場合、お前とともに始末する。覚悟しておけ。」


「承知しました。」


「最後に、この娘を連れて2時間後に出立する。それまでに、準備をしておくように。」


「はい。…。」


 そう、ワーレンベルグ子爵がつぶやくや否や男は部屋から出て行った。この男ワーム男爵について、ワーレンベルグ子爵自身も良く分かっていない。ただ、今日見える予定であったあの方の部下の1人であることは確かである。ワーレンベルグ子爵は、娘の入れ替わりがワーム男爵にバレなかったことにほっとした。あの方に逆らうことはおそろしい。例え、それはこの国の国王陛下に反旗をひるがえすことになったとしても…。



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