策略
「パールバン公爵、お食事を持ってまいりました。」
「そこに置いておいてくれ。後で、食べる。」
「わかりました。では、召し上がる際はまたお呼び下さい。毒身をいたします。」
そういうと、パールバン公爵の侍従は去って行った。
ここは、メレヌス帝国側の陣営。総大将のパールバン公爵の天幕である。
侍従が去った後、パールバン公爵は普段は執務室で行っている仕事のうちどうしても目を通しておく必要のあるもののみ選別してとりかかっていた。そして一時間後そろそろ休憩して食事を食べようと侍従を読んだ。来るまでの間この半年の出来事を思い返していた。
属国であるファン国の問題に宗主国として介入したという理由で今回参戦することになった。今回の戦争への参加すれば間違いなくメソポタ王国も介入してくることを予想するのは容易だった。そのため、一部を除いて指揮官の任を嫌がるものが大半だった。それなのに今回の戦争の総大将に志願したのは、一年前の失態を埋めるためである。結局、偽マリアを見つけることはできなかった。今なお捜査しているにもかかわらず、わかったことはジュリエットという名の諜報部の一員であるということと、一緒にいた侍女の家族が皆行方不明になっているということの2点だけである。今なお調査は進めているが、おそらくこれ以上のことはわからないだろう。メソポタ王国諜報部を現在率いているのは国王の甥ローゼン伯爵であるという。そして今回の戦争の向こう側の指揮官は彼の親友とも言われているカイル将軍である。彼から何か諜報部に関する情報を引き出せるかもしれない。おそらくほとんど無理だろうが…。ビタミン川をはさんで小競り合いしているのも今のうちだけである。全面戦争に突入する前に一度彼に探りをいれてみようか…。
「それにしても遅い…。」
パールバン公爵は呼ばれたらすぐ来ると言っていた侍従がなかなかこないことに焦りを感じながら天幕を出た。すると、見張りの兵士が眠っていた。
「おい。起きろ。」
そうパールバン公爵がゆり起しても起きる気配は全くない。完璧に熟睡しているようである。どうしたことかと今度は別の天幕の副官を起こしに行った。すると、目がくらむような光景が広がった。天幕内の兵士は皆先ほどの見張りの兵士同様副官でもある侍従が眠っている。もちろん彼だけでなくその場にいた全員が眠っている。パールバン公爵は、侍従をなぐってゆり起した。
「ん…。」
「気づいたか…。」
「公爵閣下???」
「いつまで寝ているつもりだ!」
その公爵の声に驚いて侍従は起きた。そして現在の状況を把握しようとまわりを見渡す。
「ピーーーーーー。」
直後大アラームがなった。この後に何かと思い皆起き上がる。
大きな音が気になったパールバン公爵とその侍従が外に出ると、大半の武器庫や食糧庫が火に包まれていて、しかもほとんど焼け落ちてしまっているのが見えたのである。
そのころジュリエット達は…
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「さすが、ローゼン伯爵。敵軍の武器庫と食糧庫を壊滅させるなんて!」
そう、感嘆の声をあげているのはスイ元帥である。
「さすが、ミシェル大佐だ。ところで、どんな手を使ったんだ。後、俺たちに運ばせたこの荷物は何だ???」
カイル将軍は川の下流を下りきり、これから海に入るところで今まで手に待っていた拳銃を下してジュリエットに聞いてきた。この小船に乗っているのは、ジュリエットとその配下のアランとフラン、カイル将軍、スイ元帥の5人である。そしてその前それぞれかなり距離が離れているが三隻ほどの船が川を下ったはずである。それぞれ大きさは大中小と前から順に小さくなっている。
そして、ジュリエット達が乗っているこの船こそがもっとも小型の貨物用の船であった。
「ここまで、来れば後は風と潮のながれに乗って30分でアスランの港に着く。では、着いたら至急陣地に戻りましょう。」
その日メソポタ王国の諜報部は、メレヌス帝国軍から武器と食糧をまんまと盗み出すことに成功したのだった。