捜索
お久しぶりです。
捜索1~3にする予定のものを改訂してまとめました。
「公爵閣下、ワーレンベルグ子爵の娘が見つかりました。」
そうメソポタ王国に潜入している皇帝の部下から連絡を受け、パールバン公爵はジュリエット達失踪の1カ月後にワーレンベルグ子爵の領地マイセンを訪れた。
「これで、これ以上あの方から何も言われずにすむに違いない。」
あれから1か月、マリアという養女を得て今後の政治基盤も安定したと思った矢先の失踪で公爵も苦笑を隠せないで過ごしていた日々も今日で終わりを迎えるはず。そう思いほっとしつつ、ワーレンベルグ子爵家本邸の門を空ける。すると、案の上マリアが……。
「ワーレンベルグ子爵はじめから説明してほしい。この娘は何者なんだ?」
パールバン公爵は顔は笑っているが、聞く方がぞっとせずにはいられない冷たく鋭い声でワーレンベルグ子爵に聞く。
「私の娘でございます、公爵閣下。」
ワーレンベルグ子爵は気まずそうに答える。
「確か、そなたには娘は一人しかいないと聞いていたが…。隠し子でもいたのか?今までそんな報告はなかったのだが…。」
「それは…。」
パールバン公爵の質問にワーレンベルグ子爵は答えに詰まり困っていた。
すると、その場にいた娘が驚きの入れかわりについて話し始めた。
「というわけで、今回は私の代わりにメレヌス帝国に嫁いだ侍女の行方は分からないのです。」
娘は、子爵と違って特に動揺をみせずに話している。この様子をみて、今回の入れかわりはおそらくこの娘が主導になったのに違いないとパールバン公爵は心の中でつぶやいた。
「この侍女の身元は?」
「それがよくわからないです。カイル将軍邸の執事からの紹介状を持っていましたので身元は確かだと思いますが…。ただもしかして…。」
「もしかしてとは?」
パールバン公爵は娘の奥歯に何か挟まったような言い回しを若干不快に感じながら聞き返す。
「彼女は、情報部の人間かもしれません…。」
「……。情報部の人間?」
パールバン公爵とワーレンべルグ子爵の驚きの声が重なった。
「どういうことだ。情報部の人間がワーレンベルグ子爵邸に入り込んでいたというのか…。」
パールバン公爵の鋭い声で本当のワーレンベルグ子爵の娘マリアに話す。
「はい、この絵が彼女の部屋に残されていたのです。見て下さい、閣下。」
マリアの見せた紙には、紙には鈴蘭の花と横に2と小さく番号が書いてあった。
この紙の意味は、ごく一部の人にしかわからない。鈴蘭の花は、メソポタ王国諜報部の国内専門の特殊潜入部隊か潜入部隊幹部のキーフラワーである。そしてこの2は、隊内での序列を示すもの。ここでいう2番とは、副隊長のことである。もちろんこのことを知っているのは諜報部の人間のみとされているが、パールバン公爵はかの国に放っているスパイよりその情報を入手していたからわかったのである。
「メソポタ王国の潜入部隊かぁ。もしかして我々の関係を国王はもう見抜いているのか!」
「わかりません。しかし、気付いている可能性はあります。用心するのに越したことはありません。」
冷静にマリアは答えている。マリアをみながらパールバン公爵は1つ疑問を感じた。そこで、マリアにきいてみる。
「ところで、なぜあなたはこの暗号について知っているのですか?」
「私の母の侍女が王国諜報部の国内専門の特殊潜入部隊だったのです。彼女はすでに亡くなっていますが、5年前までこの屋敷におりました。彼女は、最初私の母方の祖父を探るように言われて母の侍女になったそうです。しかし、祖父は15年前亡くなり、父が婿に入り祖父の後を継ぎました。その頃、家族も早くに亡くして独り身彼女は同じ部隊にいた恋人がなくなり、それから除隊して以前どおりこの屋敷に務めていたが、母に偽りの姿を見せ続けるがつらくなり、自殺しました。」
「そんなことは、私は聞いてないぞ!なぜ黙っていた。」
ワーレンベルグ子爵がと途中で会話を遮る。
「母の遺言だからです。お父様。母は、彼女の秘密を墓場まで持って行くようにいわれたのです。それに今は公爵閣下の御前です。話は後にしてください。」
いささか不満そうだが、子爵は引き下がった。
そのタイミングをみて、パールバン公爵が話し始める。
「もう結構です。ところで、今回の件の埋め合わせに娘は連れていく。」
「待ってください。今から何でもします。どうか娘だけは。」
ワーレンゲルグ子爵のわらをもつかむようなすがる声が響いていた。
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「…。公爵は必死にあなたを探しているわ。」
アンナの説明が終わる。
「では、私達は慎重にメソポタ王国に帰らないといけないわね。」
それからジュリエットの指示でアジアン公国しばらく滞在することになった。
一カ月後
「君の正体がばれないようにしなければ。」
「ええ、できれば国に帰る前にマリアとアリアと別れたい。けれども、彼らの安全面も確保したいと思っています。特にマリアの家族が心配である。帝国へ放っているスパイにも連絡してその旨を伝えていざとなった時には守って欲しい。まあ、私とマリアの接点も旅の一時だから大丈夫だと思うが。後、王国のアリアの家族も安全な場所に情報部に匿ってほしい。」
ジュリエットは、目の前の紳士に向かって淡々と話していく。
「わかりました。ではあなたは今ジュリエットという諜報部員で次の仕事があるのでこれ以降は我々が保護すると伝えておきます。では、私達が用意した馬車で今から王国に向かって下さい。」
「わかった。ありがとう。」
ジュリエットは、今後のためにうっておく手を考えていた。アジアン公国の隠れ家にはローゼン伯爵の配下であるミュラー伯爵がいた。ミュラー伯爵は、40代後半とは思えないほどダンディなおじさまである。しかし、彼はジュリエットのことまでは知らない。そこで、ジュリエットは、男装したまま彼と2人の会見を希望し今対面しているのである。
「では、幸運をミシェル様。」
その頃帝都では…
「まだ見つからないのか!」
そうパールバン公爵に怒鳴る声が皇帝の執務室から聞こてくる。
「はい、偽マリアはローゼン伯爵率いる諜報部の一員であることはわかりましたが、他のことはわかりません。それは、あなたが独自に放っているスパイからの情報でも聞いているのではありませんか?」
「ああ、でももう一カ月だ。偽物でも諜報部員でも関係ないさ。早く見つけてこい!」
「見つけてこいと言われても…。とりあえず、捜査は続けますが…。しかし、彼女がローゼン伯爵の手のものとなると厄介ですねぇ。」
パールバン公爵はため息をつきながら答える。
「ローゼン伯爵は、国王の甥で次期国王候補でもあります。彼にワーレンベルグ子爵との関係がばれてしまうと今後今以上にやりにくくなります。そして万が一の確率でかの公爵との関係がわかってしまい、先代がおこしたこととはいえ王位継承者を暗殺しようとしたことは我が国のイメージダウンにおおいに働きます。」
「そうだな、あの公爵は、自分の姪さえも殺してしまうような極悪な男である。注意するには越したことはない。」
そう話す皇帝の声は、パールバン公爵には聞こえなかった。