第1話 世界の継ぎ目
陰陽寮から正式な命令が届いたのは、事故から三日後だった。
失踪者――神谷悠真。
高校二年生。
事故現場に居合わせていた少年。
「霊的要因の有無を確認してほしい」
そう言われなくても、分かっている。
ある。
間違いなくある。
私は短く答えた。
「確認するだけ、ですよ」
本当に、そう思っていた。
深夜午前二時。
陰の気がもっとも濃くなる時間帯。
例の交差点は静まり返っていた。
人払いの霊符を散らし、六壬式盤を置く。
指先で盤面をなぞり、九字を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
式盤が青く発光した。
交差点の中央。
何もない空間が、ゆっくりと歪む。
「……やっぱり」
そこには、穴があった。
物理的な穴ではない。
世界の継ぎ目。
事故の瞬間に開き、何かを通した痕跡。
私は霊符を五芒星状に展開し、空間を固定する。
覗き込む。
向こう側は、暗闇ではなかった。
風が吹いている。
空がある。
地脈が安定している。
つまり。
「独立世界、か」
異界ではない。
別の“世界”。
……本当に、ロクでもない。
私は狐面を取り出し、顔につけた。
本名は、こういうときに使うものではない。
「行くわよ、サトリ」
足元の影から、狐耳の少女が顔を出す。
「めんどくさそう?」
「最高に」
私は五芒星の中心へ踏み込んだ。
視界が白く弾ける。
次の瞬間。
風が頬を撫でた。
目を開けると、そこは草原だった。
月が、二つ浮かんでいる。
「ああ……異世界ね」
面倒だけれど。
持っていかれた高校生は、ここにいる。
そして私は。
世界の管理が雑すぎる理由を、これから知ることになる。




