三人家族の帰るところ
「作戦の決行は今夜。ディーが『リリスの館』を燃やしたら、それぞれ中に突入して騒ぎを起こす。それで良いな?」
余りにも大雑把な作戦説明に頷いて、『B』のメンバーはそれぞれの持ち場に散会していく。
前も言ったがこのチームは協調性が無さすぎる。
それが良いところなのかもしれないが……。
「ディー、ちょっと待て」
私も予め決めた配置に着こうとしていたところ、エリーニュスに呼び止められた。
「何の用?」
「貴様が分不相応なコネで手に入れた警察の協力だが……」
「一々突っかかる物言いだね……」
「あまり信用するなよ。お前は【キメラ】の後ろ楯があるが、俺たちには無い。魔女たちが逃げ仰せたら俺たちもさっさと逃げるべきだ」
「まぁ、そうだよね……」
『B』はあくまでも裏社会の組織だ。
表向きは資金稼ぎも兼ねて何でも屋をやっているが、裏では黒い所も多い。しかも最終目標がリーダーの復讐の成就だ。
警察に目をつけられるのは避けたいだろう。
「安心してよ。警察はおろか【キメラ】にも『B』の話はしてないから」
「妙なところでしっかりしているな……まぁ良い。頼んだぞ、お前が作戦の中心だ」
「了解」
ふぅ……。と息を吐いて、私は『リリスの館』の周りをゆっくり歩く。
さて、そもそもの問題だが、私に『リリスの館』は燃やせない。【リリス】が張った結界があるからだ。
しかし餅は餅屋。神には神だ。
「来たか、ディー」
少し路地に入ったゴミ捨て場で、【キメラ】が腕を組んで私を待っていた。
さすが、神ともなればゴミ捨て場でも様になる。
「では私が結界を壊すから、その隙に燃やせ。……心の準備は良いな?」
「うん、いつでも」
「ふふふ、初の夫婦の共同作業だな」
やってることが犯罪とか、なんて最悪な共同作業だ。
「その言葉はケーキ入刀とかまで取っておいて欲しい……」
そんなことを言っている隣で、【キメラ】の体がメキメキと変化する。
具体的にはより獣らしく肥大化していく。
金のタテガミが燃え盛り、全身の筋肉が盛り上がり、爪と刃が鋭くなっていく。
「もしかしてそれが真の姿なの?」
やがて2倍程の大きさになった【キメラ】は、ただニヤリと笑って拳を握り締める。
「怖いか?」
「別に」
「そうか、良かった」
【キメラ】はそう言うと大きく拳を振りかぶり、何の躊躇もなく壁を撃ち抜いた。
ビシッ!と壁の手前の空間にヒビが入り、それが館全体に広がっていく。
通りの方に、ザワッ。と異変に気付いた人たちのざわめきが広がり、それと同時に結界が弾けた。
その瞬間、頭上から甘ったるい匂いと
「何をしておる」
という妖艶な声が降ってきた。
間違いない【リリス】だ。
「やれ! ディー!」
【キメラ】が跳躍し、私は右手に力を込める。
遠慮なく炎を吐き出そうとしたが、横から現れたか細い手のひらに右手を掴まれた。
「何をしてるの? ディーちゃん」
そこにいたのは、恥ずかしそうに顔を赤くする魔女。
「ジーン……! いや、ジェーン・ドゥ!」
彼女は少し驚いたように眉を上げると、赤い顔のまま口角を吊り上げる。
「いつ気付いたの?」
「最初から違和感はあった。【リリス】のお気に入りだったって割に、名前を覚えられていなかったりね……」
あの時、【リリス】はジーンではなくジェーン・ドゥと呼ぼうとしていたのだろう。
ジーンを疑い始めたのは彼女が信徒だと気付いた時だが、今この場に現れたことで確信に変わった。
「あー……全く、おっちょこちょいなお母様」
ジェーン・ドゥは私をひょいと持ち上げると、屋敷の壁に向けて思いっきりぶん投げた。
「ディー!?」
【キメラ】の悲痛な叫びを聞きながら、壁を突き抜けて廊下に転がる。
「ぐっ!?」
「私が見た目通り可憐な乙女だと思ったの? ディー。折角私の信徒にしてあげようと思ってたのに」
「まぁ、正直ちょっと危なかったかもね……もう少しでストーカーじゃなくて私がジーンのお母さん殺すところだったし……」
思えばあれもジェーン・ドゥに誘導されていたのだろう。
そうとは気付かない形で、少しずつこちらの行動を操っていく。彼女はそうやって信徒を増やしていたのだ。
「あぁ、あのストーカー役の子を捕まえたのはあなたね? おまけに【キメラ】を連れて館に炎を放とうとするなんて。一体何を考えているの?」
「さぁね。でも、どっちにしろそろそろ始まるから」
「どういうこと?」
ジェーン・ドゥが首を傾げた瞬間、屋敷全体が大きく揺れた。
それと同時に、ハーハッハッハ!というエリーニュスの高らかな笑い声が聞こえてくる。
「あいつらがじっとしてるわけないもんね」
「……なるほど、騒ぎを起こして魔女たちをここから追い出そうって訳ね。警察とかも呼んでたりするのかしら」
「それは自分の目で確かめたら良いんじゃない?」
私が左手を振ると突風が巻き起こり、館の壁が吹き飛ばされる。
私の記憶が正しければ、この方角にはエリーニュスが呼んだ助っ人が待機している筈だ。
「数百年ぶりだな、ジェーン・ドゥ」
「【12議席】のトリエント……! 」
トリエントは青いマントを翻し、カツン。と軽く杖をつく。
「火炎」
ボッ!と杖から徳大の火球が繰り出され、ジェーン・ドゥの横を掠めると後方の壁に直撃した。
直撃した火球は炸裂し、辺りに爆炎を撒き散らす。
「おのれ……!」
ジェーン・ドゥがトリエントに怒りの表情を向けたのを見て、私はその横をすり抜けて【リリス】と【キメラ】の下へ向かう。
「良いのか? お気に入りを無視して」
「よく言えたものね。追いかけさせる気なんてないんでしょう?」
そんな会話と直後に起きた爆発を背に、私は【キメラ】たちの戦場へと急ぐ。
辺りは先ほどのエリーニュスによる揺れとトリエントの火球による引火によって、にわかに騒がしくなっていた。
この調子なら作戦通りにいけそうだ。
神同士の力関係は分からないが、良くも悪くも脳筋な【キメラ】が魔法に長けた【リリス】に勝てるとは思えない。
なので『B』との作戦会議でも、【リリス】は私と【キメラ】の二人で叩く事になっていた。
「【キメラ】! だいじょう……ぶ?」
先ほどの場所まで戻ってみると、そこでは20後半の妙齢の女性が、筋骨粒々の化け物に組伏せられていた。
あれが【リリス】か。【キメラ】に口を押さえられ、ジタバタともがいている。
パッと見は【リリス】の方が被害者だが、一応化け物の【キメラ】が味方側だ。
「おぉ、ディー。無事だったか」
「いや、まぁ……トリエントに助けてもらった。これどういう状況?」
「俺が勝った」
「そうじゃなくて」
見たところ【キメラ】には傷一つ無い。
もっと苦戦するというか、最悪負けていることも想定していたのに……。
『当然だろう。お母様は弱っておられる』
くぐもった声が聞こえたかと思うと、私たちの目の前に紫色のドアが現れた。
取っ手が回され、そこから出てきたのは真っ黒な姫ロリ調の服に身を包んだ少女だった。
「お母様ってことは、あなたがメアリー・スー……!」
【リリス】の長女にして、【リリス】以上の魔法の使い手。
「そう、そうなのだが……はぁ、本当は出てくるつもりはなかったのだ」
コロコロと鈴を鳴らす様な声で、メアリー・スーはため息をつく。
「じゃあ一体……」
「かわいい妹とお母様が余りにもかわいそうで出てきたのだ」
加勢にな。と言い終わらない内に、【キメラ】が壁に叩きつけられた。
「おぉっ!? 壁に吸い寄せられ……」
「特に【キメラ】様とかいうチート野郎にはご退場願いたい」
「こんの、イタズラ娘が!」
バギャッ!と壁を破壊した【キメラ】がメアリー・スーに迫るが、その拳が届こうかという直前で【キメラ】は、パッと消えてしまった。
「き、消えた……」
「只の瞬間移動なのだ。【キメラ】様ならそのうち戻ってこれる……さて」
メアリー・スーは私に向き直ると、少し離れた場所で息を荒くしている【リリス】にチラッと目を向けて、また息を吐く。
「メアリー、わっちは……」
「お母様、今は黙っていてくださいまし」
「メアリー……」
悲痛な表情を浮かべる【リリス】を無視して、メアリー・スーは私の方へと歩みを進める。
「ディー。随分な事をやってくれたのだ」
「それはこっちのセリフ。まさか【リリス】のやってたこと知らない訳じゃないでしょ?」
「ならここで働く魔女たちの事を少しも考えなかったのか? 彼女たちはこの先どうなる」
「ここにいるより絶対にマシ」
メアリー・スーは埒が明かないというように静かに首を横に振り、私の方へ指先を向ける。
「お前は妹のお気に入り。捕まえて持って帰るのだ」
魔法が来ると身構えた私とメアリー・スーの間に、ズドンッ!と何かが着地した。
果たして砂煙の中から現れたのは、『B』随一の武闘派、ガーニール・メークアウトだった。
「メーちゃん!」
「ディー、下がっていろ。私がやる」
背中の大剣を抜き、それを片手で悠々と持ち上げたガーニールはジリジリとメアリー・スーに迫っていく。
「確かに龍人は魔法に耐性があるけれど、私には関係ないのだ」
「私をそこらの龍人と一緒にしないことだな」
言うが早いか、ガーニールは大きく踏み込み、メアリー・スーに向かって大剣を振り下ろす。
「そんなもの……」
しかしメアリー・スーが呆れたように指先を動かすと、ガーニールの手から大剣がすっぽ抜け、後方の地面に突き刺さってしまった。
しかし、ガーニールは止まらない。
「まさか素手で私の魔力障壁を破壊出来るとでも……ん?」
そこで初めて、メアリー・スーはガーニールの腕に目をやり目を丸くした。
ガーニールの腕を覆う銀の鱗が、彼女の『異能』によってと変形していたのだ。
「貴様『異能』を!?」
ガーニールの鱗は巨大な杭とそれを打ち出すハンマーへと変化し、それを大剣の代わりと言わんばかりに大きく下から振りかぶった。
「パイルバンカー」
ゴンッ!とメアリー・スーの魔力障壁に杭は阻まれるが、杭の後ろに伸びたハンマーが金属音を鳴らしながら駆動する。
「打ち上げろ!」
ガチンッ!とハンマーが押し込まれ、杭が射出される。魔力障壁は壊せなかったものの、メアリー・スーは空高く打ち上げられた。
「何て力業! 品がないのだ!」
「品が無くて結構」
ガーニールが羽を広げメアリー・スーへと追撃を開始し、二人の空中戦が始まった。
火花が散る夜空の下で、私はとうとう【リリス】と二人きりになる。
「【リリス】……」
「ディー……!」
恨めしげにこちらを見る【リリス】を見下ろして、私はどうしても聞きたかったことを口にする。
「何で魔女たちを騙してこの館に留め続けるの? 指名手配されてるジェーン・ドゥに協力するような事も……それ以外も全部。あのお菓子の家を作れるあなたが、なんであんなに悪いことが出来るの?」
なんで優しいままでいられなかったのか。
なんで人の人生を踏みにじるようなマネをしているのか。
それがどうしても知りたかった。
「何故……確かに、端から見たら不思議じゃろうな。だが、あれもこれも全部、ジェーン・ドゥの……わっちの不良娘の為じゃ」
「ジェーン・ドゥの?」
いまいち意味をはかりかねる。
「わっちはあの子を魔法が使える体に"産んでやれなかった"。だから、わっちはせめてあの子の側にいてやろうと思ったのじゃ。ジェーン・ドゥが、一人ぼっちにならないように」
【キメラ】が言っていた。
ジェーン・ドゥは指名手配され、世界の爪弾き者になってしまったと。
そんな娘を放っておけなくて、彼女を一人裏の世界に行かせたくなくて、【リリス】は悪事に手を染めた。
「そのせいで沢山の人が悲しむことになっても?」
「そうじゃな……わっちは結局、良い母親ではなかった。本当ならひっぱたいてでも止めるべきだったのに……ジェーン・ドゥもさぞわっちのことを恨んでおるだろう」
「そうだね。それじゃ、私はあんたをひっぱたいて止めるから」
覚悟して。と右手に力を込めたが、それを見て【リリス】の口から飛び出したのは予想外の言葉だった。
「そんなことをしなくても、もうすぐでわっちが死んで全て終わる。二日か三日か……とにかく、もう余命幾ばく無いのじゃ」
「神は"信仰"を力にする」
【キメラ】はそうも言っていた。
では、"信仰"を失った神は一体どうなる?
「"信仰"を失った神は徐々に力を失い、消滅する。メアリーがわっちを指して『弱っている』と言ったのもそれが原因じゃ」
「消滅するって……でも魔女たちは【リリス】を"信仰"してたよ?」
世界中のどこかにいる魔女たちだって同じの筈だ。
消滅してしまう程、魔女たちの"信仰"が弱まっているとは到底思えない。
「これは【方舟】が出来た時から決まっていた事……魔女という種族の宿命じゃ」
「一体どういう……」
いや、そうか。魔女は女性しか産まれない。
その性質上、全員が混血だ。さらに魔女は純粋であるほど力を増す。
「まさか、血が薄いから?」
「その通り。"信仰"の強さは血の濃さに依存する。魔女の神であるわっちは、【方舟】を作ったその時から徐々に弱っているのじゃ」
「なんでそんな……」
「破滅願望じゃよ。あの日、旧世界の破滅を見たわっちは自棄になっていた。元々、子を成す気もなかった……この【方舟】もこんなに長続きするとは……」
なんて事だ。
【キメラ】にあっさり負けたのもこれが原因か。
「じゃあ、ほっといてもあんたは三日後には死んでたってこと……?」
「じゃな。ククク……。死ぬ時が近いと悟った日、ジェーン・ドゥの為にこの歓楽街を支配することに決めたのじゃ。そしてわっちが死ねば歓楽街も同時に消える。そういう算段じゃったが……全く、無駄に事を大きくしてくれよって」
「くそったれ……!」
これでは【リリス】の逃げ勝ちだ。
こんな破滅願望に多くの人々が振り回されたなどあってはならない。
「ディー、私を殺せ。今のわっちならお前でも十分殺せる。それで贖罪としようではないか」
「別に私は殺したい訳じゃなくてさぁ」
どいつもこいつも、一体私のことをどう思っているんだ。
魔女たちを逃がすのに【リリス】をぶっ飛ばして大人しくしてもらう必要があっただけで、その後の【リリス】の進退など私には知ったこっちゃない。
「このままなら警察に引き渡すことになるけど……」
「……まぁ、それも良かろう」
諦念。【リリス】からはそれしか感じられない。
ジェーン・ドゥを助けられなかった、彼女を普通に産んでやれなかった、そして自分にはどうにも出来なかったと。
ふと、故郷のお母さんの顔が浮かんだ。
お母さんは私が『異能』を使えて、そのせいで拐われたのだと知ったらどんな顔をするだろうか。
娘に『異能』を抱えさせて産んでしまった自分を責めるだろうか。
「そんな同情、くそ食らえだ」
「なんじゃと?」
「普通に産んでやれなかったとか、助けられなかったとか、そんなの私ならどうでも良いよ。だってあんたたちは三人でお菓子の家を作ったんじゃないの? あんたは娘たちを愛してたんじゃないの?」
だって現に、二人とも助けに来たではないか。
母親のピンチに現れて、助けようとしたではないか。
それは母親の愛を感じていたからではないか。
「それは……」
「お母様!」
言葉に詰まった【リリス】の前に、巨大な鷲が立ち塞がった。恐らく鷲に変身したジェーン・ドゥだろう。トリエントは巻かれてしまったようだ。
ジーンの姿に戻ったジェーン・ドゥは、切羽詰まった様子で両手を広げると、【リリス】を庇うように前に出る。
「逃げて、もう少しで準備が終わるんだから」
「無駄じゃ。逃げたとてもう数日の命……」
「無駄じゃない! 昔、本で見たの。特定の人物を妄信的に信頼する誰かがいた時、その誰かの"信仰"は特定の人物が"信仰"する神に届くって」
「……お前、まさか」
「信徒がもう少しで集まる。そしたらお母様の"信仰"も力も回復する筈」
「な、なぜ……」
「ずっとお母様を助けたかったから。先ずなるべく注目を集めるために【12議席】に捕まえてもらって……」
パチン!
自分の思惑を語り始めたジェーン・ドゥの頬を、【リリス】が叩いた。
それはビンタというには余りにも軽く、戯れというには余りにも重かった。
私も、ジェーン・ドゥも、目を見開いて黙りこくる。
「お母様?」
赤く腫れた頬を押さえて、ジェーン・ドゥは困惑した様子で【リリス】の方を振り替える。
「余計なことをするな! お前は……お前の幸せだけ考えておれば良かったのじゃ! わっちは自分で死を選んだというのに! 【方舟】を作ったとき、自分で……! お前がわっちのために道を踏み外す必要などなかった!」
両目から涙を溢れさせながら、【リリス】は叫んだ。
「あ、あの家は三人で作って、三人で住むための家でしょ? お母様がいないと意味ないじゃない……それとも、私たちを産んでからも死にたかったの? ずっと?」
「……っ!」
再び【リリス】は言葉を詰まらせる。
「私は、お母様の事大好きだよ?」
ヨロヨロと立ち上がり、ジェーン・ドゥは【リリス】にもたれかかる。
先ほどメアリー・スーを見て分かった事だが、彼女たちはまだ幼い。
既に数万年は生きているにも関わらず、未だに少女の姿をしている。
例えばドラゴンは300年生きるが、人間と同じように20の頃に成熟するわけではない。寿命が3倍なら、成熟するのに3倍の時間がかかる。それは精神性も同様だ。
見たところメアリー・スーの年齢が10歳くらいだった。ジェーン・ドゥはもう少し幼いだろう。
「茶番、ね……」
少し前に【キメラ】がそう言っていたのを思い出す。
確かに茶番だ。
裏にどんな陰謀が隠れているのかと思いきや、只のスケールの大きい親子のすれ違いだった。
少し腹を割って話せば済む話だっただろうに。
そんなことを考えていると、凄まじい風圧と共にマグニが上空から登場した。
【キメラ】の御殿を訪れた時とは違い、銀色の鎧を身につけて完全に戦闘態勢である。
気付けば『リリスの館』や上空から戦闘音が消えている。マグニが来たのを見て『B』のメンバーも逃げ出したらしい。
「そちらが【リリス】様とジェーン・ドゥで間違いないですか? ディー様」
「うん、そうだよ」
このまま二人は捕まってしまうだろう。
しかもジェーン・ドゥは世界的に指名手配されていた。見逃す道理はない。
しかしマグニが二人に近づこうと一歩全身した瞬間、バチンッ!とマグニの前方に雷が落ちた。
「それ以上近づくんじゃないのだ、マグニ」
頭上を見上げれば、ガーニールが撤退したことによって自由になったメアリー・スーがゆっくりと降下してきていた。
「メアリー・スー様、指名手配犯の逃走を手助けした場合はあなた様も逮捕される可能性が……」
「黙れ。それ以上前へ出たら歓楽街に嵐を起こす」
メアリー・スーの実力を伴った脅しを聞いて、マグニはゆっくりと両手を上げて後退した。
「メアリー……」
「お姉さま!」
「もう良い、もう良いのだ二人とも。何も喋るな」
メアリー・スーは私たちの視界を遮るようにゴシック柄の傘を広げ、クルリと一回転させてから静かに閉じた。
パサリと傘が落ちて、三人の姿が消える。
「帰るのだ、あの家へ。三人一緒に」
後に残ったのは、メアリー・スーの悲しげな呟きだけだった。
三日後、メアリー・スーの付き添いによりジェーン・ドゥが出頭。その場で逮捕された。
メアリー・スーにおとがめは無かったが、暫くの間監獄でジェーン・ドゥと共に雑務に従じるそうだ。
【リリス】の魔法によって保護されていたお菓子の家はジェーン・ドゥが出頭すると同時に朽ち果て、風に吹かれて散った。
お菓子の家の跡地には思い出も家主も残っておらず、ただ、三枚の食べかけのクッキーだけが楽しげに転がっていた。
お読み頂きありがとうございます。
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