水鏡
「あっ」
思わず声が出てしまいました。
中庭にぽつんとある古ぼけた噴水。
この学校に転校してきて二カ月、初めて中庭に噴水がある事に気が付きました。
昔は、たぶん白かったんだろうなという感じのタイルが一面に貼られた丸い噴水。
壊れているんだと思いますが、水はもちろん出ていません。
(なんで、こんなところに噴水があるんだろう?)
首をひねっていると、噴水の壁面に銘板が貼られているのに気が付きました。
『昭和××年 卒業制作』
(そうなんだ)
卒業制作の意味は、わたしも知っています。
昔は、どこの学校でも六年生になると卒業する記念にいろんなものをみんなで作ったんだそうです。
この噴水も、昔この学校を卒業した人たちが作ったものみたいです。
(ふーん)
わたしは、少しうれしくなりました。
と言うのも、この学校の校舎のあっちこっちにある他の卒業制作は、なんか怖いんです。
昇降口の壁のレリーフ。
一階の階段の脇にあるレリーフ。
体育館の壁にある大きな絵。
大玉を転がす人たちとか、下の学年の子と手を繋いで歩いている人たちとか、大きな口を開けて歌ってる人たちとか、たくさんの人が彫ってあったり、描いてあったりします。
でも、わたしは、その前を通るときは下を向いて見ないようにしています。
昼間でもぼんやりと暗い校舎の中であのレリーフを見ていると中の人たちが浮かび上がってくるみたいに見えて、なんだかすごく気持ち悪いんです。
いま、わたしのいる図書室の前の廊下も──
わたしは、思わず周りを見回して、コクンと唾を呑み込みました。
奥の方が暗くてよく見えない長い廊下。
誰もいない教室の開いたままの扉。
カタカタと小刻みに鳴る換気扇の音。
放課後の校舎の中は、しーん、と静まり返っています。
ほんの何時間か前まであんなに人がいっぱいいてうるさかったくらいなのに。
そして、そんな校舎の中で見るレリーフは──
わたしは、すぐ後ろの壁に掛かっている合唱する人たちのレリーフをそっと見上げて、思わずゾクリとしました。
ぎょろりとした大きな目に顔いっぱいの大きな口。
手とか、足が、なんだか長すぎたり、短すぎたり。
不自然な感じのたくさんの人たち。
そんなレリーフの中の人たちが今にも……
ふふふ
くすくすくす
わたしは、慌てて目を逸らしました。
気のせいだと思いますが、どこからか笑い声のようなものが聞こえたような気がしました。
怖い怖いと思うせいでしょうか。
でも、わたしは、やっぱり怖くて苦手です。
(みんな、こう言う怖くないものを作ればよかったのに)
そんなことを思いながら、わたしは中庭へ出ました。
南側と北側、そして、わたしがいた東側。
三方を校舎で囲まれた中庭は、思っていたより広く感じました。
何となくじめじめして湿った地面。
雑草が地面の所々で枯れていて、校舎の脇に並べられたプランターからも茶色くなった草がいっぱいだらんと垂れ下がっていました。
左右に並んだ教室の中は真っ暗です。
(いま、何時ごろなんだろう)
いつのまにか、頭の上にぽっかりと開いた空は、薄っすらと暗くなっていました。
学校の周囲を囲むように広がった黒い森が、風でごうごうと鳴っています。
わたしは、噴水に近付くと中を覗き込みました。
空っぽかな、と思っていたのですが……
縁の少し下の辺りで真っ黒な水がゆらゆらと揺れて、わたしの歪んだ顔が映っていました。
笑っているような、困っているようなわたしの顔。
(…………)
なんだか思っていたのと違います。
なんで、こんなにきれいにわたしの顔が映るんだろう。
しばらく考えて、わたしは気が付きました。
水が黒く濁っているからです。
夜に窓ガラスを見ると鏡みたいになるのと一緒だと思いました。
その証拠に目を凝らすと、噴水の底に溜まったたくさんの落ち葉が見えました。
そっと指先で水面を揺らすと、水面のわたしの顔も「ゆらりゆらり」と揺れます。
ゆらり
ゆらり
ゆらぁり……
水面が揺れるとわたしの顔が、ぐにゃり、と歪んで……
暫く待って水面の揺れが治まると、わたしの顔がお澄ましした目でわたしを見つめ返して来ます。
こう言うのを水鏡って言うのかな。
鏡が無かった頃の昔の人たちは大変だったんだろうな。
そんなことを思いながら水面に映るわたしの顔を見ていた時でした。
(……あれ?)
ポツンと白いものが見えました。
いえ、小さなものではありません。
それは、ちょうど、わたしのこめかみの辺りでした。
そこに白い花が咲いていました。
思わず手でその場所を触ってみますが、もちろんわたしの頭には何も付いていません。
白い花。
水面に映ったわたしのこめかみの辺りに、まるで髪飾りみたいに真っ白な花が咲いていました。
わたしは、もう一度、花が咲いているこめかみの辺りをそっと手で触ってみます。
水面に映ったわたしが、白い花を手で触ります。
ゆらり
ゆらぁり
ゆら……
ゆら……
ゆら──
水面が微かに揺れて、水面のわたしが笑いました。
真っ黒な水面に映る真っ白な花。
わたしの顔──
白い──
(…………)
わたしは、水面に目を凝らしました。
水の中で咲いているんでしょうか。
いいえ、そんなわけはありません。
でも、水面のわたしの髪にはまるで目の前にあるみたいにはっきりと真っ白な花が咲いています。
水面のわたしが、わたしのことをじーっと見つめてきます。
白い花。
指先で水面をすっとなぞると、わたしの顔が悲し気に歪みます。
指先に感じる水の冷たさ。
不自然に揺れる黒い水面。
でも、白い花は──
わらわら……わらぁ……
花びらがゆっくりと開いて──
真っ黒な水面のわたしの髪の上で咲き誇る白い花。
冷たい指先を白い花へ。
ああ、なんだろう……この感じ。
冷たい。
もっと、もっと──
わたしの──
髪に咲いた──
白い──
─────────。
「──あぶないっ!」
(えっ?)
気が付くと校長先生が、わたしの腕をつかんでいました。
何が何だか分かりません。
校長先生はホッとしたように肩を撫で下ろしました。
「あぶないよ、そんな風に覗き込んだら」
そんなふうに…………覗き込んだ?
……そんなふうに?
「浅いとは言っても、大人の膝くらいの深さはあるからね」
──それぐらいの深さがあれば、人は溺れるんだよ。
(…………)
わたし……
どんなふうになってたんだろう?
校長先生は、ちらっと噴水を覗き込んでから、ふうん、と大きな息を吐いてにっこりと笑いました。
「きょうは、もう遅いから帰りなさい。図書室ももう閉館だから」
ね?
ひそひそ
ひそひそひそ
図書室の閉館時間は、たしか五時です。
気が付かない内にずいぶん時間が過ぎてたみたいです。
たしか、第二図書室に行こうと思って図書室を出たのが三時半ごろでした。
中庭の噴水を見つけたのは、そのすぐ後です。
…………
ひそひそひそ
ひそひそ
(一時間……以上……)
わたし、一時間以上も噴水を見てたのかな。
そんなに時間経って……た?
……なんで?
それに──
(あれ?)
わたしは、噴水の中を見て首を捻りました。
ゆらゆらと揺れる真っ黒な水面。
不思議そうにわたしのことを見つめ返す水面のわたし。
そのどこにも、あの白い花はありません。
確かにさっきまであったのに。
(………………)
昇降口まで校長先生に送ってもらって校舎から出ると街灯が、ぽつり、ぽつりと灯り始めるところでした。振り返ると、校長先生がドアの間から小さく手を振ってくれています。
わたしは、校長先生に手を振り返しながら、なんだか言いようのない気持ちになっていました。
(ああ……)
ひそひそ
ひそひそ……
闇の中に浮かび上がる真っ黒な校舎。
たくさんの真っ暗なガラス窓。
誰かが窓からわたしを見ている気がしました。
ひとりじゃなく、たくさんの──
そう、たくさんの人たちが。
***************
ひそひそ
ひそひそ
ひそひそ…………
ふふふふふ
中庭の噴水を見た日から一週間くらい経ちました。
梅雨に入ったせいか雨の日が多くなって、放課後の校舎の中はひんやりとしています。
噴水の黒い水面にも雨の雫がいくつもの小さな輪を作っていました。
水面に映ったわたしが、ゆらゆらと冷たく笑っています。
背中に感じる雨の冷たさと水の臭い。
薄暗い放課後の校舎。
わたしは、タオルで体を拭きながら第二図書室へと続く長い廊下を歩いていました。
使われていない東校舎の一階の教室を改修して第二図書室をつくったのは、二年前くらいかな、と司書の先生が言っていました。空き教室をひとつ通り過ぎて、郷土資料室の次、東校舎の一番はじっこにある教室が第二図書室です。
しーんと静まり返った東校舎。
どこまでも続いているんじゃないかと思える薄暗い廊下の灰色の壁に黒い影がわらわらと揺れています。雨の音が窓ガラス越しに聞こえてくる中を誰もいない廊下を歩いていると、どこからか人の声が聞こえてくるような気がしました。
気のせいだとクラスの人たちは笑います。
みんなも笑います。
いひひひ
第二図書室のカギはいつも開いています。
ドアを開くとやっぱり誰もいません。
わたしは、入口で上履きを脱ぐと窓際のソファに腰かけました。
静かでした。
わたしは、何もせずただ黙って座っていました。
わたし、何しに来たんだろう。
窓の外に見える昇降口。
校舎にぽっかりと開いた昇降口は、まるで人の口みたいです。
今日も誰もいません。
と、
ぱたぱたぱたぱたっ
ドアの前を誰かが横切りました。
誰かが、廊下を走っています。
わたしは、ドアを開いて廊下に出ました。
でも──
誰もいません。
それに、ドアを横切って行った人は、廊下の端から西校舎に向けて走っていました。
廊下の行き止まりは、ただの壁です。
ドアも階段もありません。
それに……
ひそひそ
ひそひそ
しーんと静まり返った廊下を青白い照明が、ぼんやりと照らしていました。
わたしは、廊下を西校舎へ、図書室に向けて歩き始めました。
郷土資料室を通り過ぎる時、開いたままのドアから資料室の中が見えました。
教室の後ろのドアから前のドアまで緩いカーブを描いた通路の両脇に並べられた昔の農機具や錆びだらけの道具たち。
カーテンが引かれて暗い郷土資料室の中ほど。
展示物の脇に──
女の子が立っていました。
ひひひひひ
背が低いので低学年の子だと思います。
もしかしたらさっき走っていたのは、この子かもしれません。
わたしは、一度通り過ぎた後ろのドアから郷土資料室の中へ入りました。
さっき女の子がいた辺りを見ると──
誰もいませんでした。
埃とカビの臭い。
それと濃い雨の匂いがしました。
わたしは、図書室へと向かいました。
***************
れい……な……
……れいなちゃん?
ひそひそ
ひそひそひそ
ぽた、ぽた、ぽた、と黒い滴が床に落ちます。
廊下で校長先生と話していた担任の石井先生がタオルを手に教室に入って来ました。
「鈴原さん?」
気が付くとクラス中の人がわたしを見ていました。
びっしょりと濡れたブラウスの袖やお腹の部分が体に貼り付いて気持ちが悪いです。
先生が渡してくれたタオルでブラウスの袖を拭くと、タオルが黒くなりました。
タオルには、砂と落ち葉が付いていました。
何日か前に一度晴れたっきりで、今日も外は雨です。
教室の窓から見える景色も一面の灰色で、学校の中を淀んだ水の臭いが漂っています。
冷たい雨。
黒い水面に広がる冷たい波紋。
掌に感じるざらざらとしたあの感触。
濃い水の臭い。
水面の上のわたしの顔が、ゆらゆらと寂し気に揺れていて、たまらない気持ちになりました。
どうしてそんな目でわたしを見るの。
どうしてそんなに寂しそうな顔をしているの。
何日か前に見た時は、また白い花が咲いていたのに。
今日だって……
そう、今日だって──
ひそひそ
ひそひそ
くすくすくすくす
ふふふふふ
れいな……ちゃん
れいなちゃん
「ね、ねえ……」
あれ──
あれっ!
隣の席の子が教室の後ろのドアを見て震えていました。
きゃあぁ!!!!
うわあああっ!!!!!!
釣られて振り向いた子たちが悲鳴を上げました。
教室の後ろのドアの影から、じーっとわたしを見つめる女の子。
青白い顔と真っ黒な目。
郷土資料室で見たあの──
ふふふふ
れいなちゃん、れいなちゃん、れいなちゃん……
「みんな、落ち着いて!」
「わぁ!!!!」
「きゃあぁぁっ!!!!!!」
「いる!! なんかいる!!!!」
教室の中は、大騒ぎになっていました。
男子が教室から飛び出して行ってしまい、女子は、みんな泣き出してしまいました。
担任の石井先生が、大きな声で何かを言っていますが、まわりがうるさすぎて何を言っているのか分かりません。
他のクラスの先生たちも教室に飛び込んできました。
みんな、落ち着いて!
何があったの?
大丈夫だ!
いないよ!
誰もいないよ!
ひそひそ
ひそひそ
くすくすくすくす
きゃはは
ふふふふふ
くくくくっ
耳が痛いほどの騒ぎの中、わたしは窓の外を見ていました。
灰色の空といつまでも降っている雨。
そして──
ベランダの柵越しにこちらを見つめているみんなの顔を。
***************
青い空が広がっています。
梅雨が終わりました。
五時間目の休み時間に入ったところで、スピーカーから「ピン・ポン・パン・ポーン」と音が鳴って、わたしが呼ばれました。
『六年三組 鈴原玲菜さん』
──中庭まで来てください。
校長先生の声でした。
担任の石井先生が、にっこりと笑って、みんなも一緒においでと周りの人たちにも手招きします。
中庭に出ると、
(え…………)
何もかもが、変わっていました。
昨日まで見ていた噴水の黒い水面。
薄汚れたタイルと噴水の周りのあちこちで枯れていた草花。
それが──
ジャージ姿の校長先生は、わたしの顔を見てにっこりと笑うと中庭のすみっこにいた作業服姿のおじさんに「お願いします」と声を掛けました。
すると──
「「「わぁぁぁっ!!!!」」」
周囲にいた他の子たちから歓声が上がりました。
水が入れ替えられ、掃除もされてすっかりきれいになった噴水。
その中央から勢いよく水が噴き上がりました。
「みんなで掃除をして、壊れていた部分も修理して頂きました」
この噴水は、鈴原さんのお気に入りだから、真っ先に知らせたいと思って、と校長先生が言うと周りにいた先生たちも「うんうん」と頷きました。
勢いよく噴き上がる水。
生き返ったみたいにきれいになった白い噴水。
水は澄んでいて噴水の底まで手に取るように見えます。
枯草だらけで、じっとりと湿っていた中庭も真新しいプランターに咲き誇る色とりどりの花に囲まれて見違えるようでした。
でも……
ひそひそ
ひそひそ
ひそひそひそ
ひそ……
ゆれゆらと不安げに澄んだ冷たい水。
太陽の光を溶かした透明な水面が、キラリキラリと儚げに揺れています。
そのどこにもわたしはいません。
(ああ)
わたしは、噴水の水面をそっと指で触れました。
(ああ……)
ちがう
ちがう
れいなちゃん?
れいなちゃん?
れいなちゃん……
(ああ──)
わたしは、指先の凍り付くような冷たさを体じゅうに感じながら、その透明でからっぽな水面をずっと見つめ続けていました。
***************
月が上っていました。
満月です。
テレビが、九時です、と言うのが聞こえました。
テーブルの上に置いてあったメモと千円札をいつものクッキーの缶に入れようと思って缶のフタを開けると、入れてあった千円札とメモがわらわらと床に落ちました。
昨日と一昨日とその前とその前の前も……。
いえ、もっと前の物もあると思います。
お母さんは、今日も帰って来ないと思います。
お父さんは、どこに行ったのか分かりません。
わたしは、ひとりぼっち。
れいなちゃん
れいなちゃん
ふふふふ
ふふふ
(あぁ……)
聞こえる。
呼んでる。
行かなきゃ。
早く行かなきゃ。
気が付くと、わたしは玄関を出て学校へ向かっていました。
真っ暗な空にぽっかりと浮かんだ月が、わたしを青く照らしていました。
街灯の白い明りが、ぼんやりと瞬いては、時折、点いたり消えたりしています。
学校までの道のりは、十分ほどです。
夜の匂い。
学校の周りの森が、ごうごうと鳴っているのが聞こえます。
早く行かなきゃ。
気が付くとわたしは、走っていました。
どうして、走ってるんだろう?
れいなちゃん
れいなちゃん
聞こえる。
呼んでる。
さっきより大きく。
はっきりと。
「聞こえるよ」
いまは走っているこの道の先に学校はあります。
あと、もう少し。
「いま行くね」
校門まで来ると、
ギィィィ……
門の脇の通用門が、軋んだ音を立てて内側に開きました。
校舎は真っ暗でした。
どうやって中庭へ行こうかな、と思って昇降口のドアに手を掛けると、
ガチャン
カギが開く音がして簡単に中に入れました。
ふふふふふ
くすくすくすくす
所々に、ぼぅ、と灯る緑色の非常口の照明。
校舎の中は真っ暗でした。
静まり返った校舎の中をわたしは中庭へ急ぎます。
きゃははは
ははは
ふふふふ
笑う声が聞こえます。
中庭まで来ると窓から差し込んだ月の光が廊下を淡く照らしていました。
壁に掛けられたレリーフの中で、みんな、はしゃいでいます。
大きな口を開けて歌う人。
走る人。
あははははっ
うひひっ
中庭に出ると景色が一変していました。
一面に咲き誇る白い花。
白い花に囲まれた噴水から勢いよく水が噴き上がりました。
月の光に照らされて夢のように儚げに輝く冷たい水のしずく。
わたしは、導かれるように噴水へ。
水の飛沫に揺れる透明な水面。
でも──
(あぁ)
昼間見たときにはいなかった、わたしがそこにはきちんといました。
(そこにいたんだ)
指先が触れ合うと、わたしは嬉しそうに笑いました。
ゆらゆらと指先で揺れる冷たい水面。
青い光を溶かした水が、
ゆらり
ゆらり
と揺れて──
伸ばした私の手が水面にぽちゃりと浸かった──
その時でした。
水面のわたしが、わたしの手を掴むと噴水の中へ引きずり込んだんです。
全ては、あっと言う間の事でした。
ざぶんと上がった水飛沫。
上も下も分からない水の中。
暗い水の底へわたしは、ゆっくりと沈んでいきます。
月の光にきらりきらりと揺れる透明な水面。
頭上に見える水面は、どんどんと遠くなっていき……
気が付くと──
わたしは、噴水の周りでみんなと輪になって踊っていました。
青い月の光に照らされた中庭から舞い上がる白い花びら。
水のしずくが、きらりきらりと輝いてみんなの笑い声が響きます。
きゃははっ
ふふふ
はははっ
みんな一緒。
わたしとみんなの踊る輪の中にはあの噴水があります。
きらきらと揺れる水面。
水面にぷかりぷかりと浮かんだわたしのブラウスの背中。
あははっ
ふふふっ
わたしたちは、いつ果てるともなく踊り続けます。
ずっとずっと。
いつまでも。