7、迫三郎の逆恨(おわり)
「クソがぁぁ……っ!!」
リハビリのため、立ち上がろうとするが撃たれた右足は全く以て動きそうになかった。あの薮医者ババアめ! 何がじっとしていれば、そのうち動くことができましょうぞ、だ! 医療知識がない俺でもじっとしていればしているほど、足の筋肉が落ちて尚更歩けなくなることぐらい理解しているってのに!
リボーシャ奪還ミスから、すでに三ヶ月が経っていた。撃たれた俺はパーティーの手によって、商人ソデノシタに紹介された魔法に頼らない『医術』を研究するババアの元へ運ばれた。
この世界は魔法値で満ちており、魔法値が掛かった魔法や技、武器・アイテムなどによる怪我は、同じ魔法値が掛かったものなら治せるものだった。だが、時には魔法値が関係しない怪我があり――単なる事故や病だったり――そういう魔法値が関係しない怪我や病を治す研究をしているのが、このババアという訳だ。
大概が魔法などで治る世界ではあったが、それと同時に、魔法値が関係しない事故や怪我――つまりは魔法などでは治らないものは神から定められた運命だから諦めて大人しく享受しなさい、というのがこの世界の常識だ……と言っても、此処に担ぎ込まれて初めて俺は知ったんだがな!
そういうスタンスである故に、魔法に頼らない『医術』は周りから運命に逆らう唾棄すべき行為と見なされ、ババアは町外れに一人で生きていた(このババアの家を俺は全く知らなかった)。
だが、ババアも『研究』と称しているだけあって、俺の転生前の世界の『医術』の常識もセオリーも知らなかった。
手を洗わないで『医術』を行おうとする、銃弾を取り出すために麻酔なしで切開しようとする、ピンセットなんて使わずに手袋無しの手で銃弾を取り出そうとする、勿論輸血なんて存在せず、死んだらそれこそ運命だから仕方ない、というスタンスで『手術』された俺の身になったみろ! これで死んだらマジで死んでも死に切れない!!
どうにかこうにか生存した俺は必死で松葉杖すらない世界でリハビリ行為をしていた。ババアはババアで「へぇ、リハビリしないと筋肉が落ちて逆に歩けなくなるのか」とのん気にほざいてやがる。
俺をここまでそうさせたのは蒼二郎への復讐心であった。
あの野郎、絶対に殺す!!
八つ裂きにして殺す!
四肢を切り落として殺す!
命乞いをさせてから殺す!
俺に会ったことを後悔させながら殺す!
絶対にリボーシャを取り戻して――ッ!
「迫三郎さま!」
アメの手が届く前に、大きくすっ転んだ。歯軋りをしながら、コバンザメとムチの手を借りて立ち上がる。
(覚えておけよ、蒼二郎。俺が復活したら真っ先にお前を殺してやる!!)
復讐心に燃えながら俺は杖を手に取ったのだった――リハビリに戻るために。
おわり