5、蒼二郎の歓喜
左腕を斬り落とされ、右足も折れていたが、魔法値のある武器や魔法でやられたため、思った以上に治りは早かった。とはいっても、斬り落とされた左腕は無いので、治療服の袖先がぷらぷらしているのが我ながら気になるところではあるが。
「鳴一郎、お前が無事で良かったよ」
ベッドに座り込んだ俺はにこにこしながら、鳴一郎の頭を何度も撫でた。俺を治してくれた街の僧侶曰く、いつ死んでもおかしくなかった、とのことだったが、運悪くこうして俺は生きている。
本当なら死んでも良かったのだが、迫三郎を仕留め損なってしまったので、しっかりアイツを殺すためにも俺は生きなければならない。くずったれな俺が生きているのだ、同じくくずったれな迫三郎も生きているだろう。トドメを刺さなければ、鳴一郎の自由も未来もないのだ。今度こそ奴の心臓に止めなければならない、その代償が自分の命ならば丁度良い塩梅だ。鳴一郎のこれからの人生に、くずったれは必要ない。
「あはははっ! そんなに泣くなよ、鳴一郎!」
鳴一郎は俺にしがみついて、ずっと泣いていた――それこそ、残った片目が溶けてしまうかと思うぐらいには。
「だって、蒼二郎の腕がぁぁ……」
「俺はお前が無事なら、それでいいんだ。それだけで俺は嬉しいんだ」
お前が泣かないから俺が泣いているんだ、と言いたげな鳴一郎を片手で抱き締める。いつもは両手で抱き締めていたのだが、片腕だけだとこうも不便とは思わなかった。そのことをうっかり漏らすと「これからは俺が両手で抱きしめるから」と鳴一郎に言われ、正直参ってしまった。
街の僧侶が言うには、俺はハイになっているらしい。血がドバドバ出たからアドレナリンもドバドバ出ているとか。確かに俺は愉快で仕方無かった。迫三郎に大怪我を負わせられたし、鳴一郎も守れたのだ。これで迫三郎も俺も死んだら一番良かったのだが、文句は言っていられないだろう。
(鳴一郎、お前、ホントに良い奴だよ。幼少期のお前を虐めて、お前の左目を失くす遠因になった俺のために此処まで泣いてくれるなんて。お前は優しい奴だから、俺がいなくなってもきっとすぐに仲間が見付かるだろう。迫三郎に同じ手は通用しないから違う手を考えないといけないが、今はお前が無事なら何だっていい。どうだっていいや)
グズグズと泣き濡らす鳴一郎の頬は赤く火照っていて、ああ生きているな、と感じられた。嬉しい、笑顔が止まらない、ニヤケっぱなしだ。抱き締めた両性未分化の身体はとても薄くて、頼り無さげだった。
(あと二年だ。良い男になれよ、鳴一郎)
俺は喉仏をくつくつ鳴らしながら、鳴一郎の頬に自身の頬を寄せたのだった。
つづく