題:灰と眠る
マッチ売りの話です。
聖夜、少女は町を彷徨う。
降りしきる雪は全てを白と静寂で覆って、だから世界から誰もが消えた。少女を残して。
少女は、マッチを売るように言いつけられていた。籠の中いっぱいのマッチは、本来通りすがる全ての人に買ってもらっても売り切れないほどで、それは言外に帰ってこないように命じているも同然だった。
あまりの寒さに、マッチを一箱取り出した。町には誰もいないから、売り物に手をつけても問題ない。どうせ買われることなんかないんだから。
震える手で擦って、火をつける。ほんの少しの暖かさ。それもすぐに消えてしまう。残ったのは煙と燃えカス。投げ捨てればすぐ雪に埋もれて見えなくなるだろう。
どんどん出して、どんどん火を付ける。刹那の温もりを維持し続けるために、少女の手は休むことなく動き続ける。
三箱を空にしたところで、急停止した。あまりにも燃え尽きるのが早いから、キリがないと気づいたのだ。それから、視線を横に揺らした。火を保つには薪が必要だから。
するとそれはすぐに見つかった。暖炉で焚くための薪が家の外に積んであった。もちろんそれは少女のものではなかったが、そんなことはどうでもよかった。
火を点けた。一本では消えてしまうから、何本も連続して。
結果、よく燃えた。否、燃えすぎた。いくら雪の中といえど、大量の火種と大量の薪、それから不幸にも風に飛ばされた火花が、雪だるま式に広がっていった。それは他の家に積まれた薪に始まり、倉庫代わりの小屋など木造のものを、ついには煉瓦作りの家まで燃やし始めた。
悲劇的なことに、手遅れになるまで、あるいは手遅れになっても、気づく者はほとんどいなかった。降りしきる雪が、火すらも覆ってしまったから。
そうして、町は灰となった。火元で安らかに眠る少女と共に。
読了ありがとうございました。本当に。