題:蒸発と跳躍
借金に追われた学生の話です。
これも続きモノにしたいです。頑張ります。
二億七千万。これは人口でも天文単位でもましてや一年間に収穫される小麦の量でもなくて、俺が齢十八にして科されている、そして貸されている金額である。理由は簡単。親の借金だ。
これまで、特に生活に困ったことはなかった。欲しいものは何でも買ってもらえるってわけじゃないけど、進学先を選ぶ時に学費は一切気にするなと言われたくらいには。だからそれなりに幸せに暮らしていた。
一年前、両親が揃って蒸発するまでは。
俺には書き置き代わりの借用書だけが残された。学生には到底払えない金額。一生かかっても払えない金額。
とりあえずバイトを始めた。当面の生活費と、学費を稼ぐために。当然ながら返済は一切できていない。定期的に届く書類に記載されている金額はどんどん増えていたけど、借金取りの類は全く来なかった。だから実感が薄れていた。雪だるま式に膨れ上がっている負債の実感が。
ぴんぽーん。ぴんぽぴんぽぴぽぴぽぽぽぽぽーん。
間の抜けた音が連続して響く。イタズラか?全く面倒なことしやがって。こっちは昼学校の夜バイトでろくに睡眠時間も取れてないのによ。ため息をつきながら、ドアアイを覗き込む。
そこに立っていたのは、明らかにヤの付く職業の方だった。しかも二人。警察官は一人で行動しないというが、そのテの人たちもそうなのだろうか。
とにかく、ピンチだ。どうにか逃げ出さなければならない。覗き見たあいつらは俺の内臓を売るのが前提、という空気を醸し出していたし、実際それだけで返せる額ではない。あと、一瞬目が合った気もするし。
とはいえ逃げ場らしい逃げ場もない。なにしろここは三階なのだ。玄関から出るのは論外だし、ベランダから出るのはもっと論外だった。
だけど、俺に残されたのはそんな有り得ない選択肢だけだった。
手すりに足をかけて、なるべく下は見ないように。頭を庇えば最悪の事態は免れるだろう。ぴぴぴぴぽぽぽぽぴんぽーん。激しくなるチャイムに急かされるように、俺はそのまま飛び出した。
読了ありがとうございました。
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