題:春は青く
青春が好きな女の子の話です。
春が来て、中学生。また一歩憧れの女子高生に近づいたことが、嬉しくて不安だ。あとたった三年で、煌びやかな青春を送れるようになるのかな。
入学から早くも三ヶ月経って、今の私はあまりパッとしないグループの一員で、二軍と三軍の間くらいに位置している。本当はきらめきの頂点にいたいけど、クラスの女王をしているエリカちゃんは私を気に入らなかったらしい。私は青春に向かって真っ直ぐなだけなのに。
「ルカちゃんって、変わってるよね……」
なんてよく言われるけど、せっかく女の子に生まれたんだから、華の女子高生になりたいと願うのは至極当然のことじゃないだろうか。可愛いものが好きなのも、可愛くなりたいのもみんなと一緒のに、そこだけが違うのだ。
高校という、義務でもないのにみんなが通っている不思議な場所で、大人と子どもの間で揺れ動く狭間の時期だからこそ、見えてくる輝き。一瞬のきらめき。
卒業式の日、桜の樹の下で可憐に果てるところまで綿密に練っているのに、肝心の青春の計画はほとんど白紙のままで。というのも、青春は一人じゃできないからだ。
友達にしろ彼氏にしろ、自分以外の誰かがいないと寂しい。ぼっちは惨めでくすんでいる。そんなのは、私の求める高校生活じゃない。
だから、この三年間でどうにか集めておかなければならない。高校に入ってからも友達を作る予定ではあるが、「中学からの友達」にはそれ相応の価値がある。今のうちに頑張っておかなければいけない。
「おお田中、ちょっといいか」
担任の先生が声をかけてくる。中肉中背、サラリーマンを絵にしてくださいと言われればこうなるような、冴えない普通の男の先生。
でも、今はこれでいいのかもしれない。高校の時まで運は貯めておこう。どうせ、今来たって大したことはできないんだし。
「これ、戸塚の家まで持っていってくれるか。お前席近かったろ?」
戸塚菫。一か月もしないうちに登校しなくなった女子。あまり仲良くなる暇もなくいなくなったもんだから、教室は一時期彼女が来なくなった真相についての話でもちきりだった。
妊娠したんだとか、別の学校に転校したんだとか、事故で大怪我をしていて動ける状態じゃないとか、どれも根も葉もない推測。私は病気説を推していた。
というのも彼女、最初は実に楽しそうに学校に通っていたのである。そんな彼女が不登校になったのは、何かの事情で動けないに違いない。
であれば、私の夢に共感してくれる可能性はある。そうでなくとも、「病気で不登校がちの友達」は、青春の一パーツとして保持しておきたい。病室に毎日通って学校の話をするなんていかにもだし、面倒になったら距離も置きやすい。なんか引け目を感じてるような気がして、とか、知らないうちに傷つけているんじゃないかと怖くなって、とか、言い訳はいくらでもできる。
そんな打算も込みで、先生からプリントを受け取る。教えてもらった彼女の家は思ったより近所で、帰り道に寄ることができる距離だった。一緒に下校できる距離、とも言える。そうと決まれば善は急げ。私は学校から駆け出した。
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