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散逸した草稿 - 短編集。  作者: 毒島複廊
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題:初夏、

プール掃除のお話です。

 デッキブラシは重く、それに力を込めて擦るんだから疲れるに決まっている。何が赤点への罰だ。先生たちが掃除するのが面倒だから押し付けただけじゃないか。


 水の抜かれたプールの真ん中で、汗をダラダラ流しながら思う。まだ夏の前だから日差しはそこまで強くないけど、こんな重労働をしているんだから全身はもうびちゃびちゃだ。


 せっかくだしと体育着の下にこっそり着けていた下着は張り付いて気持ち悪いし、だいいちまだ水を溜めることはできないらしいから、完全に判断ミスだった。デメリットしかない。かといって、着替えは教室に置いてきたから脱ぐこともできない。今の時期、更衣室は「安全上の理由から」封鎖されている。水泳部があれば別だったのかもしれないけど、この学校にはない。ていうか、それならその部員がやってただろうし。


 あー、もう。暑い!一度意識すると脳が支配される。太陽が拡大されたみたいに、日光の当たり判定が広がった感じがする。日陰に逃げようにもここはプールのど真ん中、周りは金網だから陰もない。唯一、プールの出入り口にだけセーフゾーンがある。サイアク。


 どうせ長引くだけと思いつつ、小走りで梯子を昇りプールサイドを駆け、やっと日差しから解放される。全身が蒸れて暑いのに変わりないけど、直射日光に当てられてるよりはずっとマシだ。


「おー、やってるか?樫井~」


 胸元をパタパタして少しでも多く風を送り込もうとしていた私の背後から、声がかけられた。振り向くと、やっぱり小林先生だった。ちょっとおじさん臭いけど、よく授業を早めに終わらせるから人気の先生だ。そして私をプール掃除に送り込んだ張本人でもある。


「いやー、こうも天気がいいと暑いんじゃないかと思ってな。ほれ」


 その右手に掲げたビニール袋には、アイスが透けていた。


「いいのっ?」


「おー、他の先生には内緒だぞお?」


 思わず食いつく私に、小林先生はへらへらと返事する。ビニール袋からさっとアイスを取って包装を剥き、かじりつく。


「~~!!!!」


 冷たさがキーンと頭に響いて、声にならない声が出る。この冷たさが愛おしい。

読了ありがとうございました。

アイスクリーム頭痛って名称、ちょっと嘘っぽくないですか?

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