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題:祝福
好きのお話です。
その歌は、ただ彼女のために。
画面の向こうの彼女はこちら側を知覚することができず、故に遠い。手を伸ばさずとも触れられる距離なのに。声も届かない。連ねた言葉は二バイトの羅列になって無味にぶつかる。込められた想いは丸められ、乾燥した感想になってしまう。
だから、歌。仮初の電子音も今や本物で、醒めない夢も叶えられる。奏でられる。奇怪だった機械は確固たる存在として括弧のいらない前提になった。これなら思いの丈をありったけ詰めて、届いたその先で展開できる。ただ愛を伝えるだけの歌を。
常套句に相当苦しくなって、短絡な語彙じゃちょっとしか繋がらない。瑕疵のない歌詞を作りあげるために骨も身も心も砕いて、鵜の目鷹の目飴を小麦粉から探し出すみたいに書き出した。
交わることない平行線でも、三番目の向きが現れて四番目を貫けばきっと。サーチライトを当てレイヤーを透かして見つけ出す。そして出来上がった、曲がりくねり歩き回り駆け巡りたどり着いた祈り。この愛が届くように。埋もれてしまったとしても、そこにあるだけでいい。愛があるだけだから。
題名は彼女の名の一部から取って、無名な私が作り上げた初めての音。
その歌は、ただ彼女のために。
読了ありがとうございました。
本当にありがとうございます。ほんとに。




