題:森の魔女の邂逅
森の魔女の物語です。
シリーズにできたら嬉しい。
ベリーをいくつか摘んだら、薬草を採りにいく。使えるものとまだ育っていないものを選り分けつつ、籠がいっぱいになるまで集めたら、今度は家で火を焚いて。
集めたあれこれを鍋で煮たてて、上澄みを掬って瓶に流し込む。たったこれだけで、魔女の秘薬は完成する。ただ、その効能に大したことはない。不老不死だとか、どんな傷や病もたちどころに治るとか、力が湧いて岩をも砕けるようになるとか、そんなことは一切ない。
ただ、ほんの少し癒すだけ。痛みや苦しみを隠すようにして一時的に忘れるだけ。それでも私には必要だ。これのおかげで、私は独りでも生きていけるんだから。
最初に魔女だと噂されたのは、森で薬草を集めてからだった。近所の家の人に頼まれたから、だったんだけど、帰り道、味が気になっちゃって、薬草を舐めたところを神父さんに見られたのが良くなかった。
その時は何も言わなかったのに、神父さんは私を魔女ではないかと疑った。いや、そうなるように話を広めた。そしてその目論見通りに、私は森に追放されることになった。妹に言われた、
「でも、焼かれなくて良かったよね」
は、本当にそうだと思う。衆目に晒されながら火あぶりにされるのは、きっとすごく苦しいから。
それから私は森の魔女。家からくすねてきた色々で、森で静かに過ごす日々。幸い、ここは土が豊かだから食べ物には困らない。町にさえ出なければ、何の問題もない。森には誰もいないけど、慣れればすぐにありふれたことになった。いつからか放置されていた小屋も、少し修理すれば雨風しのげる立派な家になった。
魔女の秘薬は、ママから教えてもらった秘伝のレシピを私好みにちょっと変えたもの。私がケガしたときよく作ってくれたもの。これを飲んでいれば、ほんの少しだけ懐かしくて温かくて、心が痛くもなってくるけど、それは薬が癒してくれる。
一生このまま暮らすつもりだったし、そのはずだった。
でも、その目論見は、森にやってきた(あるいは迷い込んできた?)一人の客によっていとも容易く崩れることになった。
その日はキノコが沢山生えていたから、小屋から結構離れた場所まで採集に行った。籠はとっくに溢れかえっていて、私は髪でも腕でも引っかけられる場所があればキノコを引っかけていた。そこに、男の子が歩いてきた。多分、私と同じかちょっと下くらいの歳の。
男の子は私を見るや、
「ええーーっ!?」
と驚き、ふらついた足取りのままに、倒れ込んでしまった。
これまで、森で誰かと会ったことは何度かあった。でも、魔女である私とは誰も口を聞いてくれないし、まずいないみたいに無視するのが当たり前だった。だから、私に対して何か言葉をかけられるのは、本当に久しぶりだった。それこそ、森に追放される前が最後くらい。
見捨てる理由はなかった。私はすぐに男の子をどうにか抱え上げて、ぼとぼと落ちるキノコは気にしないで小屋へと運んで行った。
町の方へ行かなかったのは、誰かと会って変な誤解を生むかもしれないという恐れがあったから、というよりは、この男の子を見ていたらどこか懐かしさを感じるから、かもしれない。
とにかく、それが私と彼の出会いだった。少なくとも、私から見ての。
読了ありがとうございました。