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散逸した草稿 - 短編集。  作者: 毒島複廊
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題:失敗したゾンビ人形の哀歌

囚人のお話です。

 俺はどこで間違ったんだ?独房で一人、考える。冷たい床はマットレスを貫通し俺を眠りから遠ざける。ブランケットは自分を見つめる非難の眼差しから隠れるには薄すぎる。


 確かに、間違ったことをしたのには違いない。なにせ人を一人殺したんだからな。


 だからといって、俺が全面的に悪いとも思わない。相手にも責任はあったはずだ。間違いなく。それでも最終的に手を出した俺に罰は下った。それは仕方のないことで、しかし納得のいくことでもない。腑に落ちない。どうにも。俺に見えない手の届かない誰かが俺を貶めている?陥れている?


 考えても仕方ない。想像に任せれば全てを創造するが、その基底を規定するものが曖昧すぎる。ただ事実としてあるのは、俺はこれから長い間この冷たい床と共に生きるということだ。


 戻れば、そもそもあいつと出会ったのが悪かった。あまり話さない奴に珍しく誘われた飲み会で、なんか気になったから話しかけてなし崩し的に遊ぶことになって関係が生まれてきて、それがなければ俺が殺すこともなかった。じゃあ、悪いのは誘ってきた奴じゃないのか?


 そうでもないか。そこに行くのを選んだのは間違いなく俺だ。本当に?なんとなくをなんとなくで済ませてしまえばそれでお終い。来るよう仕向けて影で糸引き意図操ってたんじゃないのか?やっぱり悪いのはあいつ?


 考えてもみれば、その前に別の人に聞かれたんだ色々。最近カラオケ行ったかとかどうとか。忙しいから行ってないなんて適当に濁してたけどあれが布石だとしたら。点と点が結ばれ始める。いとも容易く綻びない絡まった絵図が見えてくる。


 いや、聞いてきたそいつは俺が気まぐれで行ったコンビニで遭ったんだった。なんぼなんでも生きとし生ける全ての意、ラプラスの悪魔でもない限り因果は見えないはずだ。でも、俺一人を動かすのだったら?白紙に描いた黒点を見つめてしまうように明かりに眼が動くように、俺が何を見てどう動くかくらいなら計算の必要すらないんじゃないか?明け透けに見られている気がする。一挙手一投足。


 そんなのつまらない陰謀論に過ぎないと言われればそれまで、結局誰しも電気信号の群れだから変わらないと言われてもそれまで、でも俺が今この冷たい床の上にいるのが俺の振るった酒瓶のせいじゃないとしたら。その希望に縋りたくなる。


 特別更生プログラム、というのがあるらしい。看守から聞いたそれは簡単なビデオプログラムとかレクリエーションをするだけで刑期がグンと短くなるらしい。固くてぼそぼそのパンを齧る時間が少なくなるらしい。


 受けてみようと思う。あくまでも俺の選択だ。急かされてるわけでも強要されてるわけでも水を向けられてるわけでもない。ただ、俺の意志の下で、俺が受けてみたいと思ったから……。


***


 実に上手くいった。何もかも計画通りだ。

読了ありがとうございました。

書いたあとで「こんなんにするつもりじゃなかったけど……まあいいか……」ってなりました。読んだあなたが「こんなんか……まあいいか……」となってないといいですけど……まあいいか……

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