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散逸した草稿 - 短編集。  作者: 毒島複廊
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題:交番の怪:人面犬

わんわんのお話です。

 警察官にも種類がある。迷子を保護する平和なものから、命を懸けて殺人事件を追う大変なものまで。俺はその中で、前者に位置する──交番勤務をしている。


 別に簡単なんて言うつもりはない。日々色々やることはあるし。そりゃあ花形ではないかもしれないけど、町の平和を守っているのには間違いない。それも、ここは特に。


 シフト勤務で俺は大体深夜に交番にいることが多く、そうなると変なのが沢山やってくる。警察官に絡みに来るとかならまだかわいいほうで、面倒なのだと交番を家だと思ってたり、徒歩で遠距離まで来て途方に暮れてたり、とにかく面倒事には事欠かない。



 今日もその手合いか、と思った。顔の位置が低いとは思ったが、四つん這いの匍匐前進野郎も珍しいとは言えないし。顔は酔っ払いそのものだったから。


 ただ、そいつは膝より低いところに顔がありながら、四つん這いではなかった。その()()()()でしっかり立っていたんだから。


「……何見てんだよ」


 真っ赤な顔で恨めし気にそう言われても困る。姿を見せたのはそっちだろうが。


「ワンワ……間違えた。くそ……」


 咄嗟に怒鳴りつけようとでもしたのだろう、うっかり吠えてしまってただでさえ赤かった顔が羞恥で爆発しそうなくらいになっている。



 そう、それは間違いなく人面犬だった。目の前の光景は信じられないが、同時に(このくらいならまあ、あるか)と思っている自分もいる。度重なるトラブルに正常の判定が緩くなっているのだ。


 それにしても珍しい、とじろじろ見ていると、ふと背中の模様に見覚えがあることに気づいた。イナズマのようなその毛並み。


 数日前に、飼い犬がいなくなったと女の子が来た。経緯は親から聞いて、その女の子はずっとべそをかいて気の毒だと思ったから、そこらへんにあったいらないチラシの裏に犬を描いてもらったのだ。一応写真も見せてもらったけど、プリントできる設備がなかったのでその似顔絵ならぬ似犬絵を交番内に貼っていたのだった。


 背中のイナズマ。ペンで力任せにぐしゃぐしゃと描かれた模様と、何度も言い含められたその特徴に間違いはなかった。


「あんた、これじゃないか?」


 俺は親指で似犬絵を指す。もちろん、そこに描かれている犬は犬の顔をしているが。


「? あっ、おい!そうだよ、この犬だよ。聞いてくれよ、俺この犬と合体しちまったんだ」


 ビンゴだったらしいが、そうでない方がよかった。見失っていた自分を取り戻したのか、その人面犬がまくしたてたところによると、仕事から帰っている途中でその犬が道路に飛び出しているのが見えてたまらず守りに行ったところ撥ねられてしまったのだとか。

 そして気が付くと、こんな姿になっていた、と。


 俺は始末書になんと書くか悩みつつ、とりあえず今晩は交番で保護することにした。あの子、泣かないといいけど。

読了ありがとうございました。

よく考えたら犬ではない何かだこれ。

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