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散逸した草稿 - 短編集。  作者: 毒島複廊
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題:病題探偵

気まずいお話です。

「犯人はこの中にいる!」


 遡ること数十分前。


 夏休みで暇を持て余していた大学生がサークルメンバーの誰かの家を溜まり場にして映画の上映会でもしようぜと言いだすのは至極当然のことで、それこそ今まさに空の上で熱気をむんむん放つ太陽が東から昇って西に沈むように、なんてことはないはずだった。


 大学から一番近いアパートに住んでいた木村──当然、今回溜まり場に選ばれた──は大層なアニメオタクで、サブスクでシーズンごとのアニメを網羅し、気に入った物は最低でも円盤、展開されればグッズも買う、という今日日安く楽しめるはずのコンテンツに金をかけている変人である(本人曰く、これは論理が逆で、金をかけられなくなったからこそ買い支えているのだとか)。


 そんな木村が大事そうに飾っていた『歯車少女魔法依頼』の限定版ブルーレイボックス(フィギュア・ラジオCD付)がショーケースの中からすっかり消え失せていたのである。

 そのブルーレイディスク(木村に言わせれば『家宝』)は電子レンジくらいのサイズがあり、盗み出すのは一苦労だ。第一、俺たちの誰もそんなに大きなものが入る鞄を持ってきていない。映画を見るだけの集まりだから荷物は必要ないのだ。


 それでもなくなっていることに違いはなく、聞いてみればフリマサイトなどで高値で取引されてもおかしくないグッズらしいため、少なくとも動機らしい動機はあることになる。


 だが、不可能だ。俺たちが木村の家を訪ねて『家宝』を自慢されてからその消失に気がつくまで、ショーケースがある部屋には誰かがいたのだ。しかも複数人で。


「君たち、僕ァ誰も警察に突き出したかァない。今名乗り出てくれるなら許すよ」


 木村は最初『家宝』を失ったにもかかわらず、冷静にそう言った。変人ながら気はいいやつなのである。もちろん、俺たちの誰も自首することはなく。


「犯人はこの中にいる!」


 そうして痺れを切らした木村が眼鏡を押し上げつつ放った一言が、これなのである。しかしながら追い詰められているのは犯人というより木村の方で、だからどこか悲哀さえ感じるような一言だった。


「お前か?お前か?お前か?」


 一人一人指していくが、みんな同じような反応をする。当たり前だ。本当の犯人だとしてもこんなところでボロは出さないだろうし。ローラー作戦は人狼でもなければ通用しないのだ。



俺にもその順番が回ってきて、思わず目を逸らす。そして、それは目に入ってきた。ショーケースの横の棚に、自然に紛れたブルーレイボックスが。

読了ありがとうございました。気を付けよう(0敗)。

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