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散逸した草稿 - 短編集。  作者: 毒島複廊
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題:おとまりさん

近所の謎人物のお話です。

 おとまりさん、という人がいる。


 制帽を被ったクマの着ぐるみを着た彼は、普段は近所を散歩するだけで何もしない。


 だがしかし、信号を無視して横断歩道を渡ろうとしている人がいれば直ちに引き止め、


「危ない」


 と一言、注意する。その時の力強さたるや、町内会で最強と噂される浦間さんですら勝てなかったほどだ。浦間さんは日頃からボクシングとジム通いでかなり鍛えているというから、おとまりさんは本当に強いのだろう。


 いつだったか、警察官がおとまりさんに尋ねた。何故、そんなことをしているのか。当然の疑問だ。交通安全指導は警察あるいは教師、親の役割であり、クマの着ぐるみを着た謎の人物がやることではない。


 おとまりさんの回答はシンプルかつ明白だった。


「危ないから」


 その一点張り。他に名前やら住所やらを聞こうとしても頭を振るだけで、何も言うことはなかった。


 とはいえ警察官も深く追求することはなかった。おとまりさんの存在により、地域住民の交通安全意識は高まっており、事故件数は少なくなっていたためである。深夜でも、車通りが全くなくても、必ず引き止めに現れるおとまりさんは、「赤信号を渡ってはいけない」という、至極当然の、しかしながら破ってしまっても抵抗がない規則を、守らなければならない黄金律たらしめていたのである。




 ある日、子どもが転がったボールを追いかけて道路に飛び出した。赤信号だった。おとまりさんはどこからか現れてその子を掴んだ。しかし、反対側から暴走したトラックが突っ込んできた。おとまりさんは咄嗟に


「危ない!」


 と叫んだが、空しく撥ねられてしまった。宙に舞う、着ぐるみと子ども。


 不思議なことに、その子は傷一つなくけろりとしていた。念のための精密検査も空振りに終わった。


 そして、その日からおとまりさんが現れることはなかった。

 今日も制帽を被ったクマの着ぐるみが中身を失ったまま転がっている。

読了ありがとうございました。

赤信号は渡っちゃダメですよ!危ないから。

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