題:アイドル嫌いのアイドルはつとめて。
アイドルが嫌いなアイドルの物語です。
文字数少なめなので、あまりバックグラウンドが見えないかも。
スポットライトを浴びているあいだ、私はアイドルだ。
歌って、踊って、喉が枯れるまで、足が棒になるまで。
「お疲れ様でしたーっ!」
挨拶は元気よく。
楽屋で、つまらない話をする。
やれ、誰が上手かったとか、あそこミスしちゃったとか、様々だけど、どれもどうでもいい。
「ハル、元気ないね。大丈夫?」
そう声をかけてくれるのは、グループ内でお姉ちゃんの役割をしているフユねえ。彼女は人を見るのが上手くて、ファンミとかでも、量産型にしか見えないようなオタクを一人一人見分けて個別に対応している。私はそれっぽく笑って、覚えてないことに不満を示されたら「顔覚えるの苦手でー!」とか言い訳するだけだ。
あまりファンが多くいるようなグループでもないから、その気になれば覚えられるけど。どうにも覚える気分にはならない。まだソシャゲのキャラの方が覚えられる。
「ごめん、大丈夫。ちょっと振り付け間違えちゃったから、今度は上手くできるようにって」
「ならいいんだけど。あんまり張り詰めすぎちゃダメだよ?」
そう言いながら上目遣いでこちらの様子を窺うフユねえは、正直可愛い。一番可愛い角度だと思う。フユねえは真面目だから、色々と模索しているのだろう。いいアイドルであるために、ファンに気を遣い、スタッフに気を遣い、同じグループのアイドルにまで気を遣う。
だからこそ彼女は愛されていて、だからこそ私は彼女が嫌いだ。
どこまでもアイドルだから。
読了ありがとうございました。