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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第二章 セイシュン巡りにゃ犬がでる
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第36話 集団

「ねぇーユッキー!昨日のビデオの続き貸しテヨ!続編あるんでショー?」


「あはは……見たことはあるけどビデオは持ってないんだよね。無印の時より人気なくて販売数少なかったみたいだから…」


 7月5日火曜日の午後15時。幸村一葉は普段通りに高校に通い、友人との平凡な談笑に望んでいた。


 一葉は先日桜井研磨と別れた後、桜井に渡したアシストブレスの代わりとして基地内に備えられた予備のアイテムをミカより受け取る。そしてその後は真っ直ぐと帰路に着き就寝。その後に組織から連絡が入ることもなかった為、彼女はごく普通の生活に戻ることとなった。


(…まぁなにも出来ることないって言われてたもんなぁ……)


 彼女自身、要らない人間だと追いやられるような不満はあったが、平穏に生活出来るに越したことはないと気持ちを切り替えて兎崎香織との談笑を楽しむ。


「なんだ残念…まぁそっカー。映画マスターのユッキーにも出来ないことはあるもんだネー」


「……私別にマスターじゃないよ?」


「え、マスターじゃン!点数つけるなら200点くらいのマニアでしょ!」


「まっ、マニアじゃないし…!」


 幸村一葉は映画マニアである。とても軽く語る事の出来ないほどのマニアだが、未だその事を友人へ告白してはいない。しかし告げずとも、彼女の親友はその真実に辿り着きつつあるようだ。


「んもぉ〜そういうの隠さないでいいヨ、ユッキー。()()な兎崎香織博士は言われずとも分かっているのデス!ユッキーは純度二万パーセントくらいのマニアだということを!!」


「…博識なんて言えるほど勉強出来ないでしょ!?」


「むふぅ…ふふ!でもユッキーよりは出来るんだよねーこれが!!」


「ぐはッ……!」


 話を逸らして否定しようとした一葉に思いがけ無いカウンターが打ち込まれる。一葉よりも彼女の方が学業成績は上、性格や態度だけでは人の博識さなど分からない、2人の関係がそれを物語っているだろう。


 カウンターを喰らった一葉は縮こまり、フラフラとした足取りのまま地面に転がる。


「…ほ、本当の事は言わないでよ……死ぬかと思ったじゃん」


「いやぁーごめん。でも本当なんでだろうね、ユッキー結構真面目な方なのに」


「…うるしゃい!生まれつきだよ!!」


「お、怒ってルー、ユッキー怒ってるのー!?」


 一葉は地面に顔を密着させた状態で、覗き込む兎崎を睨みつける。どうも今の言葉で彼女は機嫌を崩してしまったようで、頬をリスのように膨らませて睨みを鋭くしている。


 彼女の機嫌をどうにか解決出来ないか、兎崎は思い付く解決案を一葉へ伝える


「ごめんってバー。お詫びに帰りにはアイス奢るからさーー」


「…ならいいよ!」


「え、いいんダ!!」



   ◯



「ふぁーアイス冷たくておいしい……」


「にゅ?まさか奢られることを計算してあんな態度を!?…意外に策士だねユッキー!」


「あいや!そんな訳じゃないよ…でもおいしい」


 午後4時。先程の約束通り兎崎は学校からの下校中に一葉へ棒状のアイスを買い与え、そのアイスを幸せそうに彼女は舐めていた。

 しかしそんな彼女らの下校風景にも不穏な影は潜んでいる。先日の桜井の発見の通り、彼女ら2人にも張り付くようにアリのモンスターが追跡を続けていた。


(んぁ…やっぱりあのアリって人間に付き纏ってるんだ…でも町と比べると学校内じゃ余り見かけ無かったし…そんなにぴったりついて回ってる訳じゃないのかな?)


「ん?アイスとけちゃうよユッキー。棒アイスは早く食べなきゃ!」


「あ、うん。分かってるよ」


(考えても仕方ないよね……私には何にも出来ることはないって言ってたし…)


 日常へ戻ろうと、彼女は変わらず組織の構成員。モンスターという存在を身近に認識しながら平穏な生活に安堵することは難しい。しかし知識のない新米でありサポーターの彼女に出来ることがないのも事実、何処か取り残されたような寂しさで、一葉は下校の道に足を進める。


「あっという間に食べちゃっテ!意外に食い意地はってるネ!」


「そ、そんなことないよ!……というか今更だけど香織って今日部活行かないんだね。どうして?」


「あーなんか最近顧問の先生がまるっきりいないからって言ってグランド使えないんだー。市長選挙のこととかデ忙しいんだっテー」


「…選挙?」


「ほらほら、丁度あそこでやってるヨ」


 会話の最中で2人は立ち止まり、何のことか分からないと首を傾げる一葉に、兎崎は無邪気な声と共に指で方角を示した。



─ブ、ブッブーー!!


《えー皆様の声援、痛く感激しております。長岩蝶侍(ながいわちょうじ)長岩蝶侍(ながいわちょうじ)に清き1票をお願い致します》


 兎崎の指した先にいたのは巨大なメガホンを片手に言葉を述べるスーツ姿の男である。男は大勢の市民に囲まれながら感謝の言葉を添えている。その光景は所謂、選挙立候補者の選挙活動であった。


「あ、そっか…そういう時期なんだ」


 化野辛市では毎年7月1日から7月10日までの期間、この市の市長を決定する為の選挙活動期間が定められている。

 本日は7月5日、選挙立候補者たちは既に選挙活動の真っ只中にあるのだ。


「…7月に選挙ってなんか珍しい気がするね」


 今年化野川高校へ転校したばかりの一葉にはこの町の常識など分かりはしない。しかしその時、彼女はボソリとそんな疑問を口にする。


「んへぇ?そんなこともないでショー、ユッキーが元々いた地域と違うってだけじゃない?」


「…んぅ、まぁそうなのかな?」


「…あーでも本当は何ヶ月も前にやる予定だったとか聞いたことあるなーなんでだったかは忘れちゃっタ。まぁ別に大したことじゃないだろうケドー」


「……」


 何故そんな事に疑問を覚えたのか、今後この場面を振り返る一葉本人にさえ分かることではない。

 強いて理由をつけるなら、この時の彼女の疑問はある種の()()()()とでも言うべきもの、これから現れる異変への予感に違いなかった


 そんなことなどつゆ知らず、短く会話を終えた一葉と兎崎は再び下校の道へ足を進めようとした。


「ん?あれって……」


 だがその時、一葉の視界の端を見知った人物の菅田が映り込む。それは桃髪と小柄な体格が特徴的な男性、先日彼女が対面を果たしたばかりの獲得者、桜井研磨の姿である。

 彼がいたのは彼女等の話題に上がった選挙活動の行われている場所、その市民の固まる大衆の傍らである。だが一葉の記憶では彼は未知のモンスターの捜索に望んでいたはずだ。


 大衆に紛れて何をしているのか、一葉の中でそんな疑問が沸いてくる。


(…桜井さんなにしてるんだろ。モンスターの捜索と関係あるのかな……?)


「ユッキーどうしたノー?誰か知ってる人でも見かけター?」


「…な、なんでもない!選挙凄い熱心だなーと思って!!」


「なになに気になるじゃーン」


 一葉は咄嗟に嘘をつくが、その言葉は極めて疑わしい。疑問を持った兎崎は大衆の方へと目を向けた。すると…


「…んへ!?」


(え?)


 瞬間、兎崎から驚愕の声が上がった。

 まるで信じられないもの、珍しいものでも見つけたかのような声色だ。

 ただ咄嗟に態度を誤魔化したに過ぎなかった一葉には彼女の声の理由が分からない。しかしその答えはすぐに明かされることになった。


「あれって研磨()()じゃん!!」


 彼女のその叫びは、雑音に溢れた辺りの大衆の耳にも届くほどに巨大。大声で大衆の一部の視線が引き寄せられるような感覚もあった。

 そして事実として、彼女の叫んだ名前の人物は、彼女の叫びをしっかりと耳に入れたようで、声と同時にこちらを振り返り、何処か居心地の悪そうな態度で視線を向けている。


 しかし一葉にとって何より重要だったのは、彼女の発したその言葉だ。


「………せんぱい!?」


──先輩。


 そう呼ばれた彼は叫ぶ兎崎の存在に気付いて数秒、頭を抱えて悩む素振りを見せた後に頭を掻きむしりながらこちらへ近付いて来た。

 そして……


「…かなり…久しぶりだな。兎崎後輩」


 と乾いた声で言い放つのだった。



   ◯



「え、香織と桜井さんって同じ中学校だったんですか!?」


「ソ!そんでもって陸上部の先輩なノ!」


 対面した桜井と兎崎が語ったのは、2人が中学生の頃同じ部活動の先輩後輩の関係にあったこと。

 桜井研磨は19歳、数にすると一葉と兎崎の2つ上の年齢だ。確かに3年生、1年生として.共存が可能な年齢差である。


「まぁ先輩すぐ卒業しちゃったからそんなに長い付き合いじゃなかったケド、結構面白い先輩だったヨー。陸上部じゃエースだって呼ばれてたしネ!」


「んまっ!それほどでも…あったんだなぁコイツが!!」


「へ、へぇ……」


 自慢げに胸を張る桜井から一歩引き、溢れるような声で一葉は呟く。


(なんか意外………いや、そうでもないかな?)


 一葉にとって彼は初対面と変わらないほど短い関係性だが、先日の短いやり取りだけでも彼の人柄は概ね把握できた。軽薄でいい加減なお調子者、改めて思考すると彼女の親友と似通っている物がある。


「…しっかしこんなバッタリあっちまうとは思ってなかったぜ兎崎後輩」


「あ!そうじゃん。久しぶりとかじゃないヨ先輩。今までどうしてたのサー!!中学卒業した後急に連絡つかなくなっテ!部のみんな心配してたヨ!?」


「…まぁ色々あってな。でも安心しろって、なんだかんだ元気にやってるからよ」


「そうゆー問題じゃないジャン!こんな普通のところにいるんだったら普通会いにくるべきじゃなイ!」


「わるいな…すげぇ顔合わせ辛かったもんだからさ」


(……連絡つかなくって…組織関係のこと?)


 しばらく黙って2人の問答を傍観していた一葉はその会話について疑問を浮かべた。具体的に何があったのかなどと言葉を投げかけたくなるが、久しぶりの対面に割って話すのは無粋だろうと口を閉じた。

 そうしていると、兎崎が一葉の心境を察したのか切り替えるように会話を展開した。


「まー先輩がそんなに変わってないようなんでいいですヨ!……()()の事がそうなっちゃったのも…結局は先輩の自由ですもんネ」


「…本当ごめんな兎崎。そのうち何かで償うからさ」


「いーですよそんなノ。結局先輩の問題ですもン!ワタシは忙しーんです!今も友達と仲良くらんらんるーしてたんだかラッ!」


(……進学…)


 疑問に思おうと、一葉が2人の会話に割って入るはずはなかった。しかし言葉を交わす両者の表情は至って真剣、ただ容易く語れる内容ではなさそうだ。


「ま、じゃあそーゆーことデ!久しぶりに顔見れただけで満足だよ先輩っ!ワタシ達は楽しく()()()()()()()()()を再開するとしますワ!!」


「ま、まさか兎崎お前……()()()だったのかァ!?」


「ふふふふふ、ワタシは…大人なんだよ!先輩!」


「な、なななななにぃぃーー!!??」


「………え、急にふざけだした。すごく真面目そうに話してたのに……」


 急速過ぎる会話の変化に、思わず一葉は言葉を漏らす。彼女が唖然とするのを見て、兎崎と桜井は顔を見合わせて笑みを浮かべて噴き出した。


「ぷ…ははっ!」


「悪いな()()()()!ちょっと暗めの話を続けんの苦手なんだわ!あと知らねぇ話バカバカ進めちまってごめんだな」


「え、ぁ……すいません顔に出てました?」


「いーんやなんとなくそんな気がしただけな」


 どうも一葉の内心を感じて和ませる意図があったようだが、鬱陶しいほどの悪ふざけである。鬼離山桃太辺りが入れば拳を振りかぶっていてもおかしくはないだろう。


「うぅん!これで最終確認終了だヨ!先輩が全然変わってないって分かったから!それじゃっ終了。また今度です先輩っ!」


「おうっ!またな後輩!」


「あの桜井さん…ちょっとまだ話したいことが……」

 

 奇妙なやりとりで意思を確認しあった兎崎と桜井は別れの挨拶を始めるが、すかさず一葉は声を上げて彼の足を止めた。

 兎崎の友人としてではなく、一葉が組織の一員として、必要な会話をする為である。


「…今、ここで何してたんですか?モンス………()()はどうなっているんです?」


「…まぁ、そうだよなぁ。新米でも…一員だもんな」


 今ここで、こんな選挙活動に集まる大衆の付近で桜井研磨は何をしていたのか。それを聞かずして幸村一葉は黙れない。異形と戦う組織の一員として、疑問を持たずには居られない。


 そうして一葉と桜井が顔を見合わせると兎崎は「ぬっ?」首を傾げた。


「あれ、そーいえば2人ってどこで知り合ったノ?ユッキーこの辺に引越してきたの最近だから昔の知り合いとかじゃないよネ?」


「あ、えと……さ、最近やってるバイト先の先輩なんだよ!」


「え、ユッキーがアルバイトっ!?きょ、今日で一番驚いたよ……」


 騒然と驚愕する兎崎に、桜井は素早く言葉を押し付ける。


「んでさ兎崎、その仕事関係で話しておく事が出来ちまったからお前のデート中断しちまっていいか?諸々合わせて今度詫びするからさー」


「ご、ごめんね香織」


「あー!別にいいヨー何せ私達どーきゅーせーですから!デートなんていつでもいくらでも出来るのでス!それじゃユッキーも先輩もまたネー!」


 軽快な走りで飛び出して、兎崎はあっという間に目に見えないほど遠くに消える。素晴らしいほどに素早い場面からの退場だ。こうしてスムーズに、一葉と桜井は本題へ移れる。

 選挙活動の行われる一帯から距離を取り、桜井は一葉の疑問に答え始めた。


「…幸村さん、聞いたことに答えると今オレはちょっとした警戒をしてたところなんだよ」


「…?警戒って何に対しての警戒ですか?」


「…昨日話した通り、オレの能力は感覚を共有すること、周囲20km範囲内にいる生き物との感覚の共有だ。これを使えばセンサーみたいに人間の位置を割り出せるし、今回のアリみたいにちっさいモンスターだろうと関係なく位置を探し出せる」


「…?」


「……実はこの能力は応用すると、感覚の共有を通して生き物以外のものの感覚っつうか……物体の状態みたいなのを把握できたりもするんだ。例えば木がどれだけ樹齢を重ねてるとか、コンクリートの劣化が進んでるかとかだよ」


「…?そ、そうなんですか。でもそれが今なんの関係が…?」


 一葉は理由を催促して桜井の顔をじっと見つめる。するとまるで彼女に見られる事を避けるように彼は首を逸らす。


「あ、あの……」


「…変な回りくどい言い方はやめとくか……思い切って話すぜ?……あそこ…」


「…あそこ?」


 桜井は選挙活動の行われている広間の方を指差した。そこでは今当に、立候補者による演説の最中である。一葉と桜井の立つ場所からもはっきりとその演説は聞き取れる。


『私に、清き1票を!長岩蝶治に1票をお願い致します』


「…あれがどうし──」


 一葉は指の先を見てすぐに振り返り、再び疑問を投げかけようとした。しかし彼女の言葉を待たずして、桜井研磨は疑問の解答を告げる。



()()があんだよ。あの広間の……あの人だかりの中心に…!!」



「……へ?」


 突如として彼から放たれた物騒な発言に、一葉はただただ間抜けに首を傾げることしか出来なかった。











──────────────

桜井研磨(さくらいけんま)(19) 誕生日10月2日

身長158cm 体重50kg 血液型B

異形対策組織:SEED 獲得者

配属地域:中国地方 広島県 化野辛ばけのつら

好きな食べ物:オムライス 好きな言葉:行き当たりばったり


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